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先日公開されたクリント・イーストウッド監督主演作品【運び屋(クリント・イーストウッド主演映画のあらすじ感想:90歳の麻薬の運び屋】という映画は、アメリカに住む高齢の白人男性が、麻薬カルテルのために麻薬の運搬をした実話を描いている。
劇中ではクリント・イーストウッド演じる主役の白人男性がテキサス州のエル・パソで麻薬を積んで次の中継地点に運んでいるのだが、現実世界でもメキシコからアメリカに流入する麻薬のハブになっているのがエル・パソである。
メキシコと国境を隔てている州はカリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサスの4つの州だ。国境は3145kmに及ぶのだが、この広い国境を警備しているのがアメリカのCBP(アメリカ税関・国境警備局)だ。
アメリカメキシコ国境には現在進行形で不法移民が日々押し寄せている。
アメリカ・メキシコ国境に押し寄せているのは、かつての不法移民の代名詞でもあったメキシコ人ではなく、中央アメリカのホンデュラス、グアテマラ、エルサルバドルの人々である。
彼らは「キャラバン」と呼ばれ、貧困、不安定な政治情勢、ギャングの抗争、麻薬戦争から逃れるため国を捨て、アメリカに新天地を求めて2018年から突然大移動し始めた。中央アメリカのこの三か国は、いずれも非戦闘エリアで最も危険な国の一つである。
そんな中、不法移民の裏に麻薬カルテルの影がちらつき始めている。
メキシコ国境に押し寄せる不法移民の裏に麻薬カルテルの影か
中央アメリカから流入する不法移民たち
中央アメリカからの大勢の不法移民の流入は、2018年後半から急速に加速をみせた。2019年になってからも何千人、何万人という人々がアメリカメキシコ国境へ押し寄せている。
その数は2月に検挙されただけで76,325人。3月になってからも1日で最大3700人もの不法移民が逮捕されている。3月になってからもその勢いは留まることを知らない。
USメキシコ国境の2018年検挙数は40,412件だったが、2019年は1~3月ですでに271,140件で、このままいくと2019年だけで70~80万人に達するという。
3月6日 中央アメリカから700人を検挙
3月7日 グアテマラ、ホンデュラス、エルサルバドル、ブラジルから1000人を検挙
3月15日 中央アメリカ出身の52人がカリフォルニア州サンディエゴのBorder Field State Parkのフェンスにあけた穴を通ってアメリカに密入国し、全員逮捕された。次の動画はその様子を録画したものだ(CMの後に流れます)。
3月16日 このフェンスの穴からさらに10名が不法入国し、逮捕された。
3月19日 ホンデュラス人23名、グアテマラ人1名がビーチのフェンスから不法入国し逮捕された。
3月21日 Friendship Park付近でもロープを使ってフェンスを乗り越えているという通報
3月25日 3700人以上検挙
3月26日 テキサス南東で25,000人検挙
3月27日 アリゾナ 2日で800人
不法移民の影に麻薬カルテル?
米国アリゾナ州ユタとメキシコの国境で、グアテマラからバス3台でやってきた人々がフェンスの下に穴を掘って越境し、アメリカのCBPに逮捕されている。CBPによると彼らは報酬を受け取り、アメリカに不法入国して捕まるように指示されているという。(破られたフェンスは172にも上る。)
これは一体どういうことなのだろうか?
かつてアメリカへの不法入国といえば、麻薬カルテルと同盟を結んでいるコヨーテと呼ばれる密入国グループがメキシコの貧しい人々から金を巻き上げて密入国させるというものだった。
ところが2018年からキャラバンとしてやってくる中央アメリカの不法移民は、なんと麻薬カルテルから報酬を受け取って(平均7000㌦と報道されている)、アメリカに入り、CBPに捕まり難民申請をするように指示されているという。
CBPのスポークスマン、ジョー・ロメロ氏によれば、キャラバンの不法移民は目くらましのために利用されているという。大勢の不法移民を送りこむことでCBPを機能不全にさせるのが目的だ。CBPが大勢の不法移民の事務手続きや処理で精一杯で国境警備が手薄になったその隙に、殺人犯、レイプ犯、ペドファイル、カルテルメンバー、ギャングメンバーといった凶悪犯や犯罪者を越境させる。
ロメロ氏によれば、彼らは密入国者の流れをコントロールしていて、いつどこからフェンスを抜けるかまで指示しているという。
あるCBPエージェントによると、密入国者の中には逮捕されるやいなや、手続きをする前に亡命や難民指定を求める者がいて、彼らはプロセスを知っており、次の段階に進むために何を話すべきかコーチされているようだという。
カルテルが流入させるのはもちろん犯罪者だけではない。麻薬カルテルの最大の目的はドラッグの密輸である。
CBPのリオ・グランデ・バレー支部はUSメキシコ国境2000マイルのうち320マイルを監視しているが、今年だけですでに36.5トンの麻薬を押収している。
麻薬カルテルが大量の移民を流入させ、CBPの目をかく乱して警備を手薄にしてドラッグの密輸を試みるだけでなく、より自分たちにリスクが少ない方法ーつまりキャラバンたちにミュール(運び屋)としての報酬を払い、ドラッグを仕込んで密輸させるという手を使うことも考えられる。
麻薬カルテルは中央アメリカからアメリカを目指す人々を百人単位で誘拐していることも明らかになっている。
トランプの非常事態宣言と野党の反トランプ感情
CBPは収容人数を遥かに超えた不法移民を抱え、収容所の対応や手続き、不法移民のケアのために現場から呼ばれ、CBPの機能は限界点に達していると公表している。
これを受けてトランプ大統領も国家非常事態宣言を出しているのだが、野党・民主党や人権団体から猛反対を受けているというのが現状だ。
ワシントン・ポストは、民主党が実証データを無視して反トランプ感情を優先させていることに危惧を抱いているという無党派の高官の言葉を引用した。
民主党は国家非常事態ではないという認識を示しており、民主党のリチャード・ブルーメンソール上院議員は、USメキシコ国境の不法移民の群れをこう言っている。
still at a historic low compared to other times in our nation’s history
(我が国の歴史的にみて低水準である)
The Washingotn Post
これに対し、CBPコミッショナーのケビン・マカリーナンはこう言っている。
No, Senator, they’re not. We’re on pace for over 700,000 crossings this year — that’s closer to historic highs than historic lows.
(いいえ、上院議員、低水準ではありません。今年だけで密入国者が70万人を越すペースです。歴史的低水準ではなく、歴史的高水準であると申し上げます。)
The Washingotn Post
密入国者を釈放せざるを得ない状況
CBPの収容所はすでに満員で、施設の外にキャンプを設置して不法移民を保護している状態だ。しかし、一度に数千人の不法移民たちの食事、ケア、スナック、飲み物、粉ミルク、洋服、タオル、生理用品の用意や提供など費用は高額に上り、国境警護の人員が収容されている不法移民のケアに回されるなど、CBPの機能と受容力はともに限界に達している。
そのため、CBPは不法入国者を解放せざるを得なくなった。3月19日・20日の2日間で250人を解放したと伝えられている。
人権団体は、不法移民を解放することによって国境にカオスを引き起こし、トランプ大統領がいう国家非常事態を宣伝するのが目的だと批判しているが、CBPはこれは政治的策略ではなく、収容所がマックス状態で機能不全を迎えており、移民だけでなく国境警備隊員も安全を脅かされていると説明した。
アメリカに不法入国し、CBPに捕まって滞留し、CBPが対応できなくなって解放されるのを待つーこれが現在の不法移民のアジェンダになりつつある。
あるエージェントはこう語った。
かつてメキシコからの不法移民は単純なものだった。逮捕し、強制送還するとまた舞い戻ってくるので、また捕まえる。いつも同じメンバーだった。1日に同じ顔を3回捕まえて戻したことさえある。しかし今は全く知らない顔を数万人単位でプロセスしなければならない。前例がなく、CBPは未知の領域に晒されている。
さらに、このように収容不可能になり解放されることを狙ってさらに大勢が押し寄せることも考えられる。
CBPコミッショナーのケビン・マカリーナンはこう呟いた。
It reached a breaking point.
追記:
3月31日、さらに数万人規模のキャラバンが中央アメリカからアメリカへと向かっている知らせを受けて、トランプ大統領はキャラバンを止めなければ国境を封鎖すると宣言した。
メキシコは中央アメリカからの不法移民に対し、メキシコ内で1年間合法的に働けるビザを発行することにしたが、キャラバンはメキシコではなくアメリカを希望しているためキャラバンを止める効果がない。メキシコ政府はこのビザの発行をすでに中止している。
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