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【カルテル・ランド】メキシコ麻薬戦争ドキュメンタリー:絶望の地はここにある

カルテル・ランド

Cartel Land (2016)


メキシコ麻薬戦争のドキュメンタリー「カルテル・ランド」を視聴しました。本作は R指定です。残酷な画像がいくつかあります。

メキシコのミチョアカン州。 小さな町の外科医、ドクター・ホセ・ミレレスは、何年にもわたり地域を苦しめ続けている凶暴な麻薬カルテル “テンプル騎士団”に反抗するために、市民たちと蜂起を決行する。

一方、アリゾナ砂漠のコカイン通りとして知られるオルター・バレーでは、 アメリカの退役軍人ティム・フォーリーが、メキシコの麻薬が国境を越えるのを阻止するため “アリゾナ国境偵察隊”と呼ばれる小さな自警団を結成していた。

二つの組織は徐々に勢力を強めるが、組織の拡大とともに麻薬組織との癒着や賄賂が横行してしまう。 正義の元に掲げた旗は徐々に汚れ、善と悪のボーダーラインは不鮮明になっていく...。

引用:カルテル・ランド(字幕版)Amazon

 

【カルテル・ランド】

監督はマシュー・ハイネマンという現33歳の若手監督。本作カルテル・ランドは2016年のアカデミー長編ドキュメンタリーにノミネートされ、プライムタイム・エミー賞 撮影賞 ノンフィクション番組部門を受賞しています。

カルテル・ランドのマシュー・ハイネマン監督

マシュー・ハイネマン監督

製作総指揮は、アカデミー賞作品「ハート・ロッカー」やビン・ラディン暗殺の軌跡を描いた「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグローです。

メキシコの麻薬戦争が激化したのは、約12年前からです。

本作は、メキシコの麻薬カルテルに家族や親戚を殺された人たちが同士を募り、自分たちの町は自分たちで守ろうと立ち上がった自警団を追った映画です。

しかし、残念ながら、希望に溢れた話ではなく、自警団が大きくなるにつれ、統制も取れなくなり、癒着や犯罪に手を出す者も現れ、結局は麻薬カルテルと何ら変わらない存在になるといった絶望的な話です。

映画の舞台は、メキシコ南部のミチョアカン州。下の図では、ブルーのエリアに位置し、テンプル騎士団、ラ・ファミリア、2014年にシナロア・カルテルから分離したニュー・ジェネレーションというカルテルの支配地域です。

 

メキシコの麻薬カルテル事前知識

メキシコのドラックカルテルや麻薬戦争については、アメリカ直下の国ということもあってある程度情報を追いかけていました。メキシコのドラッグカルテルの残虐性を見聞きしていたこともあって、そのドキュメンタリーを撮影するなんて自殺願望があるのかと疑いたくなりました。

戦争や紛争地帯をのぞけば、世界で最も危険な都市の上位に必ずメキシコの都市が1つは入っています。どのぐらいメキシコがヤバイかと言いますと、ISISの上を行くのではと思うくらいヤバイ状態です。

たとえば、カルテルを批判した女性弁護士は誘拐され、拷問の上、だるまになって路上に捨てられました。体にはナイフでメモが突き刺さり、「カルテルを批判する者はこのメス豚のようになる」と書かれていました。

カルテルとの戦いを公言した勇気ある女性市長は、カルテルに襲撃され、非人道的なために使用が禁止されているダムダム弾を撃たれ、奇跡的に命は取り留めましたが、人工肛門の使用を余儀なくされました。

彼女は屈せず、その後も対カルテルを公言していましたが、ある日、子どもと二人で運転しているところを襲われ、誘拐され、後日、野原で変わり果てた姿で見つかりました。せめてもの救いは、彼女は拷問もレイプも受けることなく、頭に一発の銃弾を撃ち込まれて亡くなったということだけです。また、彼女の必死の請いのせいなのか、子どもは誘拐せず、そのまま車に残っていました。

カルテルと戦う者は、政治家、警察、ジャ―ナリスト、弁護士、誰であっても抹殺されています。困ったことに腐敗も相当なものなので、警察内にもカルテルの息のかかったものが入り込んでいます。

あるジャーナリストがインターネット上でカルテルを批判していたところ、インターネットプロバイダーの従業員の中にカルテルの息のかかった者がいたため、住所も突き止められ、ジャーナリストも命を落としています。

メキシコのビューティコンテストで優勝するような美女の中には、カルテルに目をつけられ、情婦にされる女性もいます。ミス・シナロアは、カルテルのメンバーと同乗していたために襲撃されて命を落としました。

映画の中では、ライム農場で働く家族をカルテルに惨殺された女性がインタビューに応じていました。ライム農場主がカルテルへの上納金を拒んだために、ライムをつむ従業員を惨殺したのです。

メキシコの人気リゾート地アカプルコでも数年前に麻薬カルテルの襲撃があり、ホテルにいたアメリカ人の旅行客が数十人殺されました。

カルテルの手口は残酷極まりないものなので、捕まってしまったら頭に一発撃ってもらうのが唯一の救いとしか言いようがありません。

実は、筆者は、麻薬戦争が激化する前にメキシコのモンテレイに一度行ったことがあります。モンテレイはメキシコ第3の都市ですが、今は新興カルテルのロス・セタスが支配している地域となっています。

メキシコの麻薬カルテルには、古参のシナロア・カルテルを筆頭に、ガルフ・カルテル、ラ・ファミリア、フアレス・カルテル、テンプル騎士団、 そして新進気鋭のロス・セタスなどがあります。他にも小さなグループがあり、シンクタンクStratforでは、2017年現在、麻薬カルテルの支配地域を3つのエリアに大別しています。

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Photo courtesy: Stratfor

オレンジのエリアが、古参シナロア・カルテルの支配地域で、その中に小規模の麻薬カルテルが共存しています。

ブルーのエリアは、テンプル騎士団、ニュー・ジェネレーション、ラ・ファミリア・ミチョアカナの支配地域です。

グリーンのエリアは、ロス・セタス、メキシコ最古のガルフ・カルテルの支配地域です。

この10年で悪名を轟かしたのは、ロス・セタスで、比較的若いメンバーが多く、手口が非情で残酷なことから一気にその名は知れ渡りました。上述の女性弁護士の殺害は、ロス・セタスによる犯行です。

テンプル騎士団というのも、実は最初は麻薬カルテルから住民たちを守るカルテルと謳っていました。もちろん、そんなのは嘘っぱちで、他のカルテルとなんら変わりはありません。

2016年のメキシコの殺人率は、前年比で10%上昇し、2012年以来最悪の数字となっています。大きなドラッグ・カルテルから派生した小さなグループは、大きなカルテルに比べると不安定で、予測不可能な動きをすることから、そのエリアでは殺人率も上昇します。

先月でしたでしょうか、やはり麻薬カルテルを扱ったNetflixの人気ドラマ「ナルコス」の製作スタッフがメキシコの麻薬カルテルに銃撃を受けて、ハチの巣にされて殺害された事件がありました。彼は撮影地となる場所を探しに行っていただけなのですが、運悪くカルテルの毒牙にかかってしまったのでしょう。

なお、麻薬カルテルがなぜそんなに力があるのかと言いますと、本作でもカルテルのメンバーが告白している通り、根底には貧困があります。生活のために仕方なくカルテルに入ってしまう住民も少なくありません。警察や軍人もカルテルに引き抜いているので、カルテルに奇襲攻撃をかけようにも情報が筒抜けだったりして、思うように捜査は進みません。

住民も、カルテルに不利なことをすれば、自分だけではなく家族もろとも皆殺しにされてしまうことが分かっているので、何もできません。カルテルが残虐な殺し方をして、インターネットに載せたり、公衆に変わり果てた人間の姿を晒すのも、人々を恐怖で支配するためです。

麻薬がどのぐらい儲かるかというと、たとえばコロンビアで2000㌦(20万)のドラッグを購入したとします。それをアメリカーメキシコ国境らへんで売ると、これが20,000㌦(200万)になります。そしてこれをフロリダで売りさばくと、100,000㌦(1000万)になるわけです。

 

【カルテル・ランド】の感想

以前に旦那がこのドキュメンタリーをテレビで見ていて、断片的に一緒に見たのですが、全部を見ていなかったので改めて視聴してみました。

麻薬カルテルの残虐性についてはすでに知識があったので、驚くことはそれほどありませんでしたが、知識がない人は、本作を見たら、あまりの惨状に胸を痛めることになるでしょう。

自警団の存在も知っていたので、自警団のリーダーであるホセ・マニュエル・ミレレス氏がどうなったのか気になっていたのですが、まさかそういうことになっていたとは。

自警団が政府やカルテルとの癒着に陥ったときと並行してミレレスがエロジジイの一面を見せた時は、驚きましたが、形や立場は違えど、信念や倫理観の欠如といった目に見えないインフラが現在のメキシコにはないことを実感せざるを得ませんでした。

悲しいことに、自警団の中から犯罪に走ったりする者も出てきて、結局政府やカルテルとの癒着に行きついてしまいます。自警団が出てきた時、人々はおそらく希望を抱いたはずですが、その希望がわずか数年も経たないうちに同じ穴の狢であることが分かったとき、今度は絶望を抱いたでしょう。

本作では、アメリカのアリゾナで国境を偵察している自警団の存在も紹介しています。