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【運び屋】クリント・イーストウッド主演映画のあらすじ感想:90歳の麻薬の運び屋

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運び屋

前半、だいぶ笑かしてもらった。

後半、ええ話だった。

クリント・イーストウッドは何歳になってもクリント・イーストウッドなんだねぇ。

 

【運び屋】作品情報

原題:The Mule

公開年:2019年

監督:クリント・イーストウッド

出演:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、マイケル・ペーニャ、アリソン・イーストウッド、アンディ・ガルシア

上映時間:116分

皆様待望のクリント・イーストウッド監督作品です。

DEA(麻薬捜査官)に「アメリカン・スナイパー」でも起用したブラッドリー・クーパー、ヒスパニック俳優としては余りにも顔の売れたマイケル・ペーニャ、そして娘役にイーストウッドの実の娘アリソン・イーストウッド(父親に似て美人!)、麻薬王にアンディ・ガルシアが出演しております。

 

【運び屋】あらすじ

園芸家で好き放題やっていたアール(イーストウッド)は、家族からも見放され、ついには園芸経営もうまくいかなくなり、店を閉めることに。お金もなくなったアールは、たまたま知り合った男から仕事を請ける。

90歳にしてドラッグの運び屋になった白人男性の実話を基にした話である。

ちなみに麻薬カルテルはメキシコの最大古参カルテルであるシナロア・カルテル。あの麻薬王エル・チャポのカルテルである。

なお、本作でも麻薬の積荷場所はテキサス州のエルパソになっていたが、リアルライフでもエルパソはメキシコからの麻薬密輸のハブになっている。

 

【運び屋】感想

ある日、私たちのコメントを無視して「運び屋」を早々に見に行ったふかづめさんが

88歳の巨匠が歌いまくり!緊張感ゼロの一人カラオケドライブ

運び屋 - シネマ一刀両断

とレビューで言っておりました。

師匠に楯突くのもどうかと思って「へへっ、おもしろかった」とか言ってはみたものの、ぶっちゃけ、こんな思いを抱きました。

ドラッグの運び屋なのに歌いまくってカラオケドライブしている…?クリント・イーストウッドが…?

そんなわけあるかい。

そんな思いを抱きながら視聴する前半戦。

クリント爺さん、クッソ楽しそうに歌ってた。

ふかづめさんがちゃんと正しかったです。

楽しそうに歌ってるどころか、カルテルメンバーの命令は無視するわ、ドラッグ積んだまま好き勝手にドライブするわ、車を停めて人助けするわ、美女と3Pするわ(知ってるだけで2回)、やりたい放題やないか。

それこそ後半になるとクリント爺さんを気に入ってる麻薬王アンディ・ガルシアが下剋上を食らったことでクリント爺さんが好き放題できなくなったり、元妻が病床に付したり、ブラッドリー・クーパーとペーニャによる捜査の手が迫ってきたりと暗雲が立ち込めてくるものの、思い返してみるとメインテーマはむしろ…

  • クリント爺さん、歌う
  • クリント爺さん、ミレニアルをディスる
  • クリント爺さん、インターネットとスマホをディスる
  • クリント爺さん、若い美女と戯れる
  • クリント爺さん、ポリティカリー・インコレクト
  • クリント爺さん、口が悪い
  • クリント爺さん、最後に好き勝手を反省

麻薬の運搬はむしろサイドストーリーなんじゃないかと思うような奇異な映画であり、それこそふかづめさんの「クリント・イーストウッドは変態」という言葉を噛みしめないわけにはいかんめえ。

クリント爺さんはまずメキシカンのギャング(カルテルの手先)メンバーに会います。最初は何を運ぶかも知らないままギャングのガソリンスタンド?の車庫に向かうんだけど、向かったら銃を持ってタトゥー入れた坊主の怖そうなメキシカンギャングたちが待っていらっしゃる。

普通の人間ならここでビビってキョドラーになるところだが、クリント爺さんがあまりにもマイペースなので

「お爺ちゃん、あんたクレイジーだろ?」と言われます。

とりあえず「そそ、クレイジー」

と返します。

メキシカンギャングが「あとでテキスト送るから」というと

「・・・テ・・・テキスト・・?」

「テキストの送り方分かるか?」

「えーとねぇ・・・」

分からないらしい。

すると丸坊主の怖そうなメキシカンがご丁寧にテキストの仕方を教えてくれる。

なんだこれ。

(ふかづめさんも「なんやこれ」と言ってらっしゃるけど、本当に「ワッツディス?」なわけです。)

ではクリント爺さんの様子を振り返ってみましょう。

運び屋1回目

カラオケタイム始まる。のっけから。

金を手にした爺さん、金の入った封筒をみて、喜びの「Shit」。

運び屋2回目

ギャングメンバーに「やっぱりテキスト送るのは無理だったねー」と言われた負けん気の強いクリント爺さんは「いや今度は鬼のようにテキストしまくってやるぜ!」と言い返す。

運び屋3回目 

いつもより荷物の量が多いために中身が気になって道中でダッフルバッグを開けてしまうクリント爺さん。

コカインが入っているので「ホーリーシッ、ホーリーシッ」と呟いてると後ろからタイミング良くいや悪く「大丈夫ですか?」と警官が現れる。いつのまに。しかもK9部隊、車の中にジャーマンシェパードおる。

とっさの機転でハンドローションか何かをめちゃくちゃ手につけてその手を犬の鼻に押し付けてその場を切り抜けるクリント爺さん。伊達に年はとってない。

3回目を無事に運んだ爺さんは3万ドルを手にしてコーフン

「落ち着け―落ち着け―」と独りごと。

その足でカラオケバーで楽しそうにボーカルと一緒に踊るクリント爺さん。

運び屋4回目とんで5回目

カラオケ。

運び屋8回目

メヒコにいる麻薬王アンディ・ガルシア。グリンゴやアジア人には見分けがつかないと思っているのか、アンディ・ガルシアはどっから見てもキューバ系かイタリア系にしか見えんよ。

アンディ・ガルシアがクリント爺さんをいたく気に入って、大事な荷物をクリント爺さんに運ばせるために二人の部下(フリオと誰か)を送り込む。

クリント爺さん「いつもの兄ちゃんたちはどこだ。お前本当にメキシコ人か?」と言うと、フリオはクリント爺さんに銃を向けて「うるせーカブロン(悪いスペイン語)、言うことを聞きやがれ」と言うが、クリント爺さんは意に介さず「わしゃ戦争にも行ったんだぞ。そんなもんで怖がると思うか」といって車を走らせ、いつもの兄ちゃんたちのガレージに車庫入れする。(フリオの中の人は本当はアルジェンティーナ人なので、クリント爺さんが「お前本当にメキシコ人か?」というのも理にかなっていたりする。)

この頃にはクリント爺さんはメンバーに「タタ(スペイン語でパパ)」という愛称をつけられている。

クリント爺さん「甥っ子はどう?」

ギャング「元気だよ、気にかけてくれてありがとう」

とメンバーと世間話をしたあと、若いメンバーにスマホを見せて

「記号の入力の仕方はわかったんだけどさぁ、数字の入力がね・・・?」というと

「貸してみな、こうやるんだよ。大丈夫、簡単だから。ここ押してー」と丁寧に教えてあげるギャング。

こうして爺さんとメンバーが和気あいあいとしていると、フリオともう1人が入ってきて「何ちんたらやってやがんだ、早く荷物を積んでとっとと出ろ!」と怒り始める。

爺さんが口答えすると「運び屋は口を開くんじゃねえ」と言って怒られたので、若いメンバーと「やな感じよねー」とヒソヒソ話し合うクリント爺さん。

せかすフリオを尻目に、クリント爺さんはギャングメンバーの兄ちゃんに「あのマザーファッカー野郎を撃ち殺しちまいな」とこっそり言うと、メンバーの兄ちゃんも「任せときな」とこっそり返す。連帯感。

そしてカラオケ

ひそかにクリント爺さんの車に盗聴器を仕込んでおいたフリオともう1人の男は、クリント爺さんの後ろを走りながらクリント爺さんのカラオケを道中ずっと聴かされる羽目に。

しかし何故かフリオの連れが一緒にカラオケ歌い始める

さらにはフリオまで一緒に歌い始める。嘘だと言って!

なんだこのピースフルな展開。

クリント爺さん、調子に乗ってボリュームあげちゃう。

道中、タイヤがパンクして道路脇で立ち往生している家族がいたので、クリント爺さん親切に止まってあげる。お父さんはタイヤの交換の仕方が分からないのでタイヤの交換方法をググろうとしているらしいのだが、電波が届かない。

すかさずミレニアルをディスりながらも親切にタイヤ交換を助けてあげるクリント爺さんだが、「ニグロのあなた達」と言ってしまい、黒人に眉をひそめられ、「今はニグロとは言わないんですよ。ブラックといいうんです」とたしなめられると「マジか?」とビックリするクリント爺さん。

ニグロが黒人を指す差別語になったのはいつだったか。スペイン語では黒はネグロなので黒人もそのままネグロなのよね。スペイン語ならネグロでいいの?と聞きたいよ。

日本でも乞食とかキチガイという言葉が放送禁止用語になったらしく、梅沢トミオさんが自分のことを指して河原乞食だったとTVで発言したあとにTV局が謝罪していたけれど、自分のことを指して言っているのに禁止・謝罪ってどうなの?それは単なる言葉狩りっていうんじゃない?だって「乞食というのは今では差別用語でして」とか「河原乞食という言葉があるのですが、それはこういう意味です」という趣旨を話す時にも言えないということになる。言論封殺と何が違うのか。

さて、モーテルについたクリント爺さんとカルテルメンバー二人。カルテルメンバーがモーテルの2Fから車を見張る一方、1Fのクリント爺さんはドアを開けたまま娼婦二人と踊って楽しんでいるのが見える。麻薬カルテルのフリオたちさえ吃驚する無手勝流ぶり。

もちろんフリオたちはその後もクリント爺さんに振り回される。

フリオはたまらずボスのアンディ・ガルシアに電話をかけて

「もうヤダーこの爺さん!言うこと聞かないし、命令は無視するし、やりたい放題で面倒見きれない!殺しちゃっていい?」

と泣きつくのだが、麻薬王アンディ・ガルシアまでもが

「爺さんが予測不可能な動きをするのはいいことだ。爺さんの好きなようにさせてやれ」

とか言う。

クリント・マジック!

運び屋9回目

カラオケタイム。

昼飯に立ち寄った場所で「白人がこっちを凝視している」とフリオが言うと、クリント爺さんが「白人だらけの場所にビーナー(メキシコ人をさす差別語)が2人いるからだ」というクリント爺さん。

ちなみにここでクリント爺さんは

two beaners and a bowl full of crackers

と言ったのだが、two beanersというのはフリオ達二人メキシコ人(差別用語)のことで、a bowl full of crackers は白人のことを指す。ビーナーというのはbean(豆)を食う人という意味で、主食が豆のメキシカンを指す差別用語。クラッカーは白いことから白人を指す。豆もクラッカーもメキシカン料理で一緒に出てくるので、クリント爺さんは白人とメキシカンを食事に例えて笑ってたというわけだ(差別用語で)。

普通ならここでボコボコにされるだろうが、爺さん自らの差別ギャグに笑って済ます。

カラオケタイム。

ついには麻薬王アンディ・ガルシアの邸宅にまで招待され、若い綺麗な女性をあてがわれて幸せなクリント爺さん。

ベッドで美女二人に囲まれて

「マンマミーア。心臓外科医呼ばないと」

とか言ってるクリント爺さん、再び3Pにあけくれる。

運び屋12回目

カラオケタイム。まだ歌うの!?

確かこれが最後のカラオケ。

この辺で元妻が病床に倒れるので、カルテルの命令を無視して行方をくらましてしまう(元妻の家に)。

実の娘を前に「ワシはひどい父親だった。ひどい夫だった。」と告白して謝るクリント爺さん。実際のクリント・イーストウッドはどんな父親だったのだろうか。

あと終盤、元妻を看取るために行方をくらましていたクリント爺さんだけど、カルテルのメンバーがボスが命じたにも関わらずクリント爺さんを痛めつけただけで殺さなかったのは、クリント爺さんへの慈悲で良いのかな?

さぁ、何回カラオケしてた?

改めて師匠ふかづめさんの【運び屋】のレビューを読み返してみて、イーストウッドの不要なものを排除した映画の凄さを実感した次第であります。

運び屋とか麻薬カルテルというのはあくまでおまけであって、とにかくクリント・イーストウッドを描いた作品という風に観ないと「アクション全然ない」「スロー」「中途半端」というような低評価がつくんじゃないかな。私はイーストウッド好きなんで、この映画も好きだけど。

また、ポリコレ人や差別に過剰にセンシティブな正義感溢れる人は、偏屈な差別主義者の高齢者の戯言、くだらない、と見る向きもあるかもしれない。私はイーストウッドがポリコレのバカバカしさや言葉だけで「差別差別」と騒ぎたてることのバカバカしさ、タイヤ交換もググらないとできない人間を量産した嘆かわしい社会をストレートに批判していたように思えたけれど。

最後に、イーストウッドはレビューするのも憚られる気がするので、ふかづめさんのこの名言をじっくり読んでもらいたい。

この部分を拝読したとき、まだ映画を見ていない私には半分しか意味が解らなかったのだけれど、映画を見終わった今は完璧に解る。ふかづめさん、やっぱSUGEEEE。

あるいは、デイリリーが咲き誇るファーストショットはラストシーンでも綺麗に反復されているが、人がこの花になんらかの美しいメタファーを読み込もうとしても、それは映画中盤に紛れ込んだアンディ・ガルシアの豪邸の庭にデイリリーをみとめたクリント爺さんが「この素晴らしい家を建てるのに何人殺したんだ?」という容赦のない一言によってデイリリーのメロドラマは鮮やかに失効してしまう。『ブルーベルベット』(86年)のデヴィッド・リンチがまるで優等生だ。

運び屋 - シネマ一刀両断

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「デイリリー(ユリ科)きれぇ~」刑務所にてデイリリーを愛でるクリント爺さん

 

【運び屋】どこまで真実なのか?

途中でカルテルのボス(アンディ・ガルシア)が仲間に撃たれて殺されるシーンがあり、これは事実とは違うのではないかと疑ったのでちょっと調べてみた。

アール・ストーンは実名?

 実名ではない。実の名はレオ・シャープ。劇中では朝鮮戦争の退役軍人となっていたが、実際のレオ・シャープはWW2の退役軍人。

レオ・シャープはアール・ストーンみたいな人物だったのか?

そういうわけでもない。クリント・イーストウッドは歩き方、話し方など、鶏園を営んでいた祖父をイメージしていた。

園芸家だったのは本当で、運び屋の仕事も園芸農家で働いていたメキシカンがカルテルのメンバーを知っていて紹介してもらったという。映画ではクリント爺さんは荷物の中身を3回目まで知らなかったが、レオ・シャープは最初からドラッグだと知っていた。

また元妻の話はフィクションで、レオ・シャープは結婚していて3人の子どもがいた。

劇中のアールのように、運び屋で得た金で、バーを立て直したり、地元に金を落として人助けしていたようだ。

逮捕されたレオは3年の刑に処されたが、健康悪化のため1年後の2015年に出所し、翌年2016年に亡くなり、ハワイに埋葬された。

刑務所内ではデイリリー畑の園芸も許可されていたそうだ。

レオ・シャープが運んでいたコカインの量と報酬

これは劇中と同じで、アールはキロ1000㌦の報酬をもらっていた。

逮捕された日、104kgのコカインを運んでいたので、その日の輸送だけで10万4000㌦になる。逮捕されたけど。

レオはトータルで125万㌦(1億3700万円)を稼いだ計算になる。

アンディ・ガルシア麻薬王のモデルは誰?

アンディ・ガルシアが演じた麻薬王は名をラトンと言ったが、実際はこれがエル・チャポ。ラトンが劇中で部下に殺されたのでおかしいなと思ったのだが、実際のエル・チャポはもちろん死んでおらず、アメリカの刑務所に拘束されている。

麻薬カルテルが本作のように白人の高齢者をミュール(運び屋)として利用することは珍しくない。犯罪歴がない白人の高齢者は警察の注意から外れやすいため、麻薬カルテルはそこに目をつける。仲間であるカルテルメンバーを使うよりリスクが少なく、万一運び屋が逮捕されたとしても運び屋は大事なことは何も知らされていないのでトカゲのしっぽ切りをするだけだ。

DEAがアール(レオさん)を捕まえても麻薬カルテルには痛くも痒くもなく(輸送中のドラッグの損害は別として)、どうしても麻薬捜査の虚無感と無駄足ぶりが際立ってしまう。

ドラッグ・ミュールには旅行者や若い女性も多い。酷い時には外科手術で動物の体の中や女性のお腹にドラッグを詰め込んで妊婦のフリをして運ばせる手口もある。

「そして、ひと粒のひかり」は南米の若い女性が家族を養うためにコンドームに入れられた玉状のドラッグを飲み込んでアメリカに運ぶ話。


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