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【TAG タグ】実話に基づく映画の感想:中年オヤジが28年間鬼ごっこでジェレミー・レナーを追いかける映画

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TAG

ジェレミー・レナー主演のコメディ映画「TAG タグ」を観た感想です。

少年時代を共に過ごした旧友たちが、中年になってもずーっと鬼ごっこを続けていたという実話に基づいた映画です。

日本では劇場公開されずituneで配信されました。

 

【TAG タグ】作品情報

原題:Tag

公開年:2018年

監督:ジェフ・トムシック

出演:ジェレミー・レナー、エド・ヘルムズ、ジョン・ヘム

上映時間:100分

アメリカの映画館の予告で観て気になっていたものの「中年オヤジの鬼ごっこ」を100分も観られる自信が持てず、のらりくらりかわしていました。

しかし以前、適当に選んだマイベスト男優10選で2位に入選したジェレミー・レナーが主演しているので、ジェレミーが選んだ映画なら何かピカリと光るものがあったに違いないと思い込み、Amazonプライムでやっていたのでやっと手を付けてみた一作です。

タグというのは「鬼ごっこ」のことでっせ。「Wanna play tag?(鬼ごっこする?)」とか「Tag! You're it!(タッチ!お前が鬼や!)」という感じで遊ぶ童心ゲームのことである。

プレイヤーはキッズ。

のはずだった…

ときは2013年、USAのウォール・ストリート・ジャーナルにとある記事が掲載された。

それは、とある中年親父のグループが1990年からその後23年間に渡って「鬼ごっこ」をしていたという内容だった。

事の発端は1980年代、アメリカはワシントン州のとあるカトリック系のハイスクールで、教室移動のときや廊下を歩いている時に肩や腕をポンッとタップするというごく普通のタグのやり取りから始まった。

鬼ごっこ1ラウンドは高校生活卒業とともに一旦終了する。最後に鬼になったのはジョー君。その8年後、週末に集まったかつてのタグ・ブラザーズは、「ジョー君まだ鬼やで」と古き良き高校時代に想いを馳せる。

そしてタグの再開を思いついたというわけだ。

タグは一年中しているわけではなく、毎年2月(映画では5月)に開催された。2月の間に最後にタグされた者はその後1年間鬼のままでいることになる。

タグ・ブラザーズたちは、ビアーを飲むために週末に集まったときだけでなく、映画のように文字通りアメリカ大陸を鬼ごっこの舞台にしていた。飛行機に乗って追いかけて行ったり、妻がスパイになったり、仕事の同僚に監視を頼んでタグ・ブラザーズの鬼がやってきたら知らせるように、といった具合だ。

劇中にあった「タグ参加契約書」は実在し、弁護士とタグ・ブラザーズ参加者の1名によって作成された。

映画ではPRのために鬼ごっこ期間は28年→四捨五入して30年とさらっと水増しされているが、実際は23年間だった。また、鬼ごっこに参加した「タグ兄弟」は映画では5名のみだが、リアルライフでは10名である。

 

【TAG タグ】あらすじ

9歳の少年たち(ホーギー、ジェリー、ボブ、チリ、ケヴィン)は5月を丸々使って鬼ごっこを楽しんだ。あまりに楽しかったので、翌年も同じことをすることにした。それから30年が経過した後も、5人は毎年5月に鬼ごっこに興じていた。仕事や家庭生活の合間を縫って、5人は本気で鬼ごっこを満喫していたのである。そんな中、ジェリーは29年間の鬼ごっこの中で一度も捕まったことがないという偉業を成し遂げていた。ジェリーは今年も記録の更新を狙っていたが、他の4人はそうさせまいと熟慮に熟慮を重ねた作戦を繰出してくるのだった。

TAGタグ-Wikipedia

 

【TAG タグ】感想

鬼ごっこをいかに面白く撮るか。それがこの実話ベースの作品に与えられた唯一の課題だった。鬼ごっこは何のツールも必要とせず、ただひたすら鬼とプレイヤーが走り回ってタッチし合うという極上のシンプルゲームである。

刑泥(泥刑ともいう)のように刑事役と泥棒役の心理攻防戦があるわけでもないし、缶蹴りの缶のように守るべきモノがあるわけじゃない。追いかけてタッチするだけのシンプルゲーム。しかもプレイヤーは中年親父ども。

普通に考えて、そんなもの100分も観れるわけがない。

そこで投入されたのが、あの伝説の男「ジェイソン・ボーン」の知られざる級友ことアーロン・クロス、別名ジェレミー・レナーである。

お前たち、ジェイソン・ボーンのご学友の鬼ごっこを見てみたくないかい?見たいね?

お前たちの期待に沿って、単なる中年親父どもの鬼ごっこにジェレミー・レナーを投入することによって、「ジェイソン・ボーンたちに鬼ごっこをさせたらこうなる」という空想を映像化してくれたのがこの作品である。

冒頭、とある成長企業のCEOを務めるジョン・ハムのもとにウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の美人記者がインタビューを敢行している。そこへ新人掃除夫に扮したホーギー:鬼が入ってくる。

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タグ・ブラザーズの一人、大企業のCEOとWSJの記者

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掃除夫に化けた鬼

「まだタグやってんのか!」と半ば呆れるCEOだが、「今年も5月だぜ!」とホーギーの本気ぶりに感化され、WSJのインタビューも仕事もほったらかして皆を招集しに行ってしまう。仕事は?就業中に…もっと言うとインタビュー中にどこ行くの?

掃除夫が突然CEOにタグしにかかってきたので、WSJ美人記者は大そう驚き、事情を知って「こりゃ企業の話より鬼ごっこの話の方がスクープスクープ」と、こいつもタグ・ブラザーズに同行することにする。アメリカ人は頭が湧いてるのだろうか。

ジェレミー・レナーを除く4名(と妻1名)が集結した。そこで4名は、ジェレミー・レナーだけが一度も鬼になったことがないことを指摘し、「今年こそはジェレミー・レナーを鬼にしてやる!」と入念な計画を練り、一行は結婚間近のジェレミー・レナーのもとへ向かう。

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Tagengers(タゲンジャーズ)

ここでジェレミー・レナーのかつての訓練が生きてくる。ジェレミー・レナーの必殺仕置き人スキルは鬼ごっこでもいかんなく発揮されることになる。

打倒ジェレミーに燃えるタゲンジャーズが来ていることも知らないはずだが、ジェレミー・レナーは常にプレイヤーたちの数歩先を読んで、巧みにタグを交わす。

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不敵な笑みが愛らしいジェレミー・レナー

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二階から窓をぶち破って逃げ、変装を見破り、プレイヤーの存在を臭いで嗅ぎ付け、ドーナツ攻撃、コーヒー攻撃、消火器攻撃と、身の回りの物をすべて武器に変えるジェレミー・レナーに唖然。

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ドーナツの粉雪が美しい1ショット

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コーヒーの飛沫が美しい1ショット

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消火器のホワイトアウトが美しい1ショット

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切り取った一瞬を観てみると分かるが、ジェレミー・レナーはタグ攻防の時にまったく表情を変えていない。 戦いや攻防の時、人間はどうしても力が入ってしまうため、無表情を貫くのはかなり難しいのだが(ジャン・クロード・ヴァンダムが「ユニバーサル・ソルジャー」で言ってた)、マーシャルアーツ出身じゃなくともしっかり無表情演技を貫くジェレミー・レナーは偉いと思います。

ジェレミー・レナーはかつてアカデミー主演男優賞にノミネートされた「ハート・ロッカー」の撮影でヨルダン(イスラエルとイラクの間にある国)に滞在していた時、あまりの暑さに撮影クルーの誰もが精神的に参ってしまい、誰も口を利かず、口をきけば喧嘩ばかりしていたと話している。

それに加え、ジェレミーは爆弾解除のスーツを着ていた。精神は極限状態に達しており「誰でもいいから殴りたくなった。いくらお金を積まれてももう二度と御免だよ」と言っている。

ちなみに私の夫も派兵でイラクに行ったのだけれど、イラクはヨルダンよりも熱く、最高気温で45度くらいに達するのに、彼は軍服+装備で「暑いけど、it doesn't bother me.」とか言っていたので、暑さへの忍耐力がかなり強いのが伺える。TAGではなくTAFと書いてタフである。

皆さん、最高気温でどのぐらいまで感じたことある?日本の最高気温は観測史上41.1度になっています。私はラスベガス周辺の砂漠で44度が最高温度でしたが、でら暑くて車外に出れませんでした。日本と異なり、湿気がない暑さなので、暑くて乾燥した空気で喉が焼ける感じの熱さでした。カリフォルニアでも43度くらいが1度ありましたが、さすがにその温度になると地面が熱すぎて犬が散歩できないくらいになります。

脱線したので映画の話に戻ります。

タグ・ブラザースたちはこれ以上ドン引きされるのを恐れて詳細は明らかにはしないものの、リアルタグゲームで、子どもの誕生、メンバーの父親の葬式、妻の抗がんの放射線治療の場でもタグをしている。まさに鬼の仕業!

映画は多少脚色はあるものの(ジェレミー・レナーのキャラは完全にフィクション)、普通なら考えられないTPOでタグをしていたわけだ。これが日本だったら、と想像してみて欲しい。

父親の葬式の場で「この度はご愁傷様です。タグ。お前が鬼な」とか、妻の放射線治療の場で「力になれることがあったら何でも言ってくれ。タグ、お前、鬼な」とか言えるだろうか?KY扱いされるどころか、この上なく非常識な人間認定されるに違いない。下手すりゃ激怒されて縁を切られる。

縁切りは避けられたとしても「お前な…童心に帰りたい気持ちもわかるし、童心を大事にすべきなのも理解できる。だが、父の葬式や妻の放射線治療でそれをやる奴があるか!?侵してはいけない線引きというものがあるだろう」とけっこう大真面目に説教食らうのがオチである。

しかしそこはアメリカ人、人生の苦境であっても笑いを忘れない大きな心を持っているのである。そしてこんなどうでもいい大人の鬼ごっこを経済新聞であるウォール・ストリート・ジャーナルが記事にしてしまうという冗談みたいな展開…この度量の大きさがアメリカらしく、これがアメリカの底力とも言える。

もっというとアメリカ人は遊び心がかえってプラスの結果を生むことをよく分かっているし、逆にストレス発散やプレッシャーを軽減させるために遊び心を持つようにしているのだ。(スポーツ選手が常にガムを噛んでいたり、面接で足を組んだりといった行動は日本人には「緊張感が足りない」「偉そう」にしか見えないのだろうが、表面だけでは何も分からないものである。)

困難や苦難に直面したときに、真面目一辺倒では逆にコーナーに追い詰められて良い結果を生まないことを知っているし、現に多くのイノベーションは遊び心や遊びの探求から生まれている。

そして馬鹿馬鹿しい鬼ごっこを本気で楽しめるという遊び心もアメリカらしくて素晴らしい。彼らは職場だろうが結婚式の場だろうが病院だろうが依存症の集まりだろうが、どこでも本気で鬼ごっこをして大そうな迷惑をかけていた。

先日、日本の公園に子どもたちの姿が見えなくなっているという記事を目にしたところだったので、この先遊び心どころか遊び場まで失ったら日本は一体どうなるのだろうかと心配になった。

お前たち、どんなときも遊び心を忘れないようにね!