ジェレミー・レナー主演のサスペンススドラマ「ウインド・リバー」を見た感想です。
また新たな名作と出会うことができて胸アツ。アメリカではすでにNetflixで配信されているのだが、このファーゴみたいなイメージに触手が動かなくてマイリストに入れたまま放置していたことを激しく後悔した。
実は「ウォーキング・デッド」のシェーン役、そしてパニッシャーでフランク・キャッスルを演じるジョン・バーンサルの名前を見つけたので見る気になったのでした。
事件が起きて犯人捜しするのでネタバレなし感想です。
【ウインド・リバー】作品情報
原題:Wind River
公開年:2017年
上映時間:107分
監督:テイラー・シェリダン
出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーンサル
製作国:アメリカ
言語:英語
ジャンル:クライムサスペンス、ドラマ
「ウインド・リバー」は2017年カンヌ国際映画祭で「ある視点賞」を獲得したほか、American Indian Movie Awardなど獲得、ノミネートされている。
監督・脚本はティラ―・シェリダンで、「ボーダーライン」や「最後の追跡」の脚本家ですが、これが監督初作品。ボーダーラインよりこっちの方が好きだけど、銃撃戦はボーダーラインの勝ち。
コーリー(合衆国魚類野生生物局のハンター)ジェレミー・レナー
主演ジェレミー・レナーは私の好きな俳優TOP10に入る。
昨今はアベンジャーズで矢を放って世界を救ったり、イーサンにそそのかされてインポッシブルなミッションをポッシブルにしたりと多忙を極めているが、その実、アカデミー賞作品「ハートロッカー」で主演したり「ザ・タウン」でアカデミー助演男優賞にノミネートされるほどの実力派である。
考えてみれば彼がアベンジャーズで演じているホークアイも、唯一「パンピー」であるのに超人たちと肩を並べて戦っているという超人パンピーなので(ジャスティス・リーグのパンピーであるバットマンに見られるショボさがない)、強さと存在感を感じさせるジェレミー・レナーの抜擢は理解できる。
私が初めてジェレミー・レナーを見たのはS.W.A.Tなのだが、あれは映画が駄作だったのでジェレミー・レナーの良さもコリン・ファレルの良さもまったく活かせておらず、このときは特に印象に残る俳優ではなかった。
ジェレミー・レナーにピカリと光るものを見たのはその2年後の「スタンドアップ」だった。この時に「この人はこれから売れる」と確信し、彼の名を覚えた。ジェレミー・レナーがVALUだったら間違いなく買って、私は今頃お金持ちになっていた。
その後、2007年にホラー映画「28週後」でアメリカ人兵士を演じていたのを見ると、レナー株はさらに上昇する。そして2008年にアカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞など総ナメにした「ハートロッカー」で主演のジェイムズ一等軍曹を演じたレナーは一気に大ブレイク、その後の活躍は周知の通りである。
ザ・タウンで共演したベン・アフレックもジェレミー・レナーを絶賛していた。まあベンアフに言われても別にな。
このとおり演技力が確かな俳優なので、アメコミ映画に出てないでこういう映画にもっと出てほしい。
シェリダン監督は最初からジェレミー・レナーを主演にと決めていたそうだ。ところが当時ジェレミー・レナーは「メッセージ」の撮影で忙しかったため、いちどクリス・パインに話がいった。しかしクリス・パインもワンダーウーマンでスケジュールが空かず。そんなときにジェレミー・レナーのスケジュールが空いたため、当初の予定通り、ジェレミー・レナーが起用された。
ジェーン(FBI捜査官)エリザベス・オルセン
ジェレミー・レナーと同じくアベンジャーズ組のエリザベス・オルセンがFBI捜査官ジェーンを演じる。キャプテン・アメリカとアベンジャーズで共演しているので、息の合ったところを見せてくれた。
本作では一瞬Tバッグ姿をお披露目する。殺されたナタリーもTバッグ姿をお披露目するので、なんだアメリカ人女性はTバッグばっかり履いてやがんのかと思うだろうが、本当に履いている。
心配しないでもデブもしっかり履いている(ここでいうデブは日本の基準ではなく、アメリカ基準のデブのこと)。
デブがTバッグを履いてレギンスを履いているので、レギンスが伸びて生地密度が薄くなり、透けて見える。さらにそこにカルフォルニアのふざけた太陽レーザービームが照射すれば、あなたは間違いなく神に記憶を奪うよう祈るだろう。
オルセンの役はたまたまウインド・リバーから一番近い場所(といってもベガス)にいたために現場に派遣された新人FBI捜査官である。先日見たエリザベス・オルセンのスリラー映画「サイレント・ハウス」はなかなか良かった。
エリザベス・オルセンは本作の40日間の撮影で雪盲を経験している。40日でも雪盲になるということから、厳しい土地であることが伺える。
そのほかジョン・バーンサル、地元の警察署長役にオナイダ族のグラハム・グリーン(ダンス・ウィズ・ウルブズ)、コーリーの妻役に同じくネイティブアメリカンのジュリア・ジョーンズ(綺麗)らが出演している。
雪の中、無残な姿で発見されたナタリー役はネイティブアメリカンではなくアジア系の女性のようだ。
【ウインド・リバー】あらすじ
ネイティブアメリカンが追いやられたワイオミング州の雪深い土地「ウィンド・リバー」で、女性の遺体が発見された。
FBIの新人捜査官ジェーン・バナーが現地に派遣されるが、不安定な気候や慣れない雪山に捜査は難航。
遺体の第一発見者である地元のベテランハンター、コリー・ランバートに協力を求め、共に事件の真相を追うが……。
重要な点は、舞台がネイティブアメリカン(インディアン)居留地であること。
ウインド・リバー・インディアン居留地は実在する土地で、全米で7番目に大きい居留地である。
ワイオミングはここ。ロッキー山脈と、噴火したら人類滅亡規模の火山イエローストーンがある。
【ウインド・リバー】感想(ネタバレなし)
あらすじを読んで分かるように、本作はクライムサスペンスではあるのだが、社会派ドラマといったほうが映画の本質をより的確に表している。
したがって犯人捜しはそれほど重要ではない。最初こそ誰がナタリーを殺したのかとハラハラドキドキの謎解き要素は感じるが、本作が描きたいのはその背景にあるものだ。
昨今は#metooアクションで女性へのセクハラがグローバル的に取り上げられている。女性の権利向上や性的被害者を救済する意味で意味がある動きだと思いつつも、ときにピューリタニズムを感じつつある私としては本作はガツンと来るものがあった。
まさにいま公開されるべき映画だし、タイミングもバッチリだったはずだ。
映画を最後まで見て、私たちはまたグローバルメディアが決して取り扱わない日陰の土地で起きている驚愕の事実を知ることになる。詳しい内容は是非映画を観て確認して頂きたいです。
登場人物はいずれも適任だった。主演のジェレミー・レナーは言わずもがなで、控えめで無口で心に傷を負った男の役がまるで本人のようにハマッている。シェリダン監督が最初にジェレミー・レナーの起用を考えただけあって、彼の作品の中で一番好きな役どころだったかもしれない。
次にFBI捜査官のジェーンを演じるオルセンは、都会出身のルーキーが厳しい極寒の土地環境に来るとどうなるかを自然にこなしている。
事件を担当するも、過酷な環境しかもネイティブインディアン居留区で一体何をどうしたらいいか分からず、地元のハンターであるジェレミー・レナーに協力を仰ぐ姿はバンビそのものであり「大丈夫かしらこの子」という不安が脳裏をかすめる。
しかしこれがベテラン捜査官だと地元の警察や人々と衝突してしまい、事件解決どころじゃなくなってしまう上に、本作が描きたい大事な感情が見えにくくなってしまうので、ここはFBI新人捜査官が妥当だったのだろう。
そしてジョン・バーンサルの役どころはというと、ネタバレ範疇なのでここでは言わない。3番目に名前があったので「もしかして犯人の役?」と思ったのだが、これは作品を見てもらいたい。
ちなみにジョン・バーンサルはトレーラーの中での撮影で足の爪4本が取れてしまったそうだ。痛い。まぁ、あれだけカオスでしたからね。 あの撮影はすごく大変そうだった。
出演者は採掘場のセキュリティの人たちや白人警察を除けば皆優れた演技を見せてくれた。映画全体を通して会話やセリフが少なめであり、メタファー表現も多く、時には映像やBGMのセリフで表現されている。
アメリカ人の中にはこれが「理解しづらくてイライラする」というコメントもあったが、日本人の私にはむしろすんなり入ってきた。特にネイティブインディアンの人たちとジェレミー・レナーはそういった傾向のキャラなので、感情移入がしやすかった。
またFBI捜査官が怪しいドアを開ける瞬間に過去のナタリーにシーンが切り替わる手法が見事だった。これがカンヌ国際で「ある視点賞」を受賞した視点のはず。ナタリーに何があったのかハラハラドキドキしていた視聴者は一気にナタリーの視点に切り替わるので、怖いと同時にスリル満点である。
残念だった点は、犯人にたどり着くまでの道のりがもう1クッションくらい欲しかったこと、それまで犯人や怪しい奴の姿が一度も出ていないので銃撃戦のシーンが誰が誰だか分かりづらかったことだ。善人が死んだのか悪人が死んだのかまったく分からなかった。
捜査プロセスで犯人を既出させて欲しかったし、犯人側の描写に少し時間をかけても良かったように思う。上映時間は107分だが、あと15分は合っても良かったと思う。マイケル米やジェリーブラッカイマーなんか、あのコンテンツなのに平気でこれに最低30分上乗せしてくる。
それからFBI捜査官のオルセンがあまりにも新人すぎた点も宜しくない。というのもある人物が重要なヒントをうっかり漏らすのに、「ちょっと待って」と言うも、そのまま進んで行ってしまうのだ。ベテランならその瞬間に誰が事件に関わっているかを察し、聞き流すフリをして、チャンスを見て逮捕に踏み切っただろうに。要するに無能すぎた。オルセンは私たちの視点なので新人である必要があったのは確かだが、あんな怪しい証言をされてそのまま進んで行のはいくら新人捜査官でもあり得ない。
白銀の世界、晴れたかと思うと再び吹き荒れるブリザード、陸の孤島のような大自然の中で「ここには何もない、雪と静寂だけだ」と言う犯人と、「彼ら(ネイティブアメリカン)はすべてを奪われ、ここに保留された。彼らに残されたものは雪と静寂だけだ」と言うレナー。土地を奪われ、保留地に追いやられたネイティブアメリカンの人々の強い生き様を垣間見た気がする。
何度も泣いたわ。
こういう映画が大好きなので、似たような映画のおススメあったら皆さん教えて下さい。
日本では2018年7月27日劇場公開予定です。
評価:90点