わが師と崇めるふかづめさんが一人で「デフォーいいよ~最高だよ~」と恍惚の表情を浮かべて勧めていた映画【ドッグ・イート・ドッグ】を観ました。
ニコラスケイジとウィレムデフォーを見捨てられない私としては気になる映画ですのでさっそく鑑賞したのですが、どうやら軽く感想を述べただけでは飽き足らなかったようで師匠がぶつぶつ文句を言い始めたので、やむを得ず感想を書きますとも。書きますよ、書きやぁいんでしょ!
【ドッグ・イート・ドッグ】作品情報
原題:Dog Eat Dog
公開年:2016年
監督:ポール・シュレイダー
出演:ニコラスケイジ、ウィレムデフォー、クリストファーマシュークック
上映時間:93分
ドッグ・イート・ドッグの意味は、そのまま犬が犬を食らうということで「共食い」「骨肉相食む世界」「血みどろの仲間争い」「食うか食われるかの争い」という意味になります。
監督のポール・シュレイダーさんは「小津安二郎や三島由紀夫などに影響を受けるなど、大の親日家として知られ、知的な作風が特徴(ポール・シュレイダー - Wikipedia)」だそうです。あぁ、そうなの、日本好きなの、はよ、言わんかい、そういうことは。
パケにも「タラちゃん絶賛」て書いてある。タラちゃんも親日家で日本映画の影響を多大に受けているので、観終わったあとだから言えるけどやっぱり作風が似てる。
この監督、「タクシー・ドライバー」や「レイジング・ブル」の脚本家でもあるんですね。
【ドッグ・イート・ドッグ】あらすじ
ニコラス、デフォー、クックの3人が刑務所から出所後、人生をやり直すための資金作りのために、金貸しマフィアの依頼を受けて債務者の赤ん坊を誘拐しようとするものの、やっぱりうまくいかない話。
【ドッグ・イート・ドッグ】感想
ニコラス・ケイジとウィレム・デフォーが共演ってだけでウキウキしてくる。そんな高揚感を味わったことはないですか?ありませんね?
ニコラス・ケイジとウィレム・デフォー、この二人が大好きな俳優です。と公言したいつもりはないんだけど、この二人は私の心のどこかに不可侵的なスペースを確保している殿堂俳優と言いますか、要は何をされても怒れないと言いますか、存在してくれているだけで有難いと言いますか。
スクリーンに元気な姿を見せてくれると、「ああ良かった、今年も生きている。神様ありがとう」と思わせてくれる二人であります。言ってる意味わかりますか。
ふかづめさんも仰ってたけれど、この二人は真面目にしていても可笑しいというか、「クスッ」と笑える存在なんですねぇ。
2018年に公開された「マッド・ダディ(感想)」でも、子どもを殺そうとする狂気の親を演じているニコラス・ケイジが心底可笑しくてですね。果たして、それが本当にニコラス・ケイジの持ち味ゆえの可笑しさなのか、そう感じてしまう自分がおかしいのか、どちらが正しいかは分かりません。
そんなボルゾイ系ニコラス犬にだ。
こんなのと
こんなのが
タッグを組んで、闇の仕事を引き受けるというのだから、嫌な予感しかしない。
冒頭はデフォーの劇的な一家殺人シーンから始まるので、「弟子にこんなもん見さすか?」とふかづめさんにクレームを入れようと思ったが、デフォーのあまりのナチュラルさに見入ってしまい、殺人シーン終了後「うむ、いい映画を予感させる」と手をポンと叩いていた。
デフォーの一家殺人シーンを見て「いい映画だ」と言う私も尋常ではないのだが、クレイジーさが自然すぎて見事なのである。詳しい解説は面倒なのでふかづめさんの批評記事を読んでくれ給え。
おまけにデフォーに殺される妻と子のキャスティングの絶妙さよ。
美しい!
「どこが美しいの?」と言っている方はもう感性が違うから仕方ないとしてだ。
顔の造形が美しいって言っているわけではなく、肥満のアメリカ人女性を起用しているのも正直だし、肥満でも女性らしさを忘れていない女性であることが見てとれるでしょ?これこそアメリカのリアルな画なんですよ。おまけに巨乳、巨尻というマーチャンダイズ付き!もう何言ってるのかわからんな。アメリカ生活長い変人はきっと分かってくれるはず。多分、マリブさんあたり。
お母さんの遺伝子を受け継いだ娘もちゃんと肥満体型だし。
アメリカのご近所に物凄い肥満のお父さんがいて(お母さんもこの女性くらい肥満、別居or離婚してる)、小学校5年生くらいの娘がいるんだけど、お父さんが週1くらいで迎えにくるわけ。で、娘を送りにくると「野菜もちゃんと食べてな!ヘルシーな食事をとれよ!」と娘に言いながら去っていく。
それってギャグなの?お前が言う?とスリムな日本人の皆さんは酷なこと言うだろうけど、百漢デブの父ちゃんは自分が味わった肥満の苦しみを味わってほしくないと、少々丸まってきている娘のことを思って真剣に言っているし、身がこもっている。美しい。これがリアルなアメリカファミリーの一面でもある。
ちょっと壁紙も見てみてよ!センスありすぎよ!ふかづめさんが解説しているピンクがかった画面もイイ。美しいとしか形容のしようがない。
さらにはこの元妻の家に上がり込んで、元妻のPCでポルノを見ていることを咎められるという設定!
天才!!
さらにいうと、このちょっと前にデフォーが「なぁ…ちょっといいだろ…?」なんつって元妻のカーヴィボディに手を出すシーンがあり、元妻も「やだ、あんたぁ、ちょっとダメよぉ…」なんていう微笑ましいシーンまである。ピカイチ。
そしてこのポルノを見てやがったという時点から二人の仲は急降下し、巨漢の元妻が物凄い勢いでわめき始め、デフォーを追い出しにかかる。追い詰められたデフォー犬はとっさにナイフを手にして妻を刺し始める。犬は追い詰めないように気を付けよう。そして背中を向けないことだ。
そこへ運悪く階下に降りてきた娘、父が母をめった刺しにした光景に恐れおののき、叫び声をあげながら二階の自室に逃げるが、デフォー犬はもう止まらない。娘の部屋に入ると、容赦なく娘も撃ち殺す。
こんな凄惨なシーンであるにも関わらず、やっているのがデフォーだけに「プッ」とは言わないまでも「フッ」と鼻を鳴らしてしまう上に「なぁデフォー、人生とはそういうもんだよな」と画面越しに声をかけてしまうほどのクレイジーぶり。
この冒頭のデフォーのシーンだけでも映画を最後まで観るのを楽しみにさせてくれる一本である。
その後デフォー犬はもちろん服役し、同じく服役したニコラス犬とクック犬と3人で出所祝いをした後、ニコラス犬が話をつけてきた誘拐計画を実施することになる。
ニコラス犬は3人の中では一番頭の出来がマシだが、社会システムに怒りを抱えており、クソみたいな底辺生活から抜け出すためにこの誘拐を実行しなければならないと他の二匹を説得する。誘拐の計画だとか骨子を構築するのもニコラス犬だ。
ただしニコラス犬も、クソ犬3匹の中では一番マシというだけであって、仕事を見つけてくることはできても任務を無事に完了できる能力もなければ問題を解決する能力もない。
デフォー犬の劇中の名は文字通りマッド・ドッグ(狂犬)であり、冒頭の家族惨殺シーンからも分かるように何をしでかすか分からない危険人物である。
クックはマフィアの仕事をして金をもらっているが、一発当てて、郊外に家を買って、口うるさい妻を持つことを夢見ている。
犯罪者にも色々いるが、この3人は犯罪者の中でも底辺にいる犯罪者である。底辺から這い上がろうとするにもその手段は犯罪行為一択で、請け負った任務の責任の重大さ(マフィアから金を借りて返さない男への報復として赤ん坊を誘拐する任務)も理解できていなければ、誘拐の計画もしっかり練られていない。彼らは自身の行動の結果や責任というものを理解できず、すべてが刹那的で短絡的なのである。
デフォー犬に至っては、金を借りて返さない男の家に侵入して赤ちゃんを誘拐しようとするシーンで、部屋に入ってきた男の顔を確認もせずに吹き飛ばしてしまう。ふつうならここで吹き飛ばした男こそが金を借りた男であると気づきそうなものだが、バカな3人が気付くのは後になってからだ。
結局、犬3匹は底辺から這い出ることができずに一人また一人、犬死にしていく。
デフォー犬は内なる悪魔と戦っているために、ずーっとどうでもいい話(ほんとうにヒドイ)や己の内面を喋り続けてクック犬を苛立たせて殺される。犬に撃たれて殺されるー狂犬にふさわしい最後である。私でも殺すわ。
ニコラス犬はというと、最後は善良な黒人老夫婦を巻き添えにしながら警官に撃たれて死んでいく。クソは最後まで他人に迷惑をかけるクソである。
犬3匹がケチャップやマスタードを掛け合ってお祝いしているシーンは、デフォーが皺しわの上半身をさらけ出しているのでプラトーンまで思い出して感傷的になってしまった。
なお、デフォー犬を依怙贔屓弁護するために言っておくと、赤ちゃんを誘拐するシーンで、ニコラス犬が「あれどこいった、口に入れるやつ」と聞いた時に、一瞬私も「チンコ」が浮かんできてしまったことは内緒にされたい。
imdbでは4.6点と散々な点数だけれども、明らかにおかしいと思う。