日本ではあまり報道されていないようだが、アメリカは今また新しい法案をめぐって国が分断している。
どんな法案か?中絶法案である。
アメリカで中絶法案を巡る対立が活発化
アメリカ合衆国憲法修正第14条は「妊娠を継続するか否かに関する女性の決定はプライバシー権に含まれる」として女性の堕胎の権利を認めている。
これは1973年のアメリカ最高裁判所のいわゆる「ロー対ウェイド事件」判決で、アメリカ50州において妊娠中絶を規制する国内法を違憲無効とするものだ。
中絶法案は、ロー対ウェイド事件以前も以後もつねに論争の的にあった。
そして2019年、中絶反対派による強いプッシュによって、赤い州を中心に厳しい中絶法案が可決されてるという現象が起きている。
ことによっては「ロー対ウェイド事件」の判決を覆すことになるかもしれない深刻な事態だ。
中絶法案に向けてアクティブに動いている州を覚書として残しておく。
中絶法案を通した州(2019年6月1日現在)
ちなみに中絶を禁止する中絶法案(heartbeat bills)推進派は英語で pro-life と呼ばれる。一方、中絶の権利を推進する層は pro-abortion、pro-women、pro-rights、pro-choice という表現が使われている。
アラバマ州
2019年5月14日、アラバマ州はいくつかの例外を除いて中絶を禁止する法案を通した。胎児の心拍が確認されたら中絶はできない(胎児の心拍は6週間前後で確認)「ハートビート法案」といものだ。
中絶が許可される例外事例は、以下に限定されるという厳しいものだ。
- 母体に健康上の著しいリスクがある
- 胎児に致命的な異常が見られる
- 子宮外妊娠
レイプや近親相姦による妊娠中絶は例外事例のなかに含まれていない。
また、中絶手術は重罪とみなされ、中絶を施す医師は禁固99年の刑に処されるという。
ルイジアナ州
2019年5月29日、ルイジアナ州も「ハートビート法案」を可決した。
中絶が許されるのは以下のケースに限定される。
- 母体に死の危険がある
- 深刻なダメージ、身体機能に不可逆的なダメージがある
ルイジアナ州も、レイプや近親相姦による妊娠中絶を許可しない。
産後に生存が危ぶまれる胎児であっても中絶は許可されない。
ルイジアナ州の法案では、中絶する前にエコーを義務付け、胎児の心拍が聞こえたにも関わらず中絶手術を施した医師には2000㌦の罰金または最長2年の禁固刑が科される。
ミシシッピ州
ミシシッピ州は2019年3月に州知事が「ハートビート法案」に署名をした。
例外的に中絶が許されるケースは以下の場合に限定される。
- 母親の死のリスク
- 母体への深刻なダメージ
しかし、連邦判事は7月から効力を発するこの「ハートビート法案」の差し止め命令を5月24日に出した。
連邦判事カールトン・リーブスはハートビート法案を「女性の権利を直接脅かすもの」であり、「女性の自由選択を奪い、個人の威厳と自主性を損なうものである」とした。
オハイオ州
2019年4月に州知事が「ハートビート法案」に署名。
ジョージア州
2019年5月7日、「ハートビート法案」に署名。
現在のジョージア州法では妊娠20週目までの中絶が認められている。
ハートビート法案は2020年1月1日から施行される。
ミズーリ州
州知事が妊娠8週目以降の中絶を禁止するハートビート法案に署名。
以下のような医療上の緊急事態を除いて中絶は認められない。
- 母体が危険に晒されたとき
- 恒久的なダメージが残ると判断されたとき
レイプ、近親相姦による妊娠も中絶を認められない。
ケンタッキー州
ハートビート法案を可決。
アーカンソー州
2019年3月、妊娠18週以降の中絶を禁止する法案に州知事が署名。
ダウン症と判明した胎児の中絶も禁止。
ユタ州
妊娠18週以降の中絶を禁止する法案を通したものの、4月に連邦判事によって差し止められた。州も差し止めに合意し、いまのところは法案を施行しないことになった。
アイオワ州
2018年5月にハートビート法案に署名したが、州判事が2019年1月にハートビート法案を違憲としてこれを無効とした。レイノルズ州判事は、中絶を禁止するための説得力ある理由がないと話す。
アイオワ州
2018年5月にハートビート法案に署名。しかし州判事が2019年1月に差し止め。
中絶法案成立の動きがあった州(2019年6月1日現在)
サウス・カロライナ州
サウス・カロライナ州のオンライン記録では、ハートビート法案が下院で可決済み、上院で審議中である。
ウエスト・バージニア州
2019年2月にハートビート法案が下院に提出された。
フロリダ州
ハートビート法案が提出されたが否決された。推進者である共和党のマイク・ヒルは来年再提出する予定だという。
テキサス州
テキサス州ではハートビート法案は初期承認が得られず、下院で時間切れとなり正式に却下された。
現法では妊娠20週まで中絶が認められている。