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【ボクらを見る目】Netflixドラマ感想:実話ベース、人種差別がもたらしたレイプの冤罪

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ボクらを見る目@Netflix

Netflixオリジナルドラマ「ボクらを見る目」を視聴した感想です。

28歳の白人女性を残虐非道に暴行・強姦した罪で逮捕された5人の黒人少年・ラテン系少年の話で、実際の事件を基にしています。

 

Netflixオリジナルドラマ【ボクらを見る目】

全4話のミニシリーズです。

一話一話が長く、第1話が64分、第2話が71分、第3話が73分、第4話は88分となっています。第4話はもはや映画の長さやん。

【ボクらを見る目】あらすじ

セントラルパークで起こった暴行事件の容疑者として、ハーレムの少年5人が不当逮捕される。それは、長年にわたる悪夢の始まりだった。実際の事件に基づくシリーズ。

全米でもっとも有名なレイプ事件の一つ「ジョガー事件」を扱ったドラマです。

1989年の春、ニューヨークのセントラルパークをジョギング中だった当時28歳の白人女性が暴行され、不可逆的な損傷を残す瀕死の重傷を負った事件で、たまたまセントラルパークを大勢で闊歩していた黒人少年たちのうち5人(実際には6人で、もう1人スティーブン・ロペスという少年が容疑者だった)が警察に不当逮捕されます。

 

【ボクらを見る目】感想

全4話ですが、1話ずつが長いので、観ていたら夜中の3時くらいになっちゃった。一度見始めると続きが気になって止まらないので、週末にまとめて観るのがおススメ!

久しぶりに胸糞が悪くなりました。

あてし、こう見えて人種差別ものへの耐性が弱いです。現実社会に近い暴力ほど、耐性が低くなるんですねぇ。 キャサリン・ビグロー監督の「デトロイト」を観たくても観ていないのはそういうわけなんです。観たいんだけど…

人種差別を想定したといはいえ、事件の詳細を知らなかった私は第1話で胸糞悪すぎて途中で気持ちが悪くなりました

第1話

第1話は、ハーレムが地元の黒人少年たち40人くらいが群れをなしてセントラルパークに繰り出すところから始まる。彼らはこれを「ワイルドリング」と呼んだ。※ワイルドリング(Wildling):集団で公衆の場に繰り出し、人々に迷惑を掛けたり、暴行や強奪をする集団通り魔的行為のこと。

人々が警察に通報し、大勢の少年たちが逮捕された。

時を同じくして、セントラルパークのある場所で投資銀行に勤務する28歳の白人女性トリシャ・メイリが木材で頭を殴られ、90mを森の奥へと引きずられ、石で殴打され、レイプされ、瀕死の重傷を負っていた。

トリシャは血液の75%を失い、その後何日も意識不明の重体で、奇跡的に意識を回復したものの、歩行困難、嗅覚の喪失、視力へのダメージなどの不可逆的ダメージを負う。

警察はワイルドリングで逮捕した4人の黒人少年と1人のラテン系少年をトリシャを暴行しレイプした容疑者として自白を強要する。

第1話は私がもっとも通視に耐えかねたエピソードである。(がんばって観たけれども。)

少年たちはもちろんベシベシと白人刑事たちに殴られるわ、飲まず食わずで尋問されるわ、ミランダの権利は読まれてないわ(ドラマ内の描写では確認できず)、未成年であるにも関わらず保護者の同伴はないわ、弁護士を呼ぶ権利さえないわで、とにかく散々な目に遭う。この尋問は30日間にも及んだ。

少年たちを尋問する白人刑事の一人にウィリアム・サドラーという配役が憎らしい。

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汚職刑事やヴィラン役でお馴染みのウィリアム・サドラー

刑事たちはおもむろに

「帰りたいだろ?あの女性をレイプしたって言えば家に帰れるぞ?」

「腕を抑えたんだろ?そして上に乗っかったんだ、わかったな?」

「アントロンはお前がレイプしたと証言したぜ」

「レイモンドはお前がレイプしたと証言したぜ」

といったように完全に暴行レイプ事件のシナリオをつくっていく。少年たちは恐怖心と家に帰りたい一心から、刑事たちに指導されたとおりに自白することになる。わたしもあなたもイーライラ。

絶望的なことには、保護者でさえ少年たちに与えられた権利に無知なので、わたしとあなたはさらにイライラを募らせます。

唯一ユセフの母だけは刑事の捜査方法が違法であることを悟り、戦々恐々としながら尋問室からユセフを救い出すことに成功する。(そのおかげでユセフだけは書面で自白供述をとられずに済んだが、口頭供述は母親が尋問を止める前にしてしまった)

またトランペットをならっていたアントロンの父にマイケル・ケネス・ウィリアムズ、検事役にヴェラ・ファルミガ(頭がチリチリしてる)、ラテン少年の父にジョン・レグイザモ(ラテン俳優なら任せて)、検事補にファムケ・ヤンセン(新しい顔を手に入れたファムケは角が丸くなっていて妙に可愛らしい)とひとくせある俳優の豪華な顔ぶれが並ぶことからも、Netflixと製作陣の意気込みが伝わってくる

胸糞悪いのは少年たちを尋問して自白を強要する刑事だけではない。事件を担当する女検事リンダ・フェアステインは、何の根拠もなくこの5人の少年を犯人に仕立て上げ、少年たちを「獣」と呼び、なんでもいいから少年たちをとにかく有罪にせよと唸った。このリンダ・フェアステインを演じるのが「学歴を買う女フェリシティ・ホフマン」である。

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学歴を買う女フェリシティ・ホフマン

「デスパレートな妻たち」「トランスアメリカ」で有名な女優だが、このたび50万㌦(1㌦100円換算で5000万円)を積んで娘を名門校に入学させたことが発覚し、「フルハウス」女優のロリ・ローックリンとともに全米から非難轟轟の女優である。

なおフェリシティ・ホフマンは有罪を認めており、いかなる判決も受け入れると発表した。すでに大学に入学している娘の処遇はペンディング中だが、国民からは「入学を撤回するのが当然である」という声多し。

フェリシティ・ホフマンは好きだっただけに裏口入学事件は非常に残念である。もはやこの人の顔さえ見たくないが、自虐路線でヒール役でいこうと開き直ったのか、本作でもひどい検事役を演じている。悔しいことに現実の憎まれ役と相まってピッタリはまっている。

第1話を乗り越えられればあと3話も乗り越えられると思う。とりわけフェリシティ・ホフマンの演じるリンダ・フェアステインがいかれポンチで胸糞が悪すぎて不安障害持ちの私は動悸がして仕方なかった。

第2話

第2話は裁判だ。

少年の弁護士の一人ジョシュア・ジャクソンは精彩を放ち、「ドーソンズ・クリーク」の青臭いぷっくり男の佇まいを潜めてすっかり渋い風格を身につけた男へと成長していた。ゲーム・オブ・スローンズのユーロン・グレイジョイによく似ている。

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弁護士ミッキー・ジョセフを演じたジョシュア・ジャクソン

裁判には1話しか費やされていないので、詳細はニューヨーク市が公開した12万ページに及ぶ文書を読まないと分からないのだが、そのうち半分もブラックアウトされているので現在発表されていること以外に得られる情報は少ないかもしれない。

また本作は完全に冤罪の黒人少年の視点から描かれているため、被害者のトリシャ・メイリがコーリー・ワイズの弁護士から屈辱的な反対尋問を受けた描写などはさっぱり抜けている。

物的証拠も状況証拠も目撃証言もなく、あるのは自白供述書と供述のテープだけで、それは刑事たちに強要された・・・となれば、reasonable doubt(合理的な疑い)が成立するように思われたが、なんと少年たちは有罪に。

少年4人は鑑別所へ、コーリー・ワイズは16歳のため気の毒に成人の刑務所に送られた。

「なんでこれで有罪になるの?不当すぎない?」とふと疑問に思った方も少なくないであろうから説明すると、物的証拠が決め手となって5人は有罪となった。

ドラマのとおり、暴行現場や被害者周辺からは少年たちのDNAは発見されていない。決め手となったのは、ケビン・リチャードソンと6人目の少年スティーブン・ロペスの衣服から発見された被害者の毛髪であった。

ケビン・リチャードソンの衣服から発見された髪の毛は9本、そのうち3本がトリシャの毛髪であった。毛髪はそれぞれリチャードソンの下着、Tシャツ、ジーンズから発見された。スティーブン・ロペスのTシャツからもトリシャの毛髪が発見された。

しかし、2002年の再審で、警察の捜査過程において、洋服から毛髪を取り除く前に洋服を床に置いて撮影したことから、証拠の混入が疑われ、洋服についたトリシャの毛髪という証拠の価値は失われたというわけだ。

2002年の再審理で証拠の汚染が明らかになったものの、容疑者の少年の衣服に被害者の毛髪がついていたという決め手についての言及がドラマですっかり抜けているのは、「え?なんでこれで有罪になるの?やっぱり黒人だからか!」と思わせるように有罪の不当性をことさら強調するのが目的だったのではないかと訝しく思ってしまう。

警察のずさんな捜査が当時の警察の怠慢によるものなのか、人種差別意識が警察の怠慢にどれほど貢献したかも気になるし、再審後に少年たちが冤罪だと認められたあとも警察や検事が責任を問われなかったのか気になるので、この辺をもう少し詳細に観たかった気もする。

 第3話

第3話では鑑別所から出所したあとの4人の少年の生活を追う。

アントロンと父の確執やサンタナの苦労など、レイピストという烙印を押された前科者の若者が生きて行かなければならない様子をリアルに映し出している。

アントロンの父は、実は自分が前科者ゆえに、警察に「自供すれば家に帰れる」とそそのかされてアントロンを救いたい一心で「自供しろ」と強要してしまったのだった。そのせいでアントロンの一生は台無しになる。

これほど偏見に満ちた社会と司法制度のなかでアントンがたとえ自供しなかったとしても無罪判決を受けれたかどうかは怪しいが、結果的に息子を少年院送りにしてしまって自責の念に苛まれる父と、責めることはしないが心の中で父を憎むアントロンという父息子関係も見応えがあったし、サンタナが出所後も自分の居場所がないクソみたいな家庭環境にも同情を禁じ得ない。

サンタナの父ちゃん(レグイザモ)の新しい妻エルサがすこぶるナチュラルで恐れ入った。

第4話

最終話は一番気の毒なコーリーにフォーカスしている。コーリーは16歳だったため、ただ一人成人として裁かれ、有罪判決後は大人の刑務所に入れられてしまう。

すでに多くの人に知られていることだが、欧米の悪人たちの間には暗黙の不文律があり、レイピストとペドファイルは犯罪者のなかで最も忌み嫌われる存在だ。

そのため、入所すると「良き犯罪者」である囚人たちに暴行とレイプされるという仕打ちが待っている。あるいは自殺に見せかけて殺される。最近はそうしたケースで収監される囚人たちは別の棟に入れられると聞いているが、どこまでそうなっているかは分からない。

まして「ジョガー事件」は容疑者が黒人の「セントラルパーク・ファイブ」によるギャングレイプで、被害者は白人女性である。コーリーの受難、押して知るべし。

コーリーに同情する白人看守役にローガン・マーシャル・グリーンが出てくる。私的には推しメンなんだけど、いまいちヒット作に恵まれない。「プロメテウス」で珍しく大作に抜擢かと思えばリドスコに使い捨てされるし。がんばれLMG。

コーリーへ連日降りかかる残虐な暴行とレイプをまともに考えると胸が壊れるので、ある程度冷淡な姿勢で観たほうが良いだろう。

私は途中でコーリーの体がもたずに死んでしまうか、あるいはみずから命を絶ってしまうのではないかと思ったが、なんとコーリーは最後まで耐え抜き、仮出所の審問会では決して罪を認めないという不屈の精神をみせる(有罪と認めなければ仮出所のプロセスを始められないという規則になっているらしい。)

コーリーはあの時逃げられたのに友人のユセフを一人にできずに付き添いで警察署にやってきて容疑者に仕立てあげられてしまったという驚異的な不運の持ち主であり、この冤罪事件で最も苦しめられた人物だ。

友人を放っておけないという純粋な自己犠牲の精神が本物であり、いかなる暴力をもってしても自分を打ち砕くことはできないことを証明したコーリーの想像を絶する強さに心を動かされるだろう。 彼の口から白人への恨みつらみが出ることもなく、白人を憎む様子も感じられなかったが、実際のコーリーもこのような様子だったのだろうか。

結論

物的証拠がまったくないこと、少年たちの証言がまったく一致しないこと、そして真犯人の連続レイピストであるマタイアス・レイエスの証言から考えても、やはり少年たちは無実だったように思う。

そもそもこんな猟奇的で残虐なレイプをする狂人は基本的にローナーであり、集団で犯罪行為をすることはまずない。

ましてこれだけ体を損かいされた状態の女性を、前科のない少年が突然ギャングレイプするとは考えづらい。

真犯人のマタイエス・レイエスはジョガー事件の前にも連続レイプ事件を起こしているし、彼の自供と手口からいっても単独犯であることは間違いないだろう。

マタイエス・レイエスがコーリーが刑務所内で運命の出会いをしたのは真実だ。マタイアスが自白に至ったのは「神を見た」からではないものの、信仰心が影響したと認めている。

マタイアス・レイエスが自白を決意したのは、自分の悪質な犯罪歴にも関わらず、刑務所内で人々が分別をもって接してくれたというポジティブな経験と、コーリーをみて罪悪感が芽生えたためだそうだ。

およそ彼のような冷酷残虐な強姦魔・殺人犯には罪悪感や共感を望めないことはわかっているので、彼が自白をしたのは、自分の罪のせいで苦難にある無実のコーリーを気まぐれにも気の毒に思った罪悪感と、独善的な信仰心によるものだろう。

なお、少年5人はNY市を訴え、合計41ミリオン㌦(1㌦100円換算で41億円)の和解金を勝ち取りました。コーリーが12.2ミリオン㌦(12億2千万円)、他4名はそれぞれ7.1ミリオン㌦(7億1千万円)を受け取った。

本ドラマで何度も出てくるトランプ大統領は、いまだに少年たちが有罪だと信じているようだ。それはともかくとして、本ドラマのトランプ大統領の批判が過ぎていてかなりウンザリした。

なぜここまでトランプ大統領を批判しているのだろうか、当時この少年たちを公然と非難し、死刑制度を取り戻すべきだという大々的な広告を8万5千㌦かけて出したことは事実だが、直接的に少年の冤罪にかかわったわけではないのにと思っていた。

そうしたらエグゼクティブプロデューサーにあの人の名があった。

反トランプ派代表で、最近は迷走してセレブたちからも目を細められているあの名優である。

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あの名優

ロバート・デ・ニーロは私の好きな男優ベスト10に入る名優だが、反トランプに燃える姿にはゲンナリさせられる。代々のガールフレンドや奥様が皆黒人なので、黒人の視点で考えているのかもしれないが、その様子はまさにトランプ錯乱症候群といっていい。

デニーロ「いや~アル・パチーノは素晴らしいね!でもね、これだけは言わせて!!ファック・トランプ!」

アル・パチ困ってたがな!

最近のデニーロはもはやファック・トランプのイメージしかない。

これはこれでおもしろいんだけど。

でもいくら批判するにしても、映画やドラマでここまであからさまにされると、黒人少年たちの冤罪より実はトランプ批判が裏の目的なんじゃないの?と勘繰ってしまって気がそがれてしまうし、せっかくのコンテンツの中身が損なわれてしまう。

しかも糾弾すべきは間接的に事件を煽ったトランプ大統領ではなく、当時の女検事リンダ・フェアステインや白人刑事たちじゃないだろうか?少年たちが賠償金をもらったことで示談になったのだろうけど、直接的な原因である人たちが法的にに何一つ責任をとらないって納得いかない。リンダなんて本をいっぱい出版してるし。

トランプ大統領もトランプ大統領で、当時の警察と司法制度に過度な信頼を置きすぎなのでは。まあ白人男性には白人男性の視点があるから仕方ないかもしれないし、白人たちのシステマチックな過失やその根底にある人種差別意識を単に認めたくないのかもしれない。

トランプ大統領はワイルドリングをした黒人少年たちの悪いイメージを払拭できずにいるんだろうけど、やはりそこは偏見について内省する努力は願うところだ。少年たちは、ジョガー事件の日、実際に窃盗や暴行を行っていたのでその点では有罪だが、ジョガー事件とは事件の深刻度と性質がまったく違うし。

ネトフリは実話ベースのドラマは面白いものを作るのでお勧め。ただし、ポリコレに傾倒していることだけは留意しておくといいかも。