海外に長期滞在したあと、母国に帰って感じるカルチャーショックを「リバース・カルチャーショック」と呼ぶそうだ。
子どもが小さい頃は年2回ほど帰国できたが、子どもが就学して日本への帰国はいま年1ペースなので、毎年リバース・カルチャーショックを感じている。
今夏の帰省で一番感じたリバース・カルチャーショックは、日本の丁寧なサービスを「ウザイ」と感じたことだった。
日本のスターバックスは丁寧すぎる
実は、日本流のおもてなしである丁寧なサービスを受け、ウザイと感じた時は一度ではない。
その中でも一番ウザさを感じた事例は、スターバックスでのことだった。
スターバックスのドライブスルーに入って、オーダーするとこうなる。
注文時のやり取り
店員「いらっしゃいませ、こんにちはー!本日はスターバックスにお越し頂きありがとうございまーす!本日はコーヒーと一緒にドーナツはいかがですか?」
私「あ、いえ、グランデサイズのキャラメルマッキアートください」
店員「かしこまりましたー、キャラメルマッキアート、グランデサイズがおひとつですね。ありがとうございます!他にご注文はございますか?」
私「ないです。以上で」
店員「かしこまりましたー、グランデサイズのキャラメルマッキアートおひとつで、本日合計は○○円です。では、お車、お気をつけて前の方にお越しくださーい」
私「はーい」
注文時はまあ、こんなもんだけど、別に文句ない。
「お車、お気をつけて」なんて優しい言葉をかけられて、「おお、なんだ優しいな…」と思ったくらいだ。
窓口でのやり取り
店員「こんにちはー。本日は、グランデサイズのキャラメルマッキアートおひとつで、〇〇円になりまーす。」
私「はい」と言って、金を渡す。
店員「失礼致しまーす、2、4、500円からでー。それでは、お釣り〇〇円になりまーす」
私「はーい」
店員「では、お客様、申し訳ございません、ただいまお作りしておりますので、もう少々、このまま車のほうでお待ち頂けますでしょうか、お待たせして申しわけございません、失礼いたします」
私「はい」
キャラメルマッキアートが運ばれてくる。
店員「お客様、お待たせ致しました。それではこちら、グランデサイズのキャラメルマッキアートになります。上から失礼致します。お気をつけてお持ちください。ご注文は以上でよろしかったでしょうか。」
私「はい、どうも」
店員「それではお車、お気をつけてお帰り下さい」
私「はいはい、どうもー」
車はもう進んでいるので、後ろのほうから店員さんの「 本日はスターバックスをご利用頂き、ありがとうございましたー!」という叫び声が聞こえる。
最初は「お車、お気をつけてお進みくださーい」にちょっぴり気を良くした私だが、商品を受け取って帰る頃には、かなりゲッソリしてしまった。
こんなに丁寧である必要ある?
セリフ半分くらい、いらなくないですか?
コーヒー一杯を買うためだけに、ここまで長くて丁寧なセリフを喋られると、「もういいから」と言いたくなるのは私だけなのだろうか。
アメリカのスターバックスの場合
アメリカのスタバの場合のやり取りを見てみよう。
注文時のやり取り
店員「スターバックスにようこそ、今日のご注文は何にしましょうか?(最近は「コーヒーと一緒に何かお召しあがりになりますか?」バージョンもある)」
私「グランデサイズ、アイスのキャラメルマッキアート下さい」
店員「オウケィ、グランデサイズ、アイスキャラメルマッキアート、〇〇円です。窓口までどうぞ」
窓口でのやり取り
店員「ハーイ、〇〇円です」
私「ハーイ」
店員「お釣りです。今すぐに来ますからね~」
少ししてアイスキャラメルマッキアートがやってくる。
店員「どうぞ。Thank you, have a nice day!」
私「ありがとう。あなたも」
で終わり。
シンプルで効率がいいと思いませんか。
全員が丁寧なサービスを好むとは限らない
丁寧なサービスはいいと思う。でも丁寧すぎるサービスは、はっきりいって鬱陶しい。そして日本の丁寧なサービスは、往々にして過剰な時がある。
言葉遣いが丁寧なのはいいことだけど、回りくどくて本当に言いたいことは何だ、まだか、とじれったさを感じたことがスタバ以外でも何度もあった。
スタバのドライブスルーで時間をかけたい人は皆無だろう。おそらくさっと行ってさっとコーヒーを買いたい人がドライブスルーを利用する。したがって、セリフも少なめ&丁寧だが、できるだけシンプルなカスタマーサービスの方が利用者としては都合が良いはずだ。
日本は全体的にカスタマーサービスが良いことで知られているけれど、マニュアルに引っ張られる傾向が強い。たとえば、見るからに忙しそうにしている客に対しても、ゆっくりと楽しみたそうな客に対しても、まったく同じ接客をする。
これはスタバの話ではないが、ひどいときは「急いでるんで」とか「急いでるんで、なるべく急いでもらえますか」とリクエストをしても
「あ、お急ぎで!かしこまりました!それでは、今すぐお包みしますので、申し訳ございませんが、2~3分頂戴しても宜しいでしょうか?」
と言われるので
「あ、いえ、急いでるので、包まなくていいです」
と言うと
「あ、そうですか、かしこまりました。申し訳ございません、それではこちら〇〇ですね、こちらの袋の中に入れさせて頂く形で宜しいでしょうか?どうもすみません、失礼いたします。お急ぎな中、お待たせしてしまって大変申し訳ございませんでした。本日はお買い上げありがとうございました」
と続ける人もいる。
過剰な丁寧さは、単に鬱陶しいだけ。客はそこまでおもてなしを期待していない。
私がアメリカ式のフランクなやり取りに慣れてしまっただけなのだろうか?
同じように、デパートでの買い物も、アメリカはフランクでシンプルだ。ふらっと行って、パッと買って帰ってこれるので、気負いがない。
しかし日本のデパートで買おうとなると「あの一連のやり取りをするのかー、面倒くさいし、時間ないな、やめとこ」という思考回路になって購入を控えることも少なくないのだ。丁寧に対応されたら、丁寧に返さなければならないという日本人の律儀な性が働いてしまうのだろう。
スターバックスで嬉しかったサービス
逆に、スターバックスで嬉しかったカスタマーサービスはこんな簡単なものだ。
同じく、ドライブスルーを通った時のこと。
女性店員さんは、簡素で丁寧なやり取りをしてくれた。
そして窓口でコーヒーを待っていた時に一言こんな声をかけてくれた。
「今日は、皆さんでお出かけですか?」
そこで数秒の小会話が生まれた。
これはアメリカなどの英語圏でよく見られる風景である。
女性店員が、定型外の言葉を発した瞬間、彼女と私は、上も下もない、同等の立場であることを再認識できた。コーヒーを買う私と、コーヒーを売る彼女。彼女はコーヒーを渡し、私は対価を払う。私は客だが、神ではない。
丁寧すぎでも不躾でもない、人間同士のナチュラルなふつうの会話。
これが一番嬉しいサービスであった。
スターバックスのサービス、これはアウト
スターバックスのサービスは神対応とも言われていて、すこぶる評判がいい。スターバックスには接客マニュアルというものがないそうで、「お客様の気持ちを読んだ上で一歩先のサービスまで提供しよう」という方針だそうだ。
でも私はこの「一歩先のサービス」に疑念を持っていて、たとえば次のような一歩先のサービスは、私の場合は完全にアウトだ。
2013年にツイッターでRTされていたこのようなメッセージで、本人は感動されていて、多くの方が称賛していたが、私のように「これはダメだろ…」というような批判的な意見もあった。
店員とお客さんの間に、その前にどんなやり取りがあったかは定かではないが、「受験勉強中で…」「そうなんですかー大変ですね」というようなやり取りがあったにせよなかったにせよ、こんな風に相手のプライバシーに踏み込んだメッセージは頂けない。
その前に、あなたが勉強中ということが分かるやり取りがなかったら、
「なぜ私が勉強していることを知っているのだろう、見られてたのか…」となる。
勉強中ということが分かるやり取りがあったとしても、私のようなひねくれた輩は
None of your goddamn business とか
Mind your own F-ing business とか思う。
nosy(詮索好き、他人のことに首を突っ込む)と思われて、アメリカでは毛嫌いされるので注意が必要。現に私なら間違いなく「nosyだ」と思うケースである。
それが相手のことを気遣った言葉なのかどうかは関係ない。「勉強ガンバレ^_^!」であっても、「長時間の勉強はお控えください」でも関係ない。問題は、一歩、立ち入り過ぎている点だからだ。
ただし、それが女性からの電話番号だったら、話は別なのだが。