野郎ども。フランク王国のパリに行く準備はできましたか。
「ヴァイキング」シーズン3後半は、いよいよフランク王国に行きますよ。
フランク王国に行く準備ができていない人は、次のいずれかを選んでね。
さて、シーズン3の後半戦ですが、第6話はラグナルにとってターニングポイントといえる回だったので、丸々一記事を割くことにしました。
悲しい死が訪れます。
【ヴァイキング~海の覇者たち】シーズン3第6話あらすじ感想
パリ襲撃に向け、ラゲルサとカリフがヘダビューからカテガットにやってくる。
ポルンが無事に出産。シギーと名付ける。ヴァイキングの時間経過は早い。イングランドへ出航する前にポルンの腹は膨れていなかったが、帰ってきて赤子を産んでいるので第1話から第6話までの間に9か月くらい経過してるということか。
美しい顔面を損じられたポルンはビヨルンを遠ざけ、他に愛人を探すように言う。ビヨルンはポルンの顔の傷に多少怯みながらも「馬鹿なことを言うでない。顔面の傷など気にしない」と言うものの、ポルンの言いつけ通りに他の女を探す。
・・・探すの?
で、トービと交わる。岩の上で。オン・ザ・ロックで。
トービと…岩の上で?
「トービて誰だっけ?」という私みたいな人のために説明すると、トービはエルレンデールの嫁である。エルレンデールは故ホリック王の息子で、父をラグナルに殺された過去からラグナルの家族への復讐心をメラメラと燃やしていて、どういうわけか(多分無理矢理)トービを嫁にした。
さらにいうと、トービはエルレンデールの嫁になる前は故ボルグ首領の嫁だった。波瀾万丈な夫歴を持つ薄幸の女である。更にいうと美人なのか美人でないのか議論の余地がある。
ビヨルンは「僕は妻を愛しています」とトービと自分自身に言い聞かせながらトービに覆いかぶさる。オン・ザ・ロックで。
トービも夫のエルレンデールに虐げられているので他に癒しと救いを求めている身、強くて優しいビヨルンを受け入れたのも無理ない。
まぁ、ヴァイキング式ライフスタイルを考えると、命が軽くて(あくまでもこのドラマ内の話な)人が挨拶するくらい簡単に死ぬわけだし、それを考えると性交も軽くて至極当然ではあるのだが、「ビバリーヒルズ青春白書」並みの内ゲバと乱交ぶりだなーと思いながら私はオンザロックの若き二人を眺めていた。
イングランドのウェセックスでエセルウルフ達による虐殺から命からがら逃げのびてきたお爺さんがラグナルのもとに辿り着き、移住地が襲撃されて全員死んだことを伝える。
失意のお爺さんが「家族を失ったのでもう死にたい」というので、ラグナルが絞め殺す。
・・・殺すの?
お爺さんも
「そうは言うたけど本当にやるとは思わなかった」
という顔を浮かべながら死んでいく。無念。
ラグナルがお爺さんを殺したのは、もちろんヴァイキングの移住民たちがエクバートによって虐殺されたという情報を隠蔽するためである。
今のラグナルにとっては復讐よりパリ征服という野望の方が大きかった。虐殺が仲間にバレれば、仲間はパリよりイングランドへの復讐を優先させるだろう。
ラグナルの新世界への探検心が復讐心より強かったことが分かる。もちろんラグナルも復讐心は捨てないので、いずれイングランドには復讐するつもりだったには違いないが。
アセルスタンは神の啓示を受け、再度クリスチャンとして生まれ変わったことをラグナルに告げる。
この神の啓示というのが、夜中に目を覚まして壁の穴を覗くと水をかけられただけというちゃちぃ啓示なのだが、兎にも角にもアセルスタンはキリスト様と北欧の神々の間で長く揺れ動いた結果、
「やっぱり僕、クリスチャンがいい!」
とかそれはそれは幸せそうな顔してラグナルに言うんだ。
北の民と一緒にクリスチャン多数殺害したくせに、貴様、戻るんかい。
でもラグナルは責めることもなく「そうか」と言うだけでした。
アセルスタンのキリスト教徒としての再生は、ラグナルしか受け入れられないだろうね。他のヴァイキングたちは裏切りとみなすでしょう。
ラグナルは純粋にキリスト教に興味があるというよりは、北欧神以外の未知のものへの知的好奇心が止まらないというだけなんだけど。それはちょうど新天地を見つけて征服しようとする探求心と同じ。
単に王様を目指していた他の首領たちと違って、ラグナルは広い心を持っていた。それが同じように広い心を持つ博愛のキリスト教僧アセルスタンの心と共鳴した。シーズン1から繰り広げてきたこの二人の友愛は「ヴァイキング」最大の魅力だったので、このあと起きる一連の出来事に私は心を痛めました。
アセルスタンもさ、北欧神ではなくキリスト教に戻ったからといって、ラグナルからもらった腕輪を捨て去ることなかったんじゃない?アセルスタンにとっては物はあまり意味を持たないものなんだろうし、キリスト教を信仰しながら腕輪を着け続けるのは教義に反するからなのだろうけど、ヴァイキングにおける異教徒である自身の立ち位置をあまり理解していないというか、開眼したから生へのこだわりがなくなったからなのか、腕輪を捨てることをヴァイキングたちがどう感じ取るか考えないかね?まあ、アセルスタン、天然なところあるからな。純真無垢というか。ナイーブというか。
さて、北欧の神々を一番よく知っていて信仰心が強いフロキが、ラグナルの信仰心を疑い、キリスト教徒のアセルスタンを贔屓するラグナルに文句をつけ始める。
フロキの脳内では、ラグナルがエクバート王の条件を呑んだのも、ヴァイキングたちがイングランドの戦争(対マーシア国)に巻き込まれたのも、エクバート王が裏切って移住民たちを虐殺したのも、トルステインが死んだのも、「アセルスタンがそそのかした」からなのだ。アセルスタンが腕輪を捨てたのもじーっと見てる。
だが、宗教は建て前の理由であって、フロキを思い切った行動に駆り立てたのは嫉妬心だった。ラグナルのアセルスタンへの深い愛と二人の親密さにフロキはひどく嫉妬した。かりにもアセルスタンは異教徒だというのに何故そこまで愛するのか、俺よりも愛するのか、とな。
嫉妬は往々にして過小評価されやすい感情だが、嫉妬は人間を精神不安定にし、衝動的で自己中心的な行動に至らせる。殺人でも上位動機なのは言うまでもない。
フロキの嫉妬の矛先はアセルスタンに向かう。
アセルスタンは祈りの最中、斧を手にして入ってきたフロキを受け容れる。「主よ、私は貴方の元へいく準備ができました。私を受け容れてください」と言い、一撃を受けて死ぬ。
アセルスタンという重要キャラにしてはあっけない最期だったので、アセルスタンはひょっとして生きているのではないかと疑いもした。でもラグナルが独りでアセルスタンを運ぶシーンを目にして、あぁアセルスタンはキリスト様のもとへ旅立ってしまったのだと知ることになった。悲しい。
アセルスタンを山に埋めたあと、アセルスタンに「お前がいなくて寂しいよ」といって川で髪を剃るラグナル。
そしてアセルスタンの十字架を自分にかける。
意味深だよね。
でもラグナルという複雑な人間心理がよく描かれているエピソードでした。
フロキが嫉妬に燃え狂ってアセルスタンに憎しみを抱くというヴァイキング流三角関係、そこから発生する殺人事件という火サス式展開も好きではある。
ただね。
ただ、トルステインとシギーを失ったあとにアセルスタンを失うというのは、ドラマ的にはちょっと心配であるよね。いずれもメインキャラだし、シーズン1からのオリジナルキャラであって、立ち位置美味しい人たちばかりだもん。
それにアセルスタンの存在によって私たちはラグナルの異なる一面を見てきたわけだし(いわば、アセルスタンが窓になっている)両刀使い(キリスト教と北欧神)のアセルスタンがイングランドと北欧の橋渡しになるし(良くも悪くも)、なくすには惜しいキャラだよなぁ…と思うわけです。
今のところヴァイキングは「ウォーキング・デッド」のキャラみたいに、筋書に合わせるためにらしくないことやり始めてキャラがブレブレになるという失敗をおかしていないけれど、こうして大事なキャラをどんどん殺してしまうと視聴者にショックを与えるために無理な筋書にしたり、キャラにらしくないことをしたりとかしそうで心配ではある。
アセルスタンがいなくなったとなるとパリの攻防にも影響してくるし、ラグナルの海外進出も羅針盤を失ったようなものだよなぁ。もとより、ラグナル自身が現世の羅針盤を失ったというべきか。
他方、イングランドのウェセックス。
アセルスタンと寝たジュディスが出産する。
出産後、姦通罪で耳と鼻を削ぐ刑に処されます。
棒に括り付けられていたので、火あぶりの刑かなと思ったんだけど違った。
それにしても耳と鼻そぎ落としはキツイ。せめて指にして下さい。
現在イスラム原理主義地域でみられる悪名高い慣行をこの時代はイングランドでもやってたのかなー。
耳は髪の毛で隠せるが、鼻はキツイな…
タリバン兵の夫に耳と鼻を切り落とされたビビ・アイシャさんは元気だろうか。
さて、ジュディスさんはエクバート王に「子どもの父親は誰だ」と公衆の面前で問われる。
言おうとしないので、右耳を切られる。
このときのジュディスさんの叫び声がすごい。迫真の演技に一気ジュディスのファンになりました。可愛いよねー。
次は左耳を切られそうになったので、たまらず「アセルスターーーン」と自白する。
するとエクバート王「拷問担当者、ちょっと待てぃ!何か言ったぞ!ジュディス、あんだって?」
ジュディス「ア、アセルスタン。子どもの父親はアセルスタン」
エクバート「アセルスタンだって…!?お前は子どもの父親がアセルスタンだと言っているのか!?なんということだ…!アセルスタンは神の使い。最も神に近い男だ。ということは子どもは神に遣わされた子ということになる!こんな幸運なことがこの王国に起こるとは。ああ~神様ありがとおおお。おい、やめじゃやめじゃ!ジュディスを今すぐ解放するんじゃ!」
横でエセルウルフ(ジュディスの夫でエクバートの息子)がチベスナ顔を浮かべている。この人もけっこう可哀想な人やね。周囲というか父に振り回され続け…悪くいうと無策王というか。
なお、エクバート王はジュディスとアセルスタンを焚きつけていた本人なので、子どもの父親がアセルスタンなのは最初から百も承知です。
私はそんなエクバートが大好きです。
ジュディスとアセルスタンのベビーは、アルフレッドと命名されます。
またしても重要キャラが死んでしまった回でしたが、アセルスタンを失ったこの回がラグナルの運命のターニングポイントだったように思う。
シーズン3を観終わったあとだから言えることかもしれないが、アセルスタンが天国に旅立ったあとのラグナルは魂が抜けたように弱々しく、パリの戦いでも重傷を負うが、それを気にも留めない様子だった。
かといってそれは「死を恐れず」のヴァイキング精神ではないのは明々白々で、アセルスタンの死によってますます神(単数or複数)への信仰心が揺らいでいるようにも感じられるんだよなぁ。
アセルスタンがはっきりと神の存在を感じて「僕はクリスチャン!」と明るい顔で天国に旅立って行ったのとは裏腹に、現世でキリスト教と北欧神の間に挟まれながら陰鬱とした顔を浮かべるラグナルという対比も、それは綺麗に細やかに描かれていると思う。
シーズン3のポスターのラグナルの顔も浮かないもんなぁ…
というわけで、ターニングポイントとなった第6話、あとから思い出してみてね。