2008年にインドで起きた同時多発テロを題材にした映画『ホテル・ムンバイ』を観た感想です。
インドが誇る5つ星ホテル「ホテル・ムンバイ」がイスラム過激派に狙われ、172人が死亡、負傷者279人をだしたインド史上最悪のテロです。
ホテル・ムンバイは標的の一つに過ぎず、近くのカフェや道路、駅なども同時に銃撃され、多くの犠牲者を出しました。
ホテル・ムンバイのテロ事件の映画は他にも製作されており、「ジェノサイド・ホテル(感想ここ)(2018年)」、「パレス・ダウン(2015年)」「The Attacks of 26/11(原題)」「Back to the Taj Mahal Hotel(2017年のドキュメンタリー)」などがあります。
『ホテル・ムンバイ』作品情報
原題:Hotel Mumbai
製作:2018年
監督:アンソニー・マラス
出演:デヴ・パテル(「スラムドッグ$ミリオネア」「ライオン」)、アーミー・ハマー(「君の名前で僕を呼んで」)、ジェイソン・アイザック、ナザニン・ボニアディ(「ホームランド」)、アヌパム・カー
上映時間:123分
インド映画には欠かせないデヴ・パテルがホテルのスタッフ、「君の名前で僕を呼んで」のアーミー・ハマーが金持ちの宿泊客でその妻をナザニン・ボニアディ、ロシア人の金持ち宿泊客にジェイソン・アイザックです。
『ホテル・ムンバイ』感想
粗削りな「ジェノサイド・ホテル」に比べると、役者もある程度有名どころを揃え、大衆受けを狙った作りだった。この顔ぶれを見てもらうと分かると思うけど。
全員、期待通りの動きをします。
まず左から。デブ・パテルは貧民ながらも真面目で勤勉な従業員で、自分を犠牲にしても宿泊客を助けようとする英雄的キャラ。ムスリムなので途中で白人の高齢女性に「仲間なんじゃないの?」と偏見の眼差しを向けられるも、言葉巧みに白人恒例女性の心を溶かす。
えーい、こんな聖人君子いるかー!
次、左から2番目のイケメンはアメリカ人のリッチな夫で、ミラクルという胸を希望にコソコソ動き回るが大して活躍できないまま最後は惨めな道を辿る。
その美人妻は美人過ぎて「こいつ死なねえな」と視聴者に安心感を与えるし、本人も本人で美人ゆえの見えないバリアを知っているようで無謀な行動に出たりする。突然方向転換して皆と違う方向へ一人で行くと、皆が行った先で撃たれてて、美人妻は無事に歩いている。
お前はワンダーウーマンか。
でも本当はワンダーウーマンではないので、すぐに捕まる。
だけど美人なので、右端のロシア人(アイザック)も必要以上に助けようとする。ダブルでイラッとくる。ロシア人は富裕層なんだけど女好き、酒好きの横柄というキャラ。
シェフは最初は嫌な奴だと思ったら意外と責任感が強くていい奴ーというギャップ枠。
キャラの風刺が典型的すぎてオエッとくる。
客や従業員にはデブ・パテル以外ほとんどムスリムがいないし(ホテルのあるエリアはけっこうムスリムが多い)。
題材が題材なだけにスリリングで緊張感ある2時間は約束されているけれども、大衆受けする作品なだけに「ジェノサイド・ホテル」のような狂気やカオスさはトーンダウンしてるかも。
気になったのはホテル・ムンバイへの忖度なのか、ホテル・ムンバイ(の従業員)を称賛する出来になっていること。ホテル・ムンバイのPRなのではないかと思うほど、違和感のある台詞が目立っていた。
2時間ホテル・ムンバイのPR映画を観ていると思えば納得する。
「お客様は神様です」という日本で度々物議を醸す一言まで飛び出す。お客様は神なので自分の命を犠牲にしても助けるという従業員の姿勢が真実だったかどうかは分からないけれども、自分を犠牲にしても客を助けようとうしたにしても従業員のデヴ・パテルが演じたキャラはあからさますぎたように思う。
またアメリカ人宿泊客の美人妻の運命も出来過ぎているように感じた。インド人のはずなのに何故コーランの一節を唱えることができたのだろうか。乳飲み子があれだけ泣いていても何度も修羅場を潜りぬけていくのも然り。ここにもケイト・ベッキンセールがホラー映画で惨殺されないような忖度を感じてしまう。「ジェノサイド・ホテル」にはそのような忖度がなかったので、やはり本作は大衆向けなのだなぁと。
ホテル・ムンバイの悲劇と英雄的行為は過去作で何度も紹介されているし、再び本作を製作する必要があったのかなぁ…という冷たい見方をしてしまうほど目新しいものもメッセージも何もない。やっぱりホテル・ムンバイのPR映画と見るのが良さそう。