ベルリン・シンドロームを観たので、今度は関連映画「Hounds of Love(原題)」を観てみました。オーストラリアの作品です。
邦題は「アニマルズ 愛のケダモノ」になりました。
ヴェニス映画祭で、主演のアシュリー・カミングスが女優賞を受賞。なかなか評判が良い映画です。
とはいっても内容は、高校生を誘拐、監禁・レイプ・殺人という衝撃の内容なので、万人受けではありません。ホラー映画ファンじゃないと観たくない作品です。精神的な苦痛を味わいたい方は是非。
直接的なグロシーンはないので、ビジュアル的にはそれほど心配ありません。血は多少出てきますし、残酷なシーンはありますが、画面には見せません。観客の想像力に委ねるところが多いです。
被害者が未成年のティーンエイジャーなので、やはりそういうシーンを直接見せるのは不適切だと思う。闇の子どもたちみたいなクソ映画はしっかり見せていて、児童ポルノそのものみたいで、腹が立ちました。
闇の子どもたちのレビューはこちら→2016年の最後は、クソ映画「闇の子どもたち」を見た感想で〆ます。
さて、本作「Hounds of Love」ですが、結論からいうと、良作だと思いました。実は、監禁レイプ殺人という恐ろしい暴力は本作のメインテーマではありません。実は情緒あふれる心理サスペンスでした。題名から察するとおり、「愛を求めて囚われていること」がこの作品のテーマでもあります。
オーストラリアのホラー/スリラーは良作が多いですね。ちなみに本作は、実際に80年代にオーストラリアのパースであった殺人事件をベースにしています。
映画「アニマルズ 愛のけだもの」の紹介
モデルとなった事件は、ムーアハウス殺人事件と呼ばれ、オーストラリア史上もっとも悪名高い殺人事件のひとつです。
1986年、オーストラリアのパースで、わずか5週間の間に15~31歳の女性4人をレイプ殺人、1人をレイプ監禁した夫婦がモデルとなっているようです。犯人はデビッド・バーニーとその妻キャサリン。
ムーアハウスとは、彼らの家のストリート名です。映画の中でも、ストリート名はマルコム・ストリート。同じアルファベットMで始まっていました。
5人目の被害者女性が誘拐された次の日に逃げ出すことができたことから解決した事件です。彼女が逃げ出していなかったら、被害者はもっと増えていたことでしょう。
死体を森に埋めたり、家族に手紙を書かせたことも同じでした。
キャサリンの証言を見ても、デビッドに精神依存していて、デビッドの寵愛を受けたい思いが分かります。また、デビッドは被害者の女性一人に好意を抱きつつあったこと、キャサリンがそれを知り、彼女を殺せ、さもないと自分が殺すと通告しました。
5人めの被害者は17歳の子であり、彼女が唯一の生存者です。
なお、他にも数名の犠牲者がバーニーの犯行によるものだと推測されています。二人は有罪を認め、終身刑を受けました。
映画に出てくる殺人犯の夫婦は、このバーニー夫妻の雰囲気によく似ています。
「アニマルズ 愛のけだもの」のあらすじ
1987年オーストラリアのパース。女子高生が行方不明になる事件が多発していました。
その犯人はジョンとエヴリンという夫婦。二人は車で女子高生を誘拐し、家に監禁、レイプ、拷問の上、殺人を繰り返していたのです。
両親が離婚した高校生のヴィッキーは、夜中に母の家を抜け出して、パーティに行こうとします。パーティに歩いて行く途中、ジョンとエヴリンが車で通りかかり、「マリファナを買わない?」と勧められます。
ヴィッキーは二人にうまく言いくるめられて、車に乗り込み、二人の自宅へ。そこで酒に薬を入れられ、意識を失います。ヴィッキーは監禁されてしまいます。
「アニマルズ 愛のけだもの」の感想
出演者は全員素晴らしい演技をみせてくれています。
主演のヴィッキーを演じたアシュリー・カミングスはとても可愛かった。細身ではなく、健康的でムチムチしています。あ、実際は24歳なので未成年ではありませんのでご安心ください。
ウ〇コまで味方にするようなそんな体当たりの演技を見せてくれます。こんな倒錯した映画に出演するのも、なかなか勇気要りますよね。今後が楽しみな女優さんです。
ヴィッキーよりさらに良かったのは、やっぱりエヴリンを演じたエマ・ブース。これ、オスカーものでしょう。モンスター夫婦にしてはけっこう美人だなと思ってググってみると、本作とは全然違う、モデルのようなルックスの美人さんでした。
設定が80年代後半ということもあって、エヴリンはいつも「ハイウエストでダボダボしてるけど裾に向かってテーパーしてるGパン」を着てます。懐かしいなあ。
スタイルの良さが際立っていました。でもエヴリン、ほぼ毎日ブラウンのTシャツにこのGパン着てましたね。
一度だけ、ヴィッキーのシャツとホットパンツ履いて鏡の前でひとりで踊り出すシーンがありますが、ものすごい熟女の色気です。格好良さまで感じた。
ヴィッキーは良心が離婚していることに腹を立てているティーンエイジャーで、家を出て行った母マギーへ怒りを抱えています。母マギーに「ママみたいに強くて自立した女性になりたくない」と言います。このセリフがやけに心に残ったんですけど、やはりポイントでした。
母マギーと父トレバーの関係は最小限にしか描かれていません。トレバーは外科医です。マギーはそんな外科医の夫と立派な家を去り、貧しい地域に引っ越しさえしています。
トレバーのことをよく知らない部外者の私たちとしては、「外科医で金持ちなのに、なんで?」なんて思うわけですが、ヴィッキーに子犬を買い与えて、マギーとやり直そうとするトレバーの演出から、トレバーが支配的な夫であると察することができます。でもこの時点では、ヴィッキーにはまだマギーの気持ちが理解できません。
一方、エヴリンはというと、子どもを失い、モンスターである夫ジョンを愛し、愛されたいと願い、夫に精神的に依存していて情緒不安定と、文字通り「壊れた」女性です。マギーとは比較にならないでしょうが、エヴリンもまたジョンに心身ともに支配された生活を送っているわけです。
そんなふうに男に抑圧支配されているエヴリンを見ているうちに、ヴィッキーは母マギーの気持ちを悟ったに違いません。支配的な男性の呪縛から逃れるということを。エヴリンも最後には気づいてくるわけですが、ヴィッキーの母親宛てに書かせたメッセージがとても皮肉で、ここらへんに監督の妙技を感じました。
犬も効果的に使われていましたね。ちょっと犬絡みの最後のシーンはグロかったですけど。
ヴィッキーが機転を利かせて二人の間に亀裂を生じさせようとしたことは認められますが、心理戦とかマインドゲームというレベルではありません。この心理戦に力を入れてしまうと、映画はガラッと雰囲気が変わってしまったでしょうし、嘘臭さが出てしまったかもしれません。
一番緊張した時は、ヴィッキーの両親と彼氏が向かいの家に探しに来ている時に、ジョンの家に金の取り立て屋が来た時ですね。あの時のヴィッキーとエヴリンの演技は最高でした。
あと脚本・監督はベン・ヤングで、これが初監督作品です。初監督作品の映画に若い女性の連続監禁・レイプ・殺人を選ぶって鬼畜すぎる。
でも本作をじっくり観ると、これが単なる鬼畜ホラーではなく、形は違えど、女性が男性の支配から逃れる心理がテーマであることが分かりました。