【メトロ・マニラ】という映画をNetflixで見た感想です。
購読している他のブロガーさんたちがおススメしていたので、いつか見たいと思っていたところ、Netflixでやっていたのでこの機会に見てみました。
夜な夜な電車の中に連続殺人鬼が出没して、最終電車に乗ったうら若き女性を襲いつづける「ミッドナイト・ミート・トレイン」や「レイジ数分」のようなホラーだと勝手に想像していたら、どうもそうではないらしい。
【メトロ・マニラ:世界で最も危険な街】作品情報
原題:Metro Manila
公開年:2013年
監督:ショーン・エリス
出演:ジェイク・マカパガル(父)、アルシア・ベガ(母)、ジョン・アルシラ(オング)
上映時間:115分
言語:フィリピン
製作国:フィリピン、イギリス合作
監督は「説明過多の映画にはウンザリ」と言い切るショーン・エリス。
代表作に「ハイドリヒを撃て!ナチの野獣暗殺作戦(感想ここ)」「フローズン・タイム」や、アンジェリーナなんとかによる日本に食人文化があったと宣伝したとかしないとかで叩かれた映画ではない方の「ブロークン(レナ・ヘディ主演)」がある。
本作は英国アカデミー賞の非英語作品賞にノミネート、英国インディペンデント作品賞で作品賞、監督賞、芸術業績賞を受賞、他ノミネートされている。
【メトロ・マニラ:世界で最も危険な街】あらすじ
フィリピン農村部に住むオスカーとマイは、貧困から抜け出すためにマニラに行って仕事を探すことにする。
2人の娘を連れ、わずかな所持金でマニラに着いたが、仕事はなかなか見つからない。騙されて所持金のほとんどを巻き上げられ、オスカーは金や貴重品を運ぶ危険な警備員の仕事に就く。
オスカーに良くしてくれるオングという先輩にも恵まれ、やっと貧困から抜け出せると希望を持つオスカーだったが・・・
【メトロ・マニラ:世界で最も危険な街】感想
なにこの素敵な映画。 ひさしぶりにまともな社会派映画見たわ。
この作品はもう私や他のブロガーの素晴らしいレビュー見てる暇あったら、とっとと見ちゃった方がいいので、ちゃちゃっと感想書いときますよ。なんつって、書いたら2000字超えちゃってますよー。
物語は哀れなフィリピン人家族が人に騙され続けてさらにどん底に突き落とされ、希望のない絶対的貧困で絶望する姿を描く。
現実の世界らしく、「親切な人」には裏切られるし、業者にはうまいこといいくるめられて安くこき使われるし、まともな仕事は見つからないし、スラム街は汚いし、タコ部屋だし、金はないし、腹がすくし、子どもはいるし、家族にとっては最低最悪の状況。
何がいいって、ドキュメンタリーのようなリアリティ溢れるマニラの日常よ。人口過密で人が溢れ、肉体労働の仕事一つを奪い合うような毎日で、稼げる日銭は微々たるもの。父は自分が食うのを我慢して子どもに与える。これは子ども持ちには堪えるシーンだ。
主人公のオスカーは農村育ちで人が良く、人を簡単に信用してしまう。それも一度だけに非ず、何度も騙されてしまう。そんなオスカー「お前は日本人か」と声をかけたくなり、いつしか顔まで日本人に見えてくる。あまりにも簡単に何度も騙されるので、マイたちがアパートから放り出された時にはマイの代わりに怒りまで湧いてくるほどお人好しだ。
アンダーグラウンドの世界らしく、オスカーの人を疑わない人柄の良さが仇になり、家族は騙されて住居も失い、文字通り道に放り出される。道は汚く、ゴミが溢れ、車の往来が激しい。
アカデミー賞ノミネートされたフロリダ・プロジェクトも貧困のシングルマザーとその子を描いた作品だったが、貧困の度合いが圧倒的に異なる。
本作ではウィレム・デフォーが「大丈夫デフォ?」と声をかけてくることもないし、近所の人が総菜を分けてくれることもないし、オスカーが騙せそうな愚鈍者もいやしないし、通りすがりの人間に売りつけるような香水もないし、マイが腹を立てて使用済みナプキンを窓に貼ったりというような嫌がらせをする気力もない。
マイは、オスカーに文句のひとつも言うことない。おそらくそこまで底辺に落とされると、怒る気も湧いてこない。怒るにはエネルギーがいるのだ。エネルギーを消耗すれば、腹が減る。
妻マイはスラム街の箱ルームで子供二人の面倒を見ながら、ゴーゴーバーで働く決意をする。2人も子供がいるのになんだそのスタイルは!と、もちろんこのアラフォーは怒った。それほど美しい。
だがマイが美しいとか言っている場合ではない。なんとマイは第三子を妊娠していた。その上、酒の売り上げがノルマに達しないために女主人に「10歳の娘を働かせてはどうか」と言われ、マイの感情は限界に達する。このときの女の心情が果たして男性にわかるか!
オスカーはいくども親切を装った男たちに騙され続け、最後にオングという会社の先輩と出会う。オングは屈託がなく、豪快で、気前が良く、オスカーに慕われる存在となる。
オスカーの妻に夕食に招待され、2人の優しさに希望を見出すオスカーだが、そこには今までよりも深甚な罠がオスカーを待ち受けていた。
このツイストには、オスカー同様に希望を見出した私たちも間違いなく打ちのめされるといって過言ではない。
奇しくもオスカーたちを踏みにじってきた者たちのうち、10歳の娘にも性奉仕をしろといった女だけが正直者であったという残酷な事実だ。希望を餌に騙すのか、現実を突き付けて残酷な選択を与えるのか。
いずれにしても絶対的貧困というアンダーグラウンドの世界には希望などないことを皆知っている。だからこそ最後の父の決死の愛によって希望を残したい監督の思惑が伺えた。
タイトル「絶望の貧困世界で、唯一の希望とは?」の答えは、言うまでもなく親の愛!
お金は大事なんだよ!!ということを頭に叩きこむためにも見ておきたい一作。
評価:75点
同監督作品の代表作。「ハイドリヒを撃て」はおススメ!