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【プーと大人になった僕】感想:クリクソファー・ロビンが柔軟剤を忘れた発達障害のプーを叱責する話

プーと大人になった僕映画の感想

プーと大人になった僕

ハロー、童心を忘れた大人たち。

童心を忘れたどころか童心さえなかったかのような私は、この金曜日に封切りした映画「プーと大人になった僕」を見てきましたよ。

 

【プーと大人になった僕】作品情報

原題:Christopher Robin

公開年:2018年

監督:マーク・フォースター

出演:ユアン・マクレガー、ヘイリー・アトウェル

上映時間:104分

言語:英語

本作を手掛けたマーク・フォースター監督はドイツ出身、12歳の時に映画館で初めてフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」を見て、監督を目指すようになったという。

12歳で地獄の黙示録…同じ年齢の頃、「死霊のはらわた」やロメロの「ゾンビ」とか見ていた私と同じ輩である。だからこういうボンクラが出来上がっちゃったわけですけど!

初のおかずが「地獄の黙示録」であることは、のちのマーク・フォースターの作品にダークなものも多いことにも少なからず影響しているかもしれない。彼の作品だと「チョコレート」「マシンガン・プリーチャー」「007慰めの報酬」「ワールド・ウォーZ」を見たことがあるけれど、どれも一抹の闇を感じるもの。

「君のためなら千回でも(原題:Kite Runner)」を見たいなーと思ってたところでしたよ、監督、日米ボンクラ同士の以心伝心だね。

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ハゲはヒゲが似合う事を身を持って証明するマーク・フォースター監督

ちなみに9月28日には同監督作品の「かごの中の瞳」も公開予定です。

 

【プーと大人になった僕】あらすじ

大人になって童心を忘れたクリストファー・ロビンがプーと再会し、発達障害のKYプーを叱責して反省する話。

 

【プーと大人になった僕】感想

プーといえば世界のアイドル、可愛らしいふっくら体型、はちみつばっかり食ってる無害なクマ、爺さんのような声と、老若男女プーを嫌いな人間はそうそういない。

そのプーがついに実写化!ということで、この時点ですでにバイアスがかかって評価が高くなると予想される。プーの実写化映画を批判したら「ど腐れ外道」扱いされること間違いないので、表立って批判しまくってる人はおそらく皆無だろう。

プーがいかに良いことを言っているかは他の善き人に任せるとして、「ああ、そう言われてみれば」という点にフォーカスしてみようではないか。ダメですか。

ちなみにアニメ版は見たことあるかもしれないけど、見てないかもしれない。子どもが小さい頃に一緒に見た気がするけど、見てないかもしれない。そんな感じで感想を贈ります。

予告編の時に来て驚嘆したのはまずプーの有様です。なぜ誰も突っ込まぬ。毛質がバサバサでディズニーのプーの面影がなく、まるでどこぞの国のパクリ製品のようなルックスをしている。その辺のクマの人形に赤い寸足らずの洋服着せたかのようなプーの姿に実はみんなガッカリしましたね?したでしょう?熊ライバルのパディントンが可愛かっただけに。

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柔軟剤入れ忘れられたプー

しかもプーは劇中、このポスターのような笑顔を見せることがない。後述するようにクリクソファー・ロビンに自分のやることなすこと否定され、足蹴にされ、後々勝手に謝罪されるというモラハラ被害者にされたのが理由だ。

さらに悲惨だったのがプーの右腕ピグレット。リアル豚の毛が散発的なのを似せようとし余計な真似をしたのだろうか、毛がピリング(毛玉)にしか見えず、生地の目地が見えて無残な姿に。

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脱毛症を患い、目地が見えているピグレット

イーヨーはロバなのでバサバサ感は仕方がないとしても、ティガーも目地が見えていたし、ティガーのオレンジ×ブラックの配色は影を潜め、古き良き昔を回顧したい大人トーンに変えられ、ベージュ系になっている。

しかしその中で周囲の空気を読まずに1人だけやけに毛質のいい動物がいた。それがラビット。ラビットだけは原形を留めておらず、ピーターラビットここにあり。フェロー・アニマルズたちとは一線を画すその小綺麗さに戸惑いを隠せない。それを察してか、ラビットの出場回数は最も少なかった。

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バサバサのアニマル仲間をよそに一人勝ちのラビット

さて物語は特に大きなイベントがあるわけでもなく、すっかり多忙で家族に構わなくなったクリクソファー・ロビンがプーに再会し、忘れた童心を取り戻し、人生で何が大切かということに気づかされケセラセラに目覚めるというポジティブな話である。

そんなクリクソファー・ロビンを演じるのは、ふかづめ師匠が大好きなイギリスを代表する女優ユアン・マクレガー。「男優ですよ」とか言うな。ふかづめさんが女優ってんだから女優なんだ、きっと。

イギリスだけど厳密にはスコットランド出身のスコティッシュです。これでも私ね、スコットランドに行ったことあるんですよ。ロンドンから半径一時間以内のところにちょびっとだけ住んでて、イギリスの冷たい気候とイギリス人のアンフレンドリーな扱いに寂しさを感じていた頃、スコットランドを訪れたんです。

そこでフレンドリーなスコットランド人の温かさに触れましてね、それ以来スコットランドが好きなんですよ。スコットランド人の英語は何言ってんだか、ビタ一文分からなかったけどな。

そんなスコティッシュのユアン・マクレガーは、私の中で好きでも嫌いでもないけど、まぁまぁ好きかなという位置なんだけど、クリストファー・ロビン役っていったらまぁこの人よねやっぱり、という意味ではすごく納得したの。

ユアン・マクレガーのハンサムだけどもアクが強くなくて中性的でニュートラルな印象が、ファンタジーな世界でぬいぐるみシェアーNo.1であるプーの親友クリストファー・ロビン役にすごくマッチしていて、「クリストファー・ロビンがイメージと違う」という声などひとつも聞こえてこないであろうぐらい似合っていた。

ところがー!クリストファー・ロビンが予想を超える糞大人になっていてナイスミドルの私は衝撃を受けたし、クリクソファー・ロビンがプーを叱責し続ける長~い長~い長~い時間が苦痛で、「なんだこの大人。これがクリストファー・ロビンだとでもいうのか?」と隣に座る娘が思っていただろうことが伺えた。

もちろんプーはクリストファー・ロビンをかなり振り回すし、イラつかせるので、クリストファー・ロビンが足蹴にするのは無理もない。このプロセスを経て、後ほどクリクソファーが改心していくので、この一連のプロセスは絶対に必要なシーンなのだが、あまりにもプーがぞんざいに扱われ過ぎているのは、子供向けディズニーファンタジー映画実写化といってもダークな独裁的側面を見せたマーク・フォースターらしさなのかもしれない。

プーはクリクソファー・ロビンと再会後、彼の家に行ってハチミツを食べ始めたのはいいが、ハチミツを塗りたくった毛足で家を歩き始め、クリクソファーがシンデレラ宜しくハチミツを拭いて回る。すると今度はレコードプレイヤーのホーンに頭を突っ込んで外してしまう。

翌日プーはハチミツを探してキッチンを破壊する。

クリストファー・ロビンはこの時点ではまだ怒らないが、邪魔者のプーを森に返そうと電車に乗る。電車の中でも仕事をしていると、暇でしょうがないプーは窓から見えたモノを言うという一人遊びをし始めてクリストファー・ロビンの忍耐力を試す。

クリストファー・ロビンは徐々にクソ化してきて動くぬいぐるみのプーに「気が散るからもっと小さい声で」と注意する。音量を下げて再び「木、犬を連れた女性…」と一人遊びを再開すると、クリクソファー・ロビンは「気が散る、もっと小さい声で」とため息をつく。

100エーカーの森の入り口にプーを押し込むようにしてそそくさと去ろうとしたクリクソファーだが、さすがにプーの傷つき、寂しげな、柔軟剤忘れられた後ろ姿を見て、見当たらないプーの仲間どもを探してやると言う。

ところが一緒に探している間も大人の常識をかざしてプーを叱責する。まぁ、プーがKYな質問を大人にし続けるからですけどね!自業自得ってやつですよ。そんなこと言うな。そんなクリクソファーをプーは見放し、一人で仲間を探しに消える。

こんなネガティブなプーの話、聞きたくない、聞きたくない。

実際、クリクソファーを改心させたのはプーではなく、プーの仲間とワチャワチャやっている時で、プーはひたすらクリクソファーのストレスの掃きだめみたいな感じです。

改心したクリクソファーは最後にプーのところにやって来て、「ゴメンね、酷いこと言って。僕が悪かったわ」とモラハラ男のようにプーの許しを請う。そんなクリクソファーにハグするプーの哀れなこと。

というわけで、色々思うことはありましたし、期待とは外れていたけれど、プーの金言は大人に染み渡るものばかりで、確かに「何もしない時間」というのは最高の時間だよなと納得はしたわ。

でもプーをそのまま小さい子供に置き換えても同じメッセージ性は伝えられるので、プーの映画で「童心を失った大人を健全に戻す」というメッセージの特別性は感じられないんだよね。

プーの心情を思うと、クリクソファーの最後の許しだけで許されるべきとは思わず、「酷い大人を世界的アイドルのプーが健全にした美話」の裏で、何も分からないプーが意味もなく心を傷つけられるという苦い思いが残った隠れ陰湿な映画とも言える。

原題が「クリストファー・ロビン」になっていることから分かるように、本作はクリストファー・ロビンが主役になっている。したがって今度は「ウィニー・ザ・プー」というタイトルで、プーの目から見たバージョンを作るべき、それがフェアというものだ。