児童婚というおぞましい慣習を知っていますか。
児童婚とは、その名の通り、年端もいかない少女が成人男性と結婚を強制される、悪しき「慣習」です。途上国や第三世界には、いまだに児童婚がはびこっている地域があります。
児童婚は部族間の争いを止めるためや、支配的立場にあった男性が引退したときに「ご褒美」として少女を「妻」として与えることが多々あります。引退した男性なので50過ぎ、あるいは60過ぎの初老の男性だったりします。少女に拒む権利などありません。
こういった慣習がはびこる地域では、強制的な結婚を女性が拒む権利がまったくありません。それどころか、拒めば、同じ部族民に殺されるか、家族に殺されるか、あるいはアシッドアタックです。
本作「娘よ」の映画の舞台はパキスタン(と少々アフガニスタン)です。
教育の重要性を説いたためにタリバンに襲われ、頭を撃たれたものの生き延び、国連で演説したマララ・ユスフザイさんもパキスタン出身の女性でしたね。
10歳の少女がとても無邪気で無垢で可愛らしく、それゆえに映画のテーマがより重くのしかかります。
パキスタンにも進歩的な地域・民族があれば、この映画のように後進的な地域・民族もいます。本作では、パキスタンのパシュトゥーン人が取り上げられています。
自分と娘の安全&命を懸けた逃避行なので、サスペンス要素が強い映画かと予想していましたが、ジャンル的にはヒューマンドラマのほうが正確だと思います。
また、ちゃんと全編アフガニスタン近くのパキスタンで撮影されているので、話の内容も、とてもリアルに感じました。アフガニスタン近郊はどんなところなのかといつも思っていて、米軍で行ったことのある旦那に聞くと砂漠と険しい山岳地帯と言うのですが、いまいちイメージが沸かず。この映画をみて、未開の地たくさんあり、厳しい環境であることが分かりました。
たとえばパキスタンやアフガニスタンの女性の悲劇的な話を聞くと、どうにかして逃げられないものなのかと身勝手な考えが一瞬頭によぎります。しかし、こうした環境で逃避行は困難だと思い知りました。
映画「娘よ」のあらすじ
パキスタン山間部の部族長ドーレットに嫁いだアッララキ(サミア・ムムターズ)には、10歳になる娘ゼナブ(サレア・アーレフ)がいた。部族間の報復合戦が続き、相手側の老部族長を訪ねたドーレットは、和平の交換条件としてまだ幼い娘を彼に嫁がせることを受け入れる。
(出典:Yahoo映画)
映画「娘よ」の感想(多少ネタバレあり)
部族間の和平のために結婚を提案したのは相手側の長老です。
しかも10歳の娘の結婚相手も、その長老です。
「おまえ、ただのペドフィリアじゃねえか」と突っ込みたくなる気持ちを押さえつつ先を進みました。
すると今度は、ドーレットが和平交渉に行っていて留守なのをいいことに、娘の母親アッララキに、夫ドーレットの弟が迫ってくるではありませんか。
アッララキは襲われずにはすみますが、弟は「ドーレットが死んだらお前を妻にする」と脅します。
補足説明しますと、ここで例えばアッララキが襲われてレイプされてしまった場合、悪いのはアッララキになり、周りにバレたらアッララキが投獄されます。さらに酷いと、アッララキが死刑か私刑になります。
夫ドーレットが帰ってきてアッララキに「娘をあっちの長老と結婚させる」と言います。
父ちゃん…酷すぎるだろ。
アッララキも見るからにドーレットより若いので、アッララキも児童婚の被害者だったことは明白です。
そんなアッララキが10歳の娘ゼナブに結婚式のガウンを見せるシーン…
ガウンには血がついています。
ゼナブが「これ何?」と聞くと、アッララキが「私の血よ、そしてあなたのお祖母ちゃんの血…あなたはもう一人前ね…だからこれから大事な話をするわね」と言うシーン…
アッララキが娘を連れて逃げることを決意したのは、いつだったのかは分かりませんが、娘ゼナブにあることを耳打ちされた、おそらくこの時だったのでしょうか。
逃げるって言っても、未開の山岳&砂漠地帯なので、隠れることもままならず、けっこう緊張しました。
あのトラック運転手に会えた幸運は、映画の中でしか起きないかもしれません。
しかもトラック運転手は無能ではなく、ムジャヒドというイスラム人民戦士機構にいた人という、この状況で望める最高の運。
巻き添えくらったのに、いい人なんだなぁこれが。
インダス河とカブール川の由来の話も、フィクションなんですが、おもしろかったです。
その後少しピースフルな時間が流れ、終盤に大きな展開があります。
解釈が分かれるところでしょうが、最後はあの終わり方で良かったと思います。
アッララキも、初めて男性への愛を知ったでしょうし。
監督は、希望の種を残したかったそうです。
アッララキとトラック運転手の二人の雰囲気がいいですね、これがアメリカやヨーロッパの映画だと、簡単にキスやセックスになってしまうんですが。
最後、エンドクレジットの初めに
To my mother (母へ)と流れます。
そしてそのまま、motherの後にlandをつけて
To my motherland(母国へ)となるんです。
パキスタン出身のアフィア・ナサニエル監督の魂の叫びを感じますね。
また、本作は1999年に娘を連れて逃げた母親の実話に基づいて、監督が書き上げたそうです。
監督のインタビュー記事をこちらで読むことができました。
『娘よ』 アフィア・ナサニエル監督インタビュー(Cinemal Journal)
映画の中の細かい描写にも言及しているので、映画を見た後こちらの記事を見ると「なるほど」と理解が深まるので、是非読んでみてください。
トラック運転手が過去の恋の話も良かった。
アッララキの着ていた緑色のサリー(ヒジャブ?)がとても美しかったです。
また、娘が結婚式のために着飾った映像があるのですが、赤の衣装でこれも美しかった!!一度こういうの着てみたかったな…
あと最後にもう1点。
アッララキが途中からマリオン・コティヤールに見えてきました。