
Huluオリジナルドラマ「侍女の物語」を視聴しました。
ネタバレなしで紹介しますので、安心して読み進めて下さい。
エミー賞受賞作品「侍女の物語」
「ハンドメイズ・テール/侍女の物語」は、カナダの女流作家マーガレット・アトウッドによる1985年の小説「侍女の物語」をドラマ化したものです。
1990年に映画化もされています。
2017年エミー賞で主要部門5冠を達成。
- 作品賞
- 主演女優賞(エリザベス・モス)
- 助演女優賞(アン・ダウド)
- 監督賞
- 脚本賞
を獲得しています。
「侍女の物語」のあらすじ
かつてアメリカ合衆国だった国は、全体主義国家のギリアド(ギレアデ?)共和国と変貌した。環境汚染の影響で女性の多くが不妊になった社会。子どもの産める女性は、司令官のもとに送られ、子どもを産むための性奴隷になるよう強要される。
愛する夫と小さな子どもがいた主人公の女性は、生き残って娘を取り戻すことを誓う。
要は、女性が出産のためのマシーンにされてしまった近未来のディストピア世界を描いているドラマです。代理母を強制している世界です。
主人公の女性オフレッドの「わたしの名はオフレッド。私には別の名前があった。でも今は使うことを禁じられている」というナレーションから始まります。
子どもを産めない女性は廃棄され(コロニーに送られ?)、子どもを産める女性は、司令官などの富裕層の家に送り込まれ、子づくりを強要されます。彼女たちは名前も失い、Of + 所有者名という「所有」を示す名前を与えられます。
Offred: Of Fred (フレッドのもの)→オブフレッド/オフレッド
Ofglen: Of Glen(グレンのもの)→オフグレン
といったような感じですね。
アメリカが今のギリアド共和国へと変貌する様子は、オフレッドの回想によって紹介されます。
「侍女の物語」の感想
アカデミー賞、オスカー、エミー賞って誰が決めるのか知りませんが、結局は人間が決めるものだから、最終的には自分が好きかどうかですよね。したがってあまり参考にしてなくて、「ふーん、賞とったんだ」くらいにしか思っていません。
だってホームランドのピーター・クィンが入ってないって、どうですか?ウォーキング・デッドのリックはどうですか?ゲーム・オブ・スローンズは間に合わなかったので対象外で仕方ないですが。
と、ウンチクを述べたところで、本題に入ります。
結論から言うと、侍女の物語、エミー賞はダテではないでしょう。この手のドラマが嫌いじゃない限り、最後まで見れるドラマです。第1話、第2話あたりは静かな運びです。第3話あたりから少しずつ引き込まれて行きます。
実際見てみると良作だったので、これならエミー賞もしかたないかなぁとも思うのですが、どちらかというとハリウッドやメディアが興奮過熱していて、一般人は割と冷静に見ているように思います。
次の点から、侍女の物語が良かった点を述べます。
・強烈なあらすじ
・キャストの好演
・現代への風刺
強烈なあらすじ
まず、あらすじを読んでもらえばわかると思いますが、ストーリーが強烈です。全体主義国家となったかつてのアメリカ、出生率の低下、子どもを産むための性奴隷と衝撃的なストーリーです。さらに伝統的価値観への回帰という現代への風刺ともとれる題材。これだけでも見てみたいと思わせる強さがありました。
ディテールも凝っています。軍国主義、全体主義、伝統的価値観への回帰という専制的体制が細かいところまで描写されています。
言葉づかいもその一つ。上述した侍女の名前やら、禁止されている言葉などがあります。たとえば「ゲイ」という言葉は禁止されており、「性的反逆者(原文:gender traitor)」といった言葉が使われます。
子づくりは「儀式」と呼ばれ、他の侍女たちと一緒に体位の練習もします。「儀式」のやり方も衝撃的なので、無言で見入ってしまうことでしょう。
キャストが優秀
主演女優としてエミー賞をとったエリザベス・モスは文句なし。個人的にはやはりゲーム・オブ・スローンズのサーセイを演じたレナ・ヘディを推したいところですが、GOTは対象外なので仕方ない。
主役のオフレッドが送り込まれた司令官を演じるのは、イギリス人俳優のジョセフ・ファインズ。仕事であまり家にいませんが、寡黙でミステリアスな司令官を好演しています。
司令官の妻セリーナを演じるのはイヴォンヌ・ストラホフスキー。デクスターや最近では24:リブアナザーデイに出演していました。司令官の夫フレッドとの間に子どもを欲しています(オフレッドを妊娠させようとしています)。ときに冷酷で、ときにオフレッドに弱音を吐くような微妙な役を好演しています。
そして侍女の調教を担当する怖~いリディアおばさんを演じるのはアン・ダウド。コンプライアンス~服従の心理~という映画でファーストフード店にかかってきたイタズラ電話を真に受けて、バイトの子にとんでもないことをしてしまった上司の女性を演じた女優です。こういう役が似合いますね。
現在への風刺
現在への風刺が強烈に組み込まれているところもエミー賞に選ばれた理由の一つでしょう。反フェミニズム、白人至上主義、ゲイ差別。司令官を演じるジョセフ・ファインズは、このドラマのインタビューで、明白にトランプ大統領を批判しています。
When you have your commander in chief make the most abhorrent remarks, so-called ‘locker room remarks’ and get voted in, this piece becomes very prescient.”
(このドラマは、許しがたい下品な発言をする司令官に投票するとどうなるかを暗示しているんだ。)
引用:Joseph Fiennes, interview with Rebecca Rubin/Variety.com
でもこれは言い過ぎじゃないですか?ハリウッドやメディアはリベラル派なのでトランプ大統領を叩きたいのは分かりますが、政治的思想はドラマとは分けて欲しい。ジョセフ・ファインズはそもそもイギリス人。
製作総指揮者のブルース・ミラーも「女性の身体を支配する男性政権」や「大統領選で感じた恐ろしいミソロジー(女性や女らしさに対する嫌悪や蔑視)から多くのソースを得た」と明言しています。
でもちょっと待ってください。実際は反フェミニズムやゲイ差別が酷く、女性や同性愛者の権利や人権が踏みにじられている事例は、アメリカよりもイスラム教の国々で発生しています。そもそも先の大統領選で、ミソロジーなんて感じましたか?私にはまったく感じられなかったし、むしろアメリカほど女性の権利が保証されている国は他にあまりないですよ。
出演者たちが反フェミニズムやゲイ差別をイスラム教の一部の国ではなくトランプ大統領に結びつけるのは甚だ疑問です。チベットやウイグルの民族浄化に目をつぶりながら、旧日本軍による慰安婦制度を20世紀最大の女性人権侵害と非難する構図と同じです。
原作は30年前に執筆されたものですが、原作者はトランプ大統領の存在を予見したわけではないので、製作陣がトランプ大統領を批判するために本ドラマを利用しているように感じます。政治的意図が伺えてしまう点は、ドラマが優秀なだけに非常に残念に思いました。
視聴者が冷静であれば、ドラマ内で起きている身の毛がよだつような恐ろしい出来事が実際に世界のどこで起きているということは、考えれば容易に分かることなので、そこは視聴者の冷静な判断に委ねたいところです。FGM(女性割礼)も出てきます。
現在への風刺という点では、私が気に入った描写がいくつかあります。ひとつは男性の描かれ方。全体主義のギリアド共和国ですが、軍国主義的でもあり、軍隊の統制がとれています。軍隊にはもちろん男性しかいません。
この男性たちがですね、非情なんです。感情をなくしたロボトミーのような非情さです。たとえばある女性が逃亡したいがために見張りの男性の局部を露骨に触り始めるシーンがあります。現在の感覚でいえば、この男性はきっとこの女性の誘いに乗り、その辺の部屋に女性を連れ込んでいたと思うのです。しかし、そういうことがない。
こうした男性の描かれ方は、リベラル派からみれば男尊女卑やミソロジーのように感じるのでしょうが、私には「行き過ぎたフェミニズムに嫌気がさした男性の反発の表れ」というような違った見方を持ちました。(強調しておきますが、ドラマ内で起きている女性の扱いは酷いものなので、男性への同情の余地や弁明の余地はそこにありません。)
私は、昨今の行き過ぎたフェミニズムに対する男性の反発心をよく見聞きすることもあって、フェミニズムでもなんでもそうですが、押しつけ過ぎたときの反発、リバウンドが逆にこのような悲劇を起こす危険性があるのではないかと危惧しました。心に留めておきたい一面です。
良作ですが、進みが遅く、個人的にはハマるまではいきませんでした。論議を醸すストーリー、現代への風刺、フェミニズムなどポリコレ臭があることから話題になる作品ではありますが、思ったほどではないというのが正直な感想です。
皆さんはどういった見方をするでしょうか。
「ハンドメイズ・テール/侍女の物語」シーズン1は、アメリカのHuluで2017年に放映されました。日本ではHuluで2018年2月28日(水)より放映予定です。