ゲーム・オブ・スローンズが終了して喪失感を味わうかと思いきゃ、シーズン8がなし崩し的な展開になったため、逆に喪失感が軽減された気がします。
ショークリエイターの2人はきっと「ゲースロロスで暴動が起きるといけないから、シーズン8はテキトーに脚本書いておこうぜ」なんつってレベルダウンしたのかもしれません。
シーズン8のクソな展開をありがとう、クリエイター。感謝すべきなのか怒るべきなのか困惑しております。
さてゲースロが終わってしまっても面白いドラマを追い求める旅路は終わりません。
楽しみにしていたHBOのドラマ「チェルノブイリ」がいよいよ放映開始されました。(HBOはゲーム・オブ・スローンズと同じアメリカのケーブルテレビ放送局です。)
新作海外ドラマ【チェルノブイリ】
1986年4月にソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリで起きた史上最悪の人災による原発事故を描いたドラマ。
パニックを防ぐために情報が統制されたソ連共産主義下で、人々がどのように被ばくして命を落としていったのか、人々がどのように尽力したのか、鉄のカーテンのむこうで一体何が起きていたのか、全5話のミニシリーズながらも天晴なドラマである。
登場人物
メインキャラはこの3人です。
ジャレッド・ハリスレガソフ教授
レガソフ教授はソ連の核物理学者で、この未曾有の事態をいち早く把握した人間の一人。チェルノブイリ対応チームの一員として現場で指揮を執った。
ステラン・スカラスガルドボリス・シチュエルビナ
ボリス・シチュエルビナはソ連(ウクライナ)の政治家で、首都クレムリンからチェルノブイリ原発事故のあと事態収拾のために現場の指揮を命じられた人物である。
演じるはスカラスガルド家の長老ステラン。いつもステラン・ステラスガルドって言ってしまうんだよなー。
エミリー・ワトソンウラーナ・コーミャク
ソ連の核物理学者。チェルノブイリ事故に早い段階で気づき、事態解決に尽力する。このキャラクターは架空の人物で、チェルノブイリ事故を調査した複数の科学者たちを基にして作られた。
【チェルノブイリ】感想
ドラマ開始後すぐにその爆発は起きる。
しかしチェルノブイリ爆発の深刻さを承知していたのはレガソフ教授やウラーナなど一握りの人間で、政治家は誤った情報を流して住民がパニックを起こさないようにと電話線を切る。
原発事故の被害を最小限に食い止めるため、レガソフ教授、ボリス・シチェルビナ(政治家)核物理学者のウラーナが手立てを考える。
この3人を中心に、チェルノブイリの周辺住民や原発事故の処理にあたった「リクビダートル」とよばれる人々のドラマがそれぞれ展開されていくのだが、これが途轍もなくうまい。
チェルノブイリから飛んでくる死の灰を浴びながら、様子を見守る住民たち。死の灰が雪のように舞い、その中で子どもたちは無邪気に駆け回る。生と死が静的なビジュアルで描かれるその様に、誰もが鳥肌と涙を禁じ得ないだろう。
リクビダートルの消防士、兵士、用務員、炭鉱夫たちは原発事故の後処理を命じられる。
第一線に立つ消防士は原発の爆発後ただちに鎮火に駆け付け、放射線からの被ばくをふせぐ保護スーツも着ないまま消火活動を続けた。
何も知らされないまま消火活動にあたっていた消防士たちは、まもなく嘔吐、皮膚の被ばく火傷、意識を失うなどの症状に襲われ、病院に運ばれたあと、苦しみながら数日後に死亡した。
愛する夫でありお腹の中の子の父親である男性の皮膚が溶け出し、人間とは思えない肉の塊に変化していくのを目にする妻ははたして何をを思ったのだろうか。
そしてウランが地下に侵食して海に流れるのを防ぐため、炭鉱夫たちが呼び寄せられる。権威を笠に着た政治家は、屈強で強面の炭鉱夫たちを前にビビりながらも「今すぐチェルノブイリに行ってトンネルを掘るんだ。お前たちに選択権はない」と命じる。
「わかったよ」と言わんばかりに塵一つない水色のスーツに手を乗せていく炭鉱夫たち。共産主義体制下で自分を犠牲にして祖国への務めを全うして祖国とその人々を助けようとする複雑な心境が絡んだ様子が丁寧に正確に描れている。
とりわけ炭鉱夫のリーダーのグルコフ(アレックス・ファーンズ)はひときわ精彩を放つ。トンネルの中は50度にも上る暑さのため、グルコフは送風機をボリスとレガソフ教授に頼むのだが、送風機を使えば放射能に汚染された空気によるダメージがさらに大きくなってしまう。そのため送風機の導入を断られる。
するとグルコフたち炭鉱夫は全員素っ裸になって作業をするのだ。「洋服を着ていたって被ばくの程度は変わらない、そうだろう?」というグルコフに「そうだ」と答えるレガソフ教授。
さらにグルコフは「俺たちが死んだあとは埋葬や家族の面倒は見てもらえるんだろうな?」と続けるが、ボリス・ストラスガルドは「わかんない」と答える。そこはアメリカ人のように嘘でも「任せとけ」と言わんか。言ってくれ。そして感動的なBGMを流さんか。流してくれ。お願い。
第4話には兵士たちが行う後処理にバリー・コーガン君が加わる。
バリー・コーガン…「聖なる鹿殺し」では同郷のコリン・ファレル先生を悩まし、「アメリカン・アニマルズ」では健全な若者による120万㌦の強盗活劇を演じたアイルランドが誇る若手俳優である。
器量は大して良くないのに映画のスクリーンで映えまくる顔の持ち主であり、加害者も被害者も悪魔の申し子も素直な青年もなんでもイケるオールラウンドプレーヤーである。早いところ卵を落とすバリー・コーガンが観たいような観たくないような(ファニーゲーム)。
バリー・コーガンが良作しか選ばないのかバリー・コーガンが出ると良作に見えてくるのか、どちらが真実なのかは分からないが、映画の神様のご加護を受けてているのは間違いない。
アイルランド人であるにも関わらずチェルノブイリにいるとウクライナ人にも見えてくるのがバリー・コーガンの不思議な魅力のひとつである。
そんなバリー・コーガンは、かわいそうに被ばくしたペット動物の殺処分という難儀な仕事に回されてしまう。第4話は犬好きには目を塞ぎたくなる回なので注意されたい。
しかも単に犬たちを殺処分して回るだけに飽き足らず、廃れた民家の一室では母犬と子犬たちという犬ファミリーまで出てくる。犬の母子家庭を使うなんて。実にゲスい。
一方、チェルノブイリ原発施設では、放射能の濃度のあまりの高さに廃棄物処理の希望の星ロボットまでもが当該エリアに入った瞬間に動かなくなってしまう。
そんな地球上で最も危険な場所と化した場所に、瓦礫処理のために男たちが送られるという無慈悲で致死率高すぎなミッションインポッシブル。
しかも猶予は90秒。その間に少しでも瓦礫を片付け、次の男たちとバトンタッチするというとことんマニュアル処理。あぁ神様。
もちろん90秒後に退避する際にズッコケたり足を石の間に挟んで抜けなくなったり、放射能たっぷりの水たまりにバシャーンと入ったりするドジっ子の導入も忘れない。ドジっ子のゴム靴もちゃんと破けていた。
90秒の間には放射能を測定するメーターのジリジリジリという音が鳴り響いて極めて不快でございます。
本ドラマの音楽や効果音は派手さこそないものの、暗くて重厚で、よりいっそう恐怖を感じる仕様となっております。
最終話の5話はまだ放映されていませんが、予告を観ると、国際評議会のようなところでレガソフ教授がソ連とKGBを相手に家族を危険に晒しても国民や周辺諸国の民の安全のために真実を語るか否かという難しい立場に立たされているようです。
日本の福島原発の放射能に汚染された瓦礫や土壌がどうなったのか、メディアも後追いレポートはしていませんし、汚染土を埋め立てした横浜市の保育園で児童が2人白血病になったという記事も目にしたので気になっています。
このドラマ…観た方がいいんじゃないのかなぁ!
まぁさすがにゲースロ超えは私的にはなかったかな。史実とりわけ悲劇を描いた映画やドラマは点が高くなりがちだけど、それを差し引いても良作であることは間違いないです。ていうか怖えよ!終始怖ぇ!ゾンビとかホラーとか比較にならないよ、こっちはリアルデンジャーだもの!ゲースロとは違う鳥肌の立ち方を何度かしました。嫌な感じの鳥肌です。ちなみに英語で鳥肌のことをgoosebump(グースバンプ)といいます。