麻薬密輸ビジネスを大陸を跨いで描いたドラマ【ゼロゼロゼロ】が面白くて一気見してしまいました。
面白かったので原作「コカイン ゼロゼロゼロ」も読み始めたのですが、分厚いのに一気読みしそう。
メキシコの麻薬カルテル情報はだいたい頭に入っているけど「ロベルト・サヴィアーノはよくここまで調べ上げたな!」というくらい体系的な情報を提供してくれるのでおススメ。
ちなみに原作者ロベルト・サヴィアーノは、麻薬カルテルやマフィアから狙われているらしく、警察の保護下にあるそうです。そのことも本の宣伝効果に貢献している模様。でも原作面白いよ!
Netflixドラマ「ナルコス」や本作も、原作を読んで予備知識を付けてから観ると倍楽しめますよ。知らなかった情報もたくさん。
それからゼロゼロゼロというのは、市場に出ているコカインの中で最も質が良い(=純度が高い)コカインを意味します。
第4話のあらすじと感想です。
【ゼロゼロゼロ】第4話あらすじと感想
第4話の主人公は、コカイン輸送中のクリスです。
クリスはアメリカの船舶会社を運営する父の跡を継いで、姉とコカイン密輸を遂行することにしました。
第3話でコンテナ船の乗組員に裏切られ、ひとり海上に残されたクリスは、セネガル民に発見され、セネガルの港に寄港します。
一方、メキシコではメキシコ軍特殊部隊の一同が、モンテレイの街を支配するために動き出します。
モンテレイの恐怖の始まり
麻薬カルテルを幇助していたメキシコ陸軍特殊部隊は、モンテレイの若いドラッグディーラーたちのハブを急襲し、今後麻薬取引は自分たち「Firm-会社-」を通して行うことを命じ、ハブを管理するディーラー一人の惨殺動画を撮影してネットに流す。
このように実際にメキシコの警官や軍隊の特殊部隊が麻薬カルテル側に転職することは珍しくない。地元にも精通しているし、コネや人脈を活かして検問や国境の抜け道を探したり、警察や軍隊の戦略も熟知しているのでカルテルには有益な人材になる。
メキシコ初の麻薬カルテルを築き、メキシコ全土の中小カルテルをまとめて縄張りベースのプラサを作り上げたフェリックス・ガジャルド(通称エル・パドリーノ)も元は警察官だった。
本作に出てくるコントレラス率いる特殊部隊は、カルテルの傭兵戦闘部隊となり、モンテレイに恐怖をもたらすと予想される。
実際、フェリックス・ガジャルドが凋落したあとシナロアを世界最大の麻薬カルテルとして不動のものにしたホアキン・グズマン(通称エル・チャポ)までの旧世代は「掟」にしたがって制裁するという流儀だった。しかしそれ以降の新世代の新興カルテル「ロス・セタス」「ロス・マタ・セタス」「ラ・ファミリア」などは、インターネットを駆使して凶暴性と残虐性を顕示し合うのが流儀になっている。凄惨な殺害自体をメッセージにしているので、その被害はカルテル構成メンバーのみならず無辜の民にも及び、かくしてそこかしこで銃撃戦が起き、首のない死体が道路に転がったり、陸橋から遺体が何体も吊るされたりという地獄の光景がみられるようになった。本作におけるコントレラスたちは、この新興カルテルをベースにしているようだ。
コントレラスの罪責
残酷無慈悲なコントレラスの複雑な人間性を語るために、コントレラスが濡れ衣を着せて殺した同僚の未亡人とつかず離れずの関係が描かれている。
コントレラスは、カルテルのスパイに仕立て上げて殺した同僚の妊娠中の妻を定期的に訪れ、金を渡し、「お腹の子も面倒を見るから心配するな」という。
同僚の妻は、夫が濡れ衣を着せられて殺されたと確信しているが、目の前の自分を助けようとしてくれる男がまさか自分の夫を殺した張本人だとは露知らず。知らぬが仏とはよく言ったものだ。
代わりに妻は「あなたは良い人よ」とコントレラスに告げる。コントレラスは罪責感を顔に出すわけにはいかないものの、その奥にはありありと罪責感が見て取れる。コントレラス役のハロルド・トレスがこれまた絶妙な表情。
私たちは凄惨な殺人事件を見聞きする度に「なぜこんなことができるのか」「犯人は一体どんなモンスターなのか」と首をひねるが、それは愚問だ。人間は誰しも暴力性を内包していて、その暴力性を人を傷つければ「悪」、自己や他人を守ろうとする正当防衛であれば「善」と現代の解釈で分類しただけのことである。
連続殺人犯がボランティアに精を出したり、レイプ犯が子犬に餌をやったり、人畜無害な男が通り魔事件を起こしたり、評判の良い男が家で妻子に暴力を振っていたり、モラハラしていたり、SNSで子どもへの溺愛ぶりを顕示していた母親が虐待死させたり、社会的に反抗的な人間が事故現場で被害者を助けようしたり、外では嫌われ者の男が家庭で妻子を幸せにしている。それが人間だ。
そうした人間の複雑性と闇を、コントレラス軍曹はまざまざと見せつけてくれる。呉越同舟が原則のドラッグ・トラフィキング世界では人間が語りたがらない恥部と真理が露呈される。
知識人、文化人、金持ち、善き人たちが作った「思いやり」「ポリティカリーコレクト」「男女平等」「差別撤廃」「まっとうな努力」なんていう世界は自己を欺いているだけで、おめでたい奴の道楽に過ぎない。正義のためだとか、善りよい世界にするためとかは金持ちのお遊びに過ぎず、人間はカネ、権力、女がすべて。支配する者が支配するだけ、とマフィアの老ボスは言い切る。
第1話の冒頭で老ボスが語るナレーションがあまりにも正直すぎて面を食らったのを思い出した。
セネガルの港に着いたクリス
船長の裏切りによって、5トンのコカインを積んだコンテナ船に置き去りにされたクリスは、やがて通りかかった船に救出される。コンテナ船はセネガルの港に寄港するが、セネガル当局は貨物の検閲が必要だといって譲らない。
同時にクリスはハンティントン病の薬を失ったので、セネガルの街で薬を調達しようとする。薬は手に入らなかったものの、港湾で顔のきく男と知り合ったことがのちのクリスとエマの運命を左右することになる。
セネガルでクリスに合流したエマ
飛行機でセネガルに飛んできたエマ。どうでもいいけど、エマの奇抜な髪型が気になって集中できない。
エマはフィクサーのオマールという男の協力で、当局と話を付けてコンテナ船をすぐに出港させるために便宜を図る。
クリスはエマに同行せず、港湾に顔のきく男の元を再び訪ねる。クリスは、セネガル当局とエマの交渉がうまくいかない場合に備えて、密かにプランBを練っていたのだった。
クリスは男にコカインの一部を分け与えることにより、コカインを船からトラックに乗せて無事に運び出す契約をした。夜中、コカインを積んでトラックで港湾を出るのと入れ違いに、セネガルの当局が港湾にやってくる。
銃弾を受けながらも現地人の協力で運び出すことに成功したクリスは、ホテルでエマをたたき起こして二人で逃げる。
ドラッグの密輸プロセスがクライマックスを迎えたところでしょうか。スリリングでなかなか見応えありました。
どうやら本作は、あるシーンを起点としてその後の複数のキャラの視点を追うという手法をとるようですね。