「ブレイキング・バッド」のブライアン・クランストン主演の新作ドラマ「Your Honor(原題)」を観終わりました。
・・・うぅむ。
【Your Honor】ドラマ観終わった感想
正直な感想を言いますねー。
期待を裏切られました。悪い意味で。
ブライアン・クランストンが出ているからといっていいとは限らないことは重々承知しているけれども、粗筋要約を読んだり予告編を見た感じでは有望ドラマだと感じたんです。
ブライアン・クランストンを語るにあたって外せない伝説のドラマ「ブレイキング・バッド」。本作「Your Honor」も同じように息子を助けるために法を破る話です。
でもね?
息子を助けるため…という設定は「ブレイキング・バッド」」と同じだけれども、前提は正反対なのよね。
「ブレイキング・バッド」は高校教師であるごく普通の父親が余命幾ばくも無いことを知って、障害のある息子が経済的に苦労することがないようにと犯罪に手を染める話でした。父親は化学教師の知識と経験を生かしてドラッグを精製し始めます。それは違法でも悪いことでもありますが、直接的に人殺しをするシーンは出てきませんし、殺すにしても悪党(ドラッグディーラーやカルテルのメンバー等)なわけです。
そこに人々は「荒野の用心棒」然り「バットマン」然りダークヒーロー的な魅力を見出し、憧れ、密かに崇めるわけです。
一方で今回の「Your Honor」でブライアン・クランストンが演じるのは権威ある判事。「ブレイキング・バッド」のふつうの父親とは異なり、社会的権力を持つ父親です。
その息子アダムが轢き逃げをしたことを隠蔽した挙句に、無関係な黒人少年17歳が轢き逃げ犯に仕立て上げられたのを黙って見過ごして被害者の兄に殴殺されてもそれでも出頭しないという見下げた人物なのです。
ひき逃げ事件を隠蔽するだけでなく、貧しい黒人シングルマザー家庭をぶち壊し、旧友は騙すわ、死体遺棄はするわ、恋人は騙すわ、犯罪組織に密告するわ、殺人者を無罪にもっていくように裁判を操作するわ、友人の裁判官(黒人女性)を飲酒運転で逮捕させるわ、それはもう悪行三昧なわけです。
第1話で、黒人女性を有罪にしようとして偽証した白人警官の嘘を見破って非難するという善人パフォーマンスを見せるのだけれど、結局は貧しい黒人たちがどうなろうと法より自分の息子と自分のことしか考えていない利己的な人物なのです。
もはやブライアン・クランストンであっても唾棄すべき存在に成り下がっていたからね。
しかもこのパパ判事が隠蔽工作やらなにやらで走り回っている間、息子のアダムがとんでもない選択ばかりするんだわ。
アダムといえば、食うなと言われたのに林檎食った奴おうたな。
どんな選択かと言いますと。
まあ、轢き逃げ自体は100歩譲って赦すとしましょう。17歳という年齢も斟酌すれば、人を轢いてしまったらパニックになるのも当然であるし、喘息発作も起こしていたから正常な判断を下すことは難しかったに違いない。どんな善人でも周りに誰もいないという条件が重なれば魔がさしてしまうこともある。
だがな。知ってるか。アダムの奴、高校の美人教師と寝てるんでっせ!(教師役はゴシップ・ガールに出演していたソフィア・ブラックデリア)
そう、第1話でアダムが白いケツを見せてたけど、あのときのGFはなんと高校の教師だったんですよ。…まぁ教師には見えないけど。てっきり同級生だと思ってたわ。
未成年に手を出したのだから女教師の方が悪いのは決まってるけど、もしバレたときに女教師がどうなるか想像できない年齢ではないですよね。未成年と寝たら法的レイプという重罪になるので、女教師は教師の資格をはく奪され性犯罪者として登録されるわけです。
まぁでも、アダムのこの選択はまだ梅レベル。
アダムは「善人」なので、自分がひき殺した少年ロッコ(17歳)の追悼式に足を運びます!(だからワシは善人が嫌いなんだよ!!)
善人てのはな、浮気しておいて「彼(夫)に言わないわけにはいかない!言わないのはフェアじゃない!」とかなんとか言ってゲロるんすよ。結果、自分だけ罪悪感という重りをを肩から外してスッキリするが、相手は傷つき、受けた裏切りを一生負って生きていかなければならないという…何の話してんだっけ。
ひき殺した被害者の追悼式に行くとかさぁ・・・死者を冒涜してるだろ。そこへいって自分の罪悪感と向き合おうとか高尚なこと考えてるわけでしょう?「被害者がどんな人物だったか知っておかないと」とか思ってる?それで気持ちを洗おうとでもしてるわけか?
アダムの快進撃は止まらない。
アダムはロッコの追悼式でロッコの妹フィアに出会います。出会うっていうか…アダムがロッコをひき殺した罪悪感から妹のフィアが気になって目で追ったりして偶然(必然)何度か顔を合わせたあとに話し始めるという展開なんだけど…。
言い方が違えば、轢き殺した少年の追悼式で轢き殺した少年の姉妹を引っ掛けた、ということになりますか?酷いでしょ?
しかもこの二人のシーンがひどい。
話すというより、フィアが哲学者だの科学者だのウイットを利かせた話をし始めてアダムが「えへぇ」みたいに見つめるというバーバル会話なのかノンバーバル会話なのかさっぱり分からない話をしている。しかもこの二人の時間は長尺。
あとさ、女が「意外と博学」で(女性蔑視です)個性的でエキセントリックで、男が「ワオッ!彼女て実は物凄く思慮深くて才女なんだ!彼女、僕のこと分かってる!」みたいに魅かれて付き合うというステレオタイプ的なロマンスの開始メソッドはもうやめないか?
で、フィアとアダムは付き合い始めます。なんでよ。フィア役の女優さんには悪いが、女教師の方が10倍可愛いんですよ。思春期真っ最中でホルモンに支配されるセブンティーン男子は、見た目超ホットな女子ではなく女子の中身が大事とでもいうのか。
アダムがモテるという設定も理解しがたい。どっちかというとアダムはある日突然銃を持参して乱射しそうな陰気な雰囲気を出している少年なので、二人の素敵な女性から言い寄られるというのは信じがたい。
終盤の方だが、アダムのゴッドファーザーであるチャーリー(やなぎやさんが物真似するオヤジ)が「何悩んでんの?おじさんに言ってみな?」とアダムに吐かせると
アダムは「実は、二股みたいな状態で…」とか言う。
やなぎやさんはチャーリーは「マジか?二人と?」と言ってこんな顔をする。
するとアダムが「そのうちの1人は先生で…」とか爆弾告白をする。
チャーリーのビックリ工場。これにはやなぎやさんだって「それ、やべえよ!」と言わざるを得ない。
アダムが女教師と寝ていることを知ってビックリやなぎやさん
いやいやいや、アダムよく聞きやがれ。問題はお前が二股してるとか二人の女性から言い寄られてることではないだろ!
一人は教師、もう1人は自分がひき殺した被害者の姉妹であり、犯罪組織バクスター家の娘だということだろ!!
でもチャーリーはこのときは轢き逃げ犯はアダムの父だと思っているので、アダムの父が殺した少年の姉妹と交際していると思っている。だから轢き逃げ犯が実はアダムだと知ったら、やべえどころの騒ぎではなく、脅して止めようとしていただろう。尤も、このあとすぐにアダムに付きまとうのをやめるように女教師を脅しにいって、女教師から真轢き逃げ犯はアダムであることを知って驚愕するのだが。
とにかくアダムの選択はおかしいでしょ?犯罪組織ボスの息子を轢き殺して逃げちゃったからパパ判事が出頭させずに事故を隠蔽したというのに、なんでその娘と交際するんだよ!
こんなこともあった。アダムは轢き逃げ事件を起こした数日後、カメラをもって轢き逃げ現場の写真を撮るという選択もする。…お前はサイコパスか?
さらにバクスター家のもう1人の息子カルロが、誤って轢き逃げ犯に仕立て上げられてしまった黒人青年コーフィー・ジョーンズを殴殺した件で、アダムは父が判事をしている裁判中に入ってくるという愚行も犯す。
傍聴席には勿論バクスター夫婦も着席しているというのに、最終話では傍聴席の後ろの方に座っているアダムはフィアが近づいてくると手を握り合うということさえするわけだ。
パパ判事はアダムが傍聴席に入廷してきたので明らかにソワソワするのをふつうの悪党ならば見逃さない(悪党は人の心の機微や些細な変化を察知する天才でもある。)
だがパパバクスターはちょっと鈍感なので、ただ単にアダムが判事の息子ということにしか気づかない。ふつうの悪党ならここで気づくはず。傍聴席に判事の息子が来ているのは何故なのか引っかかるものだ。
まぁ、パパ判事もこの時に初めて息子の交際相手がフィアであることを知って愕然とするわけだけど。この時のパパ判事の心情たるや、息子に怒鳴り散らかしたいだろうな。
そんなパパ判事の様子をみてパパバクスターも振り返ってアダムを目視確認。「あぁ、あれがパパ判事の息子で俺様の娘と交際している少年か」と意味ありげな顔をパパ判事に向ける。とはいえ、ここでもパパバクスターはアダムが真轢き逃げ犯だとは気づかない。
私はバクスターがパパ判事の様子から轢き逃げ犯がアダムであることにすぐ気が付くのかと思ったのだが、どうやらそのための小道具として喘息の吸入器は最後まで取っておきたかったようです。
パパ判事も、アダムが警察に電話した時の録音データを弁護士に公開させるという工作をするなら、その前にアダムを法廷に来させないようにするという配慮を何故しないのか。
何故なら録音データには被害者ロッコの最後の息ではなく、アダムのヒューヒューという喘息音が録音されているからだ。録音データを聞いてアダムの喘息が法廷で始まってしまうということは考えないのだろうか。
案の定、アダムは喘息が始まり、法廷の外に出るのだが、そこには録音データのロッコの辛そうな最後の息を聞くことが堪えられずに退出したママバクスターがいた。聞いているのは本当はアダムの喘息音なのだが。
ママバクスターを心配してパパバクスターも外に出てくる。
そこに響き渡るシュコッ!という音。
10話もかけて息子の轢き逃げ事件を隠蔽してきたパパ判事の努力は、アダムの度重なる愚行の末にシュコッによって水泡に帰す。
おそらくドラマへの批判の多くは息子への批判であったと思う。もちろん俳優への批判ではなく、息子の描き方、ひいては脚本への批判なわけだけど。
愚鈍で浅慮なセブンティーンとそれを必死に隠蔽しようとするパパ判事を観せられて、同情する奴がいるのか?
シュコッするくらいならさっさと出頭しれ!たとえ自分が殺されるかもしれないと分っていても。それにバクスター家は大した犯罪組織じゃないから、判事の息子ならしっかり保護してくれるんじゃないの?
アダム以外の話をすると、全体的に肝要な部分で実体が抜けていて、どうでもいい点ばかり肉付けしているのもドラマの質を下げてしまっている。
どうでもいい点は、アダムとフィアの長尺ロマンス、義母の存在とその肩書(上院議員)、パパ判事の亡き妻の生前の不倫や黒人ギャング「デザイヤ」とバクスター家のドラッグ契約の話といった点。
肝要なのに肉付けが足らなかった部分はというと。
パパバクスターが史上最恐の犯罪組織のボスにはとても見えない(ホアキン・フェニックスとカルロス・ゴーンに似ている)。
パパバクスターは無実の貧困家族の家を爆発させてシングルマザーと3人の幼い子を無慈悲に殺したかと思えば、実子をひき殺して逃げたパパ判事を即殺することなく話を聞くという寛容さを見せるし、我が子を殺された復讐のためにパパ判事の息子を殺そうともしない。
犯罪組織のボスならば、(轢き逃げ犯だと思っている)パパ判事ではなくその息子アダムをまず狙うものではないだろうか。でもアダムには目もくれない。
ママバクスターが文句を言っていたようにパパバクスターは暫く何もしようとしないのである。怖いボスであることを示すエピソードは何もなく、単なるホテル経営のビジネスマンにしか見えない。
そのお株を奪ったのはもう1人の息子のカルロ・バクスターで、人種差別主義者の無教養の犯罪者ぽくてよかった。カルロの過去の殺人で初めてcarb checkという言葉を知って震撼した。
女検察官も好みだったが、彼女の魅力はもっと引き出せたはずだ。
犯罪組織らしいところは何もなかったバクスターファミリーだったが、側近のフランキー(トニー・キュラン)は不気味で冷酷なイメージがよく出ていた。「最悪の選択」で見かけたけど、強い印象を残す俳優だよね。好きだな。「サンズ・オブ・アナーキー」にも出てるんだね。
肉付けが足らない部分は他にも多い。
パパ判事のロマンスの相手リーは、パパ判事が罪悪感に駆られて、無実の轢き逃げ事件の罪を着せられたコーフィー・ジョーンズの弁護士役を頼んだ女性で、パパ判事とは長い付き合いらしいのだが、その長い付き合いを裏付ける情報がないので、いつまで経ってもふたりのロマンスが本物と思えない。
リーはコーフィー・ジョーンズがカルロに殺されてお役御免になったあとも真実を掴もうとコーフィーの弟ユージーンに働きかけたり黒人ギャング「デザイヤ」の女帝に会いに行ったりもするのだが、最後に真実をパパ判事から聞き出し、パパ判事に正しいことをしてと懇願するのだが、パパ判事は息子可愛さに正しいことをしようとしないので、リーは行き場のない思いを抱えたままジ・エンドになる。9話分のリーの活躍は水泡に帰す。
同様にパパ判事の旧友刑事のナンシー・コステロも、あれだけの物的証拠や状況証拠を握り、パパ判事の狼狽ぶりと嘘を察知しながらも追及しようとせず、最後まで何もしない。9話分のナンシー・コステロの捜査も水泡に帰す。
ニューオリンズ警察の汚職ぶりは周知の事実であるものの、この轢き逃げ事件の一件で具体的な名前が出たにも関わらず、最後は行き着く場所がない。チャーリーは警察の組織的な汚職を正すために市長になるから、アダムとパパ判事を見逃してやってくれとナンシー・コステロを説得するが、この話はそのまま宙ぶらりんで終わる。現実も宙ぶらりんなのかもしれないけど。
マイケルが橋の上から証拠を捨てたときに制服警察官に職質されているが、この伏線も回収されないまま終わる。
エンディングはアダムがバクスター家のお祝いに参加したときに(参加するんかい)、ユージーンがやってきてカルロを撃ったつもりが何故か数メートル離れたところにいたアダムの首にヒットし、アダムはロッコのように自分の血によって窒息死する運命を辿るのだが、このエンディングには賛否両論あるだろう。
私としてはカルロの首を突き抜けてアダムの首でストップして両方死ぬエンディングを期待したが、いずれにしても疑問を多く残したまま終了してしまった。
バクスター夫妻はアダムをどうするつもりだったのか?
パパ判事の亡き妻は誰と不倫していたのか?
弁護士リーはあのあとどうしたのか?
汚職刑事たちはどうなったのか?カステロ刑事は真実を知ってどうしたのか?
轢き逃げ現場から立ち去った黒いSUVは誰が乗っていたのか?
このように消化不良のまま終わってしまった感がぬぐえない。
ドラマを観ている間に頭をもたげていたのは白人特権に募る嫌悪感である。パパ判事とアダムへの軽蔑しか生まれてこなかったので、二人がエンディングで因果応報を受けるのは仕方ないとしても、死によって片づけてしまうのは安直。もう少し踏み込んでほしいなというのが正直な感想です。
黒人側の描写もラップミュージックが流れた黒人ギャングとか一面的な描写が多かったので、多面的に描く必要があったのではないだろうか。このドラマで唯一の救いであるコーフィー・ジョーンズが早々に殺されてしまったのが残念だった。
黒人の判事が罠にかかって飲酒運転で逮捕されてしまったシーンとか黒人へのバイアスを露呈した有益なシーンも多かったんだけど、散見されるだけでフォーカスされないのが残念。
いずれにしても中途半端なドラマでした。