話題のNetflixドラマ「地面師たち」を視聴しました。
最近の日本のドラマは優秀なものが多いわ。これまでは海外ドラマ一辺倒だったんだけど、最近は考えを改めさせられている。
「今際の際のアリス」も面白かったし(シーズン2が待ち遠しい)、「万引き家族」「キングダム」シリーズなど邦画も楽しませてもらっている。
真田広之主演ドラマ「将軍」もエミー賞史上最多を獲得したし、世界のアニメ熱も過熱するばかり。いよいよ日本のエンタメが頂点を取る時がきたと感じる。
対照的にハリウッド映画の没落がすさまじい事も付け加えておきたい。
では、「地面師たち」の感想です。
Netflixドラマ「地面師たち」
あらすじ
土地の所有者になりすまして不動産デペロパーと売買契約を結び、多額の売買金をせしめる詐欺軍団の話
地面師とは、土地の所有者になりすますために公的書類をすべて偽造してなりすまし売主を作り上げ、偽の司法書士や不動産会社が不動産デペロパーにその土地を売るという詐欺集団である。
正当な売主はまったく何もしらないまま、偽の土地売買契約が行われる。売買金が振り込まれたあと、地面師たちは多額の不動産売買金をマネーロンダリングのために海外送金してしまうため金を取り返すのはほぼ不可能。
土地を購入したつもりの不動産デペロパーは、のちに法務局から不動産移転登記申請が却下されたことを知らされて初めて詐欺に遭ったことを悟る。
なお、ドラマでも紹介されている通り、実際に横行していた詐欺手法であり、2017年の積水ハウス地面師事件は、なんと55億が騙し取られた。
感想
えがった。
まず何が良いかというとキャストがいい。
詐欺軍団の紅一点で、不動産の所有者に成りすます人員リクルートを担当する麗子役に小池栄子。
不動産会社の強面脅し担当にピエール瀧。
コカイン中毒の調査担当に北村一輝。
地面師軍団のリーダーに豊川悦司。
騙される側の不動産デペロパー会社の企画開発部長に山本耕史。
刑事役にリリー・フランキー。
地面師によって人生を奪われた過去を持つ主人公に綾野剛。
と早々たる顔ぶれである。
小池栄子はグラビア出身ながら器用な立ち回りで女優としての頭角をめきめき表し、今や押しも押されもしない主演を張れる女優へと見事に転身した。
小池さんはグラビア出身とはいえ、もともと頭が切れる人なんだと思う。ちなみに筆者は小池栄子に似ていると言われることがよくあるため、不思議な親近感を感じている。血液型も同じAB型である。
麗子こと小池栄子は、標的である土地の所有者である寺の尼になりすますべく人物を発掘するため、何故か熱海に繰り出して仲居に成りすますと、掃除のおばさん軍団からきつく当たられている中年薄幸女性に目をつける。
女性は心臓病を患う10歳の息子の医療費を稼ぐために身を粉にして働いている。ろくでなしの旦那は借金を押し付けて女と駆け落ちしてしまった。艱難辛苦で満身創痍の女性は、脱毛症を患っていた。土地の所有者である尼は坊主なので、なりすますには剃髪して坊主にならなければならない。普通の女性にとってはハードルが高いが、すでに酷い脱毛症を患っている女性ならハードルが低くなると考えたのだ。
結果的に状況が変わってこの女性は犯罪に加担することなく、小池栄子が尼になりすますことになる。小池栄子は、仲間には「あの女からしみったれた話を聞かされて参っちゃったわよ」と毒を吐くも仕事が終わった後にこっそりと女性に数百万のお金を置いていく優しさを備えている。
結論からいうとドラマの最終章で小池栄子の運命は風前の灯火と見えたが、劇中では他のメンバーのように生死を明白に語られていない。薄幸女性に見せた優しさなどから好感度は高いキャラなので、続編に登場する可能性も否定できない。
豊悦のダーティワークをする外国人集団に拉致られるも、なんとか逃げ出したとかそんな展開を期待している。
次に関西弁で交渉相手を圧倒する役のピエール瀧。あれっ、もう復帰したんだ。
もはや説明不要だが、実生活のやんちゃぶりをそのまま適用しているようなものだから、その反社ぽい態度は板に付いたもの。
現場調査などリサーチ担当は北村一輝。俳優はいいのだが、北村一輝演じる竹下がコカイン中毒というのは頂けない。豊悦はミッション・インポッシブルであればあるこそ闘志をたぎらせ、根回しを怠らない完璧主義者であるのに、不安定要素であるコカイン中毒をメンバーに据えるのはおかしい。コカイン中毒であることが物語に影響を与えるツールであるなら納得するが、それは最後まで生かされない。北村一輝は後半豊悦に反旗を翻す役柄でもあるので、低能な部下オロチを従えている一面からも、むしろ冷徹なショットコーラー・タイプのほうがキャラが生きた筈だ。
それからリーダーの豊悦。完璧主義で人を騙すことに快感を感じるだけでなく、嗜虐的嗜好を持ち合わせたサイコチックなリーダーを無難に演じていたが、私は豊悦があまり好きではないので、リーダー役は別の俳優でもよかったんじゃないかと思っている。同世代なら遠藤憲一、仲村トオル、三上博史あたりがいいかな。
不動産デペロパーの部長の山本耕史はハマリ役だった。正直、山本耕史も好きではないのだけれど、やり手で敬敏有能な大企業の部長がライバルの忠告や赤信号を無視して地面師に騙されていくプロセスは見ものであり、交渉の場で時折見せる意味深な表情や目つきなど地面師の心中を不安にさせるジャブパンチは素晴らしかった。
それから刑事役のリリー・フランキー。残念ながらリリー・フランキーは途中退場してしまい、その後は若手の女性刑事倉持(池田エライザ)にバトンタッチしていく。リリー・フランキーは豊悦演じた地面師軍団のリーダーのような性質を演じることが多いけれど、昔ながらの刑事を好演。人物像としても大変魅力的なキャラだったので、あの退場の仕方は残念だった。
そして主人公の綾野剛。かつて父親の不動産会社を地面師たちによって潰され、自暴自棄になった父親が家に放火して妻子も焼死してしまったという悲劇的な過去を持つ。
この主人公が物語として中途半端なキャラに終わってしまったことが何より悔やまれる。
冷静沈着で落ち着いた物腰という性質や、地面師たちに人生を壊された過去という背景知識から、観客は自然に「復讐」を連想する。家族を破滅に導いた男を何年もかけて探し出し、復讐を考えているのだろうなと想像するわけだ。
劇中外でハリソン豊悦がデリヘル好きという情報を手にした綾野剛がデリヘルのドライバーという仕事に就き、やがてハリソン豊悦との出会う。そこでハリソン豊悦の連絡先を入手し、ハリソン豊悦と一緒に仕事をするようになる。完璧な仕事ぶりを見せつけてハリソン豊悦の信頼を得ていく一方で虎視眈々と復讐の機会を待つ。そんなシナリオだ。
しかし綾野剛は最初から最後まで受け身に終始している。ハリソン豊悦に出会ったのも偶然だし、地面師たちに破滅させられた身でありながら地面師の仕事を淡々とこなしていく。何なら父親を騙した男(ハリソン豊悦の元部下)を探す気配さえないのである。
家族を破滅に導いた男がハリソン豊悦であることに気づくのは最後の最後であり、しかも刑事の池田エライザに教えてもらって初めて気づくという勘の悪さ。
結局、綾野剛は最初から復讐はおろか父親を騙した男を探し当てる気もなかったことが分かる。え?…あなた、じゃあ、なんで地面師の世界に入ったの?
結局最後はハリソン豊悦に「あなたが私の家族を破滅させた地面師の黒幕って本当ですか!」みたいに直談判に行って殺し合いになるという手際の悪さよ。
リアリティがあるといえばリアリティがあるが、あくまでドラマなので、ここはやはり綾野剛に復讐をさせるという物語のほうがしっくりくるし、もっと面白かった筈だと思うのよ。
たとえばハリソン豊悦に反旗を翻した北村一輝と手を組ませるだとかさ。北村一輝がハリソン豊悦に反感を持ち始めたことを察知し、こっそりと内通しあうが、ハリソン豊悦にバレて北村一輝は一足先に殺されるとか。
アビル不動産の前の喫茶店でリリー・フランキー刑事に気づいた綾野剛がこっそりリリー・フランキー刑事と会い、リリー・フランキー刑事が綾野剛にハリソン豊悦の情報を渡すようになるとかね。
綾野剛の頭脳明晰で冷静沈着なキャラぶりを考えると、復讐なしの物語としてはどうも味気ない。ハリソン豊悦に負けない冷徹ぶりで頭脳戦も交えたらもっと良かっただろうなと思うのよねぇ。
シーズン2が出るか否かは決まっていないが、あのラストなら当然出るだろうな。