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【ザ・ワイヤー】シーズン4あらすじ感想:ノンワイヤーな神シーズン

ザ・ワイヤーシーズン4あらすじと感想ネタバレ登場人物

the wire@HBO

ワイはGヤー!アマブロガーGヤー!

アイヤー!ワイヤー!ワイヤー入りはもう着れなイヤー。

えー。

「ザ・ワイヤーは兎に角ヤバイから、じゃあそういうことで」

と済ませようと狡い事を考えていたら、ザ・ワイヤーを観終わったばかりのやなぎやさん

「ザ・ワイヤーロスでどうしたらいいのヤー」

とツィッター民にくだをまいて困らせているようなので、S4の記事を書いて皆さんへの迷惑行為を阻止したいと思います。

ツイッター民の皆さん、御免なさいね、やなぎやさんが迷惑かけまくって。やなぎやさんの代わりに謝ります。普段は憎み合いながらも、やなぎやさん思いな私。

さて。S4は、バークスデールとストリンガーの姿が消えた西ボルティモアを舞台に、マルロ・ワイヤーの麻薬売買組織、ボルティモア市長選、学校システムにフォーカスしています。

 

【ザ・ワイヤー】シーズン4あらすじ

S3でストリンガーが死亡、バークスデールが再収監されたことで、マルロが西ボルティモアのストリートを支配するようになる。

ところがマルロ絡みで死体が上がらないことから、ロイス市長と副警察長のバレルは大物狙いの盗聴チームを解散させる。

マクノルティはパトロール警官に戻ることを希望。

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パトロール警官に戻ることを希望したジミーとかつてのパートナーで殺人課刑事のバンク

キーマレスターは殺人課に転属、プレッツは中学校の数学教師に転職する。

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有能な刑事キーマカレーとレスターはともに殺人課へ転属

また、S3で犯罪率を下げるために麻薬解放区(フリーゾーン)を作って上層部と市長から大顰蹙を買ったコルヴィンは警察を退職し、知り合いのツテでメリーランド大学福祉事業部の研究の一環として、将来犯罪者候補になりうる生徒たちの現地調査に協力することになる。

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警察を退職して学校の現地調査官の職に就いたコルヴィンThink Outside The Box系。嫌いじゃない。

キーマの情報提供者バブルスは、ホームレスの少年シェラッドの面倒を見るようになり、学校に復学させようとする。

市議会議員のカルケティ(小指)は、市長選に参戦し、現職ロイスを破って市長になる。

 

【ザ・ワイヤー】シーズン4の感想

ザ・ノンワイヤーとしてのザ・ワイヤー

S3では、盗聴捜査がコストの割に成果が上がらないという上層部の独断と偏見にから思うように盗聴捜査の許可がおりず、特捜チームは苛立ちとフラストレーションをを募らせたシーズンだった。 

パワーカップルのロンダとセドリックの働きかけでやっとまともに盗聴捜査ができるようになった矢先にストリンガーが殺害されてしまい、盗聴の成果も水の泡。ビターな結末となった。

そんなわけでS4はいよいよワイヤーできるようになるだろうと期待していたが、あろうことかS4もワイヤー(盗聴)による犯罪捜査ができないノンワイヤーな状況が続きます。

盗聴させろー。

というやなぎやさんの叫び声が聞こえました。

ストリンガーの死とエイヴォンの収監を機にジミー・マクノルティ(ドミニク・ウエスト)は警察のポリティクスに弄ばれて思うように捜査さえできない体制に嫌気がさし、パトロール警官に戻っていきます

マクノルティ見せろー。

というやなぎやさんの叫び声が聞こえました。

レスターキーマは殺人課に転属されるが士気は最低。どうでもいいけど見直すといつも「レタスとキーマ」と美味しそうな読み方をしてしまう。

西ボルティモアであがる死体は殆どが麻薬絡みなので、殺人課で捜査をしたところで雑魚を逮捕するのが関の山、麻薬売買組織のボスを仕留めなければ雑魚をいくら検挙しても無意味だ。しかし上層部にとっては犯罪率の統計がすべてであり、大物を仕留めるためのコストと時間を考えると盗聴捜査は「割に合わない」というわけだ。

カーヴァーは麻薬課に残り、ストリートレベルでフルーツ殺人事件やレックス殺人事件の捜査に協力する。

《フルーツとレックスは、それぞれマルロの部下、ボウディの部下だったが、女絡みのトラブルでレックスがフルーツを銃殺。のちに報復のためにマルロがレックスを殺害した事件》

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カーヴァーの心も垣間見れたS4

ハークはロイス市長の運転手を担当する(出世コース狙い)が、ロイス市長が秘書とビル・クリントニングしてるのを目撃してしまう。

市長のクリントニングを口外しなかったことが功を奏して棚から牡丹餅、ハークは特捜部の巡査部長の地位をゲットする。

しかし特捜部のリーダーは部署潰しのマリモー。マリモーは雑魚を捕まえるしか能がない無能で、ハークはマリモーと度々衝突する。

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失態続きのハーク

と、こんな風にS3同様にS4の特捜部「ザ・ワイヤー(盗聴)」メンバーたちはバラバラに。

やなぎやさんが指摘するように、チームが地道な盗聴捜査を続けるS1とS2を見てきたあとのS3とS4は、チームメンバーはバラバラだし必然的にワイヤー(盗聴)も全然出てこないので、盗聴による犯罪捜査を期待して観ると軸の無いドーナツ現象を感じてしまうかもしれない。

S4は「ザ・ワイヤー」の顔でもあるマクノルティが出てこない回がなんと4回もある。「これはどうしたものか」とドミニク・ウエストが画面に映るのを楽しみにしていると小指が出てきて弾丸トークする始末。

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「小指とカルケティ」映画の題名ぽい。若干ハイランダー症候群気味か。

とはいえ、このS4は、盗聴もできない、チームもバラバラ、捜査が進まない、で終わらせてしまうには大そう勿体ないシーズンである。

確かに、盗聴を利用した犯罪捜査を軸として欲しかった期待を裏切られた落胆は大きいが、個人的にS4はノンワイヤーだけど神シーズンといっていいほど素晴らしい出来だった。最終話まで観たあと鳥肌が立った。

ワイヤーできない日々が続くS3とS4は、ワイヤー以外で魅せるシーズンなのねー。

ずばり「ザ・ノンワイヤー」なシーズンなのです。

 

市長選

「ザ・ノンワイヤー」S4の軸のひとつは、カルケティ(小指)の市長選。

S3で女好きなカルケティ(小指)市長の野心が最高に鬱陶しかったものの、S4で小指は自身の野心のため(市長の先に知事を見据えている)、そしてボルティモアを改善するために奮闘する。

端正で小ぎれいな外見とは裏腹にタブーワードを連発する糞政治家だが(政治家は糞でなければ務まらない)、カルケティの犯罪対策への考え方が、蛇の頭を捉えたい特捜部の願いと一致してくるので、ノンワイヤーをワイヤーに戻せる日が来るかもしれないという希望をワイヤーチームメンバーらと視聴者に抱かせるわけだ。

政治物は関心がないのでカルケティの市長選自体には興味がないものの(「ハウス・オブ・カーズ」「マダム・セクレタリー」キーファーの大統領のドラマも途中で脱落した口)、カルケティが市長に当選することで「ザ・ワイヤー」が戻ってくるのなら応援せねばならない。

カルケティを市長に!

 

ストリート・キッズ

そして「ザ・ノンワイヤー」の本軸はというと・・・

ストリート・キッズである。

本作ではもはや学校として機能していない教育体制が描かれる。学級崩壊を紐解いていくと、そこには家庭崩壊があり、貧困があり、麻薬という世界がある。

この世界へ私たちをいざなうのは4人のストリート・キッズたち。

それからS3で同胞をウッカリ撃ち殺してしまい警察をクビになったプレッツと、同じく麻薬解放区を立案実行して大ヒンシュクを買い追い出されたコルヴィンである。

ウィーベイ(バークスデールの部下)の息子 ネイモンド

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ネイモンド(通称ネイ)

ネイモンドの父ウィーベイ(S1出演)は麻薬売買組織バークスデールの部下で、複数の殺人事件の容疑者として無期懲役で服役中。

ウィーベイ収監後、母子はバークスデールの組織から経済的支援を受けていたので比較的贅沢な暮らしをしていた。しかしストリンガー殺害とバークスデール収監により組織が事実上瓦解したため、ネイモンドと母はバークスデールから経済的な支援を受けられなくなってしまう。

お喋りでグループの代表的な存在。仲間の前や学校では虚勢を張るが、内面は実はソフトであり、暴力への耐性がない。

ネイモンドは両親から「常にタフでないと。タフが命。」と重圧を受け続けており、なんとか親の期待に応えようと無理をしている。

バークスデール組織からの経済的な庇護が受けられなくなると、毒母から無理くりストリートに立って麻薬を売るように強制される。文字通り。

母「ネイ!早く車に乗んな!いまから行くよ!」

ネイ「・・・え?どこへ・・・」

母「ストリートに決まってんだろ!あたしからボウディに頼んでやるから、しっかりさばくんだよ!」

ネイ「でも・・・」

母「ったく、あんたがやらないで誰がこのファミリーを守るのさ!あんたのパパは立派な兵士だったのに!今はあんたが稼ぎ頭なんだよ!」

という具合で、無理矢理街角で薬の売り子にさせられる始末。

ボウディーにさえ「お前の母ちゃん、おっかねえから、もう連れてくんな」と言われる。

ボウディーの情けでなんとか薬をさばき始めたネイモンドは、学校でメリーランド大学の福祉事業部の教授が実施する学校現地調査の特別プログラムに選ばれる。

要するに、未来の犯罪者を未然に防ごうとするための試験的なプログラムであり、授業にまともに参加できない生徒や際立った問題児が選ばれるわけだが、ネイモンドはクラスで減らず口を叩いて授業を妨害することが多いのでめでたく選ばれました。

学級崩壊でよく議論されることだけど、学校における問題言動の根本的な原因は家庭や育成環境にある。ネイモンドが学校で問題行動をとるのもこうした家庭環境のせいであることがよく分かる。

このプログラムに選ばれるのは不名誉なことだが、ネイモンドはここで元警察上官のコルヴィンと運命の出会いをする。

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警察を退職したコルヴィンとネイモンド

知的なホワイトカラー教授は問題児たちとまともに話す術を知らないが、問題児たちの対応を心得ているコルヴィンは、巧みに問題児たちと対話を続けていく。やがてネイモンドは少しずつコルヴィンに心を開き始める。

一方で母からの「お前だけが頼りだよ、しっかり稼げ」というプレッシャーやストリートにおける他のキッズたちとの暴力的な衝突は止むことはなかった。

ある時、キッズ売人ケナード(低学年)がいつもネイモンドを馬鹿にするのに見かねて、ネイモンドの友人マイケルがケナードをボコボコにするのを見て恐れおののき「やっぱり僕は暴力には向いてません」と悟る。

その後、虚勢を張るためにボクシングジムを訪れて友人ドゥーキーをからかって軽く小突いたことで友人マイケルの怒りを買って今度は自分がボコられる。そして泣く。

ジムのコーチ、デニスはカーヴァーに相談する。カーヴァーがネイモンドの鬼母に息子を引き取りに来るようにと電話すると「あいつ弱っちいからちょっと痛い目に遭わした方がいい。少し牢屋に入れとけ」とか勝手なことを言うので、カーヴァーはネイモンドに同情する。行く宛のないネイモンドは最後にコルヴィンに頼る。

こうしてコルヴィンとの絆は太くなっていき、ネイモンドの態度も軟化、学校での態度も劇的に改善する。

コルヴィンは刑務所のウィーベイを訪ね「ネイモンドを解放してやれ」と助言する。最初は反対したウィーベイだったが、息子の将来を想って考えを変える。嫁も叱責する。ウィーベイは嫁より息子思いの父だった。

やがてコルヴィン夫妻がネイモンドを養子縁組することになり、ネイモンドは安全で安定したコルヴィン夫妻のもとで暮らすことになる。

ネイモンドは4人のストリート・キッズたちの中で唯一ストリートから抜け出すことができた成功例であり、それはコルヴィンの協力と愛情なしには成しえない偉業だった。

なぜなら現状を憂い少しでも変えたいというコルヴィンやプレッツのような人道的な思いは、特別プログラムがやっと成果を見せ始めたと思った矢先に予算削減のためにプログラムを閉鎖...といった非道な選択決定や、教師たちの現状あきらめムード、試験の成績で一定の点数だけ採れればいいという官僚的な姿勢と体制によっていとも簡単に捻りつぶされてしまうからだ。市長がどれだけ美辞麗句な教育改革スピーチをしようとも、現場の人員が変えようと奮闘しても、制度の変革は予算や政治事情に阻まれてしまう。

家庭崩壊、教育制度の崩壊による個人および社会への悪影響は計り知れない。

一方で、陳腐な言い方ではあるがネイモンドのケースではコルヴィンのキッズへの愛情、根気、忍耐力が一人の前途ある少年の人生と命を救った。時代や環境も違っても、子供が康福を育み前途有望な将来を築いていくための基本材料はそう変わらないことを気付かせてくれる。

現在アメリカではBlack Lives Matter抗議活動が激化して国を分断している(抗議者の間に反社会分子が潜入して暴動や略奪を扇動していることが大きいのだが)。抗議活動は社会問題を認知させることができるし、差別が当然に横行していた暗黒時代には権利向上のためには有効な手段だったが、すでに憲法で命と権利と財産の保障が明文化されている現代ではその効果は限定的だろう。むしろ、暴動や略奪のネガティブなイメージが刷り込まれ、黒人層にとってはマイナス要素になるので、もともとニュートラルな考えの白人層にも反感を抱かせることになり、対立は深まっていく。

黒人差別を減らし、黒人の権利と命を守るためには、黒人の社会経済的地位を上昇させる方が効果的だが、そのためにはまず黒人家庭の状況を改善していくことから始めなければ、根本的な解決には至らないだろう。

父親が家族にたいして責任を持つことを放棄した家庭は、ほぼ経済的に困窮し、そのツケは子供が払うことになるわけで、この正視したくない現実を描いているのが今シーズンのノンワイヤーというわけである。日本でもシングルマザーの貧困は50%以上、2世帯に1世帯が貧困にあるので決して他人事ではない。

ネグレクトでヤク中の母と弟と三人暮らし マイケル

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マイケル

ネイモンドの友人マイケルは、ハードコア。

薬漬けのネグレクト母と幼い弟と3人暮らしで父は不明。超、弟思い。(あと弟バグがめちゃ可愛い)

超絶可愛いマイケルの弟バグと勉強を教えるマイケル

マイケルは幼少期に継父(弟の父)に性的暴行を受けており、内面に怒りを抱えている。

デニスが開いたボクシングジムに通い、ボクシングの練習に励む。

内向的だが毅然とした性格で、マルロが子どもたちにばら撒いた現金も唯一受け取らなかった。

彼の潜在力を見抜いたマルロ、ボゥディ、クリス(マルロの部下)といった麻薬売買人から多数のリクルートオファーを受ける。だが本人は「誰にも借りを作りたくない」と言って誰からの誘いも受けようとしない。ボクシングジムのコーチ、デニスにも心を開こうとしない狼系キッズである。

担任のプレッツは宿題をやらなかったり授業中のワークに参加しないマイケルと衝突するが、マイケルの友人ランディから「マイケルは弟の送迎をしなければなないので居残りができないんだ」と言われて事情を察し、「困ったことがあったら何でも相談してほしい」と歩み寄る。その後マイケルは授業にも積極的に参加するようになり、宿題をこなし、サイコロを使った確率数学もすぐに覚えるようになる。

誰にも言っていない家庭の悩みを察して救いの手を差し伸べてくれたプレッツは、マイケルにとって初めて信用できる大人だったに違いない。母はヤク中で生活保護の金を使い込み、父は不明、母が再婚した相手は自分を性的虐待した男、周囲にはドラッグディーラーしかおらず、他人を騙し陥れ傷つける輩しかいない。たとえ実際に頼ることはなくとも、プレッツの思いやりのある一言はマイケルの琴線に触れたはずだ。

マイケルがボクシングに真面目に通ったのも、頼れるのは自分しかいないという決心の表れであり、マルロからの金も受け取らないことや誘いに乗らないことからも、信用できる大人がまったくいないことが暗示されている。

S4後半には、マイケルは物静かで内向的な少年から冷酷な殺し屋へと変貌を遂げる。そのきっかけは、母の再婚相手が戻ってきたことだった。マイケルを性的虐待した男が家に戻ってきたのである。(劇中では性的虐待のことは明示されていない)

マイケルはこの継父を自分の人生から追い出したいが、方法が見つからない。児童保護局に連絡すれば「弟のバグと離れ離れになるかもよ」とランディに言われ、残る選択肢はマルロとクリス(マルロの忠実な部下)に依頼することだけだった。

実行犯のクリスがいつもの処刑スタイルから逸脱してマイケルの継父をウクライナ〇〇式に殴り殺したことから、クリス自身も性的虐待を受けた過去があることが暗示されている。マイケルの行く末がクリスということの暗示とも言える。

マルロはアパートを用意してやる代わりにマイケルを部下にする。マイケルはクリスとスヌープの指導の下、次々とライバルギャングのメンバーやマルロの悪口を吹聴した者たちを殺していく。

弟バグと友人ドゥーキーもアパートに住ませて面倒を見る。

マイケルはS5にも続投、中心的人物として登場しています。

マルロによる殺人に巻き込まれる ランディ

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気付かずにマルロによる殺人のメッセンジャーにされたランディ

ランディはシングルマザーの里親アンナと二人暮らし。里親アンナは思いやりがあり、ランディにある程度の規律を植え付けることに成功している。

想像力とアイデアにも長けていて、学校の低学年の子たちにお菓子を売ったりして日銭を稼いでいるが、世間知らずであり、お金欲しさのためにちょっとした頼みを受けてしまうために様々なトラブルに見舞われる。いずれもランディが貧困家庭でなかったら起きなかったトラブルであり、貧困が悪事へのゲートウェイであることがランディの視点から描かれている。

やがて、ランディは、マルロによるレックス殺人の片棒を知らぬ間にかついでしまう。

マルロはレックスをおびき出すため、レックスの友人リトル・ケヴィンに金を払って言付けをする。リトル・ケヴィンは直接レックスに伝えることを嫌気し、道路でお菓子を売っていたランディに言付けを依頼する。ランディは躊躇したものの、お金につられてレックスに伝言を伝えてしまう。その結果、レックスはまんまとおびき寄せられ、マルロの部下のクリスとスヌープに殺害される。

これが原因でランディの運命は暗転するのだが、ランディの運命は警察の手にも翻弄される。ランディは他の事件で停学になるが、そのときに教頭先生に自白を迫られ、レックス殺人のことについて話してしまう。

ランディの身を心配した担任のプレッツ(元警官)は、かつての上司セドリック・ダニエルズにランディのことを頼む。ダニエルズはカーヴァーにランディを託すが、カーヴァーはマルロ・スタンフィールドの組織を潰すことで頭が一杯なため、ランディをハークに託す。

停学が明けたランディを心配したマイケルは、教師や警察に何を聞かれても何も言わないように警告する。しかし時すでに遅し、ランディが教師と警察と話したという噂が流れ、マルロはランディが「スニッチ(密告者)」だという噂を流させる。

ランディは学校でも町でも狙われるようになり、警察の保護下に置かれるが、やがて家を放火され、里親のアンナが重度の火傷を負い、ランディはグループホームに送られてしまう。

カーヴァーは、ランディの話を流し聞き安易に重要性がないと判断してハークに託したばかりにランディを過酷な状況に置いてしまったことに罪悪感を抱き、グループホームではなく新しい里親を探そうと奔走するが、制度の壁に阻まれる。

ランディは密告者の汚名を着たままグループホームに送られ、入所すぐに同室のティーンエイジャーたちから荒い洗礼を受ける。

カーヴァーは自身の過ちを悔やみ、制度を恨んで荒れる。

ランディはシーズン5にも少し出演するが、無垢で比較的幸せだった子供が欠陥システムの犠牲者になった典型的な例である。S5でバンクがレックス殺人の件でグループホームを訪れるのだが、もはやかつてのランディの姿はそこにはない。笑顔は消え、協力を拒み、小さい子を階段で押しのける。

なお、グループホームというのはアメリカの福祉施設で、両親不在の子どもたちが送られる集団住居施設です。日本でいえば孤児院みたいなものだけれども、ケースの多くは両親がアル中や麻薬中毒という劣悪な家庭なので、子どもも荒んでいることが多い。

グループホームのなかから里親(foster parent)が決まり、子どもたちは里親に送られます。しかしそれも一時的であったり、里親が養子縁組したくてもできなかったり、色々とプロセスが複雑で時間がかかります。アメリカで知人が里親になっていたけれど、1年の間に何人も違う子どもたちが送られてきて、数か月後に手放さなければならなかったりと不安定でした。知人が預かった子どもをそのまま引きとって養子縁組したくてもなかなか決まらずに、フラストレーションがたまるプロセスだと言っていました。

運が良ければコルヴィンのような家庭に貰われていくが、里親にも色々あるので、子どもの運命は行き先次第というリスキーさも孕んでいます。(子供を預かると貰える補助金目的のケースも多い)

我が家も子供が一人ということもあって、里親制度について夫と話すことがあります。経済的な問題もあるので結局夫と二人で話す程度にとどまっているけれど。

なお、複数の家庭で見かけた里子はほぼ全員黒人でした。

貧困家庭 ドゥークアン「愛称ドゥーキィ」

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ドゥーカン(ドゥーキー)

ドゥークワンもマイケルのように内向的で物静かな少年だが、マイケルとは異なり気弱で虐められても反撃できないタイプの子である。

次のS5を最後まで見終わってから思うことには、日本人の子がこの環境におかれたら一番陥りやすそうな運命だと思う。

彼の人生も悲惨である。

プロジェクトの住宅にアル中とジャンキーに住むドゥーカン。親は出てこないし、親の描写はない。

教頭先生が学校の制服などを用意するが、供給品はすべて同居人のアル中やジャンキーたちに奪われて売られてしまう。

シャワーを浴びたりすることさえできないため、クラスメートからも邪険にされる。ある日、「ドゥークワンは臭いから隣に座りたくありませーん!」と馬鹿にしたシークワンという女子の顔を、ラティーシャという女子がカッターで切り付ける。(シークワンはいつもラティーシャを挑発していた。)ドゥークワンは、自身の行動に慄き床に座り込むラティーシャの隣に座り、ハンドサイズの扇風機を静かに置く。

プレッツは、ドゥークワンの制服を毎日洗濯してやり、朝、学校のジムでシャワーを浴びるように手配してやる。ドゥークワンはプレッツと親しくなり、プレッツは学校の倉庫からコンピューターを引っ張り出し、ドゥークワンに使わせてあげる。

ドゥークワンはコンピュータを楽しむようになり、学校の成績も向上し始め、コンピュータ・スキルも身に着けるようになり、クラスメートの女子にコンピュータを教えてあげられるほどになっていた。

まもなくドゥークワンは9年生への進級が決まるが、ドゥークワンは新しい学校とクラスに馴染めるか不安で落胆を隠せずにいた。

ある日、立ち退き命令の紙が貼られ、家の中の粗末な荷物が道に出されていた。マイケルはドゥークワンをマルロに用意されたアパートに連れていき、一緒に住むようになる。ドゥークワンにとってマイケルはどんな時でも自分を守ってくる兄弟分でありガーディアン。

ドゥークワンは新しい学校に行こうとするが、学校の前で引き返してしまう。プレッツにプレゼントを持って行くが、ドゥークワンの様子が変なことに気づいたプレッツは後をつける。ドゥークワンは学校を退学しており、ストリートでマイケルの仲間としてドラッグを売っているのだった。

ドゥークワンの命運も貧困が生んだ悲劇である。安定した家庭と環境があれば、ドゥークワンは間違いなく普通の暮らしができていたはずだ。ドゥークワンはプレッツの協力で学校生活が安定し、成績も向上、コンピュータを楽しめるまでにもなっていたが、それ故に9年生に進級(新しい学校)することになった。マイケルのように自分を庇ってくれる友人もいなく、新しい学校に入る勇気が出ないドゥークワンは、道を引き返す決断をしてしまう。

たとえ軌道に乗ることができたとしても、精神的に安心できる安寧がなければ、いとも簡単に道を踏み外してしまうという例である。

背中を押してくれる存在や、失敗しても受け止めてくれる存在、外で辛い思いをしても帰る場所を提供できる存在がドゥークワンにあったら、彼の行く道は違ったものになっていただろうか。

心機一転、数学の教師として奮闘するプレッツ

(プレッツのキャラは実際に警官から教師に転じた番組クリエイターのエド・バーンズがモデルとなっている。)

プレッツのような教師に出会うことで道が一瞬開けたとしても、長期的な安定した後ろ盾がなければ子供は未知の道を進み続けることができない。 ちょうどネイモンドがコルヴィンのおかげで健全な道を歩み始めたように。いっときのヘルプだけでは不十分なのだ。

ドゥークワンを救える唯一の人物はマイケルだけであり、奇しくも彼らがなんとか生活していけるのは麻薬のおかげである。この絶望感たるや。

行く末は麻薬組織に属するギャングか、グループホームか、ジャンキーか。

日本のように非行に走ることが「自己責任」のせいにできる社会に住んでいる者からは想像できない世界がアメリカの貧困地区には存在している。

子どもがある程度の年齢になったら見せたいドラマナンバー1である。

 

マルロによる大量殺人の遺体が挙がる

前述の4人のキッズの視点と絡ませながら、マルロの組織と警察の捜査が描かれていく。 

マルロ絡みの死体があがらないために、予算食いの盗聴捜査は打ち切られ、盗聴チームはフラストレーションのたまるシーズンを過ごすわけだけど、最後の方でレスターがついに廃虚に隠された死体を発見します。

マルロの殺人はほぼ腹心の部下クリスとスヌープが担っていて、二人は銃のほかにネイルガン(釘打ち機)を使ってたわけだけど(ネイルガンは殺人だけでなく廃虚のドアを板打ちして隠すことができるので一石二鳥)、ハークが車のガサ入れを強行したときにネイルガンの存在を覚えていた。

レスターはレックスの殺害現場を調べるうちに、廃虚に打ち付けられた板の釘が真新しいことに気づくわけです。さすがレスターだな!!!そんな小さい証拠から死体を発見するなんてなぁ。

やなぎやさんが惚れたスヌーピーにはフェリシア・ピアーソンという美しい本名があるのだけれど、実はこれはスヌーピーを演じた女優さんの本名そのまま。やなぎやさんが惚れただけあってフェリシアさんのパフォーマンスは批評家にも大絶賛され、あの怖い話が大好きなスティーブン・キングに「ドラマ史上もっとも恐ろしい女の悪役」と言わしめた。

うん、同感だわ。

スティーブン・キングに「ドラマ史上最も恐ろしい女」と言わしめたスヌーピー

クリスっぽくないけどクリス

今シーズンはマルロのソーシオパスぶりが全開で、とにかく少しでも嫌な点があると暗殺命令を出す。粛清の嵐。スヌーピーとクリスは反対することもなく、淡々と処刑をこなしていく。

マルロはエイヴォン・バークスデールとストリンガー・ベルのような熱い男気だとか絆とかには無関心で、少しでも自分に繋がるリスクを感じ取ればすぐに排除するタイプで、その点でもバークスデール残党のボウディーとはソリが合わない。

しかしマルロが支配し始めたストリートでボウディーがひとり逆らえるはずもなく、ボウディーはやむを得ずマルロのヤクを売っている。

そんな折、レックス殺人の片棒を担いだリトル・ケヴィンが警察に聴取される。(ランディの自白でリトル・ケヴィンがレックス殺人関係者として警察に連行された。)

リトル・ケヴィンはただレックスにメッセージを届けただけなので直接的な関与はないので釈放されるが、警察に連行されただけでもマルロにリトル・ケヴィンを排除させるには十分な理由だった。

ただし、ボウディーはマルロがそこまですることはないと思っていたので、「噂が広がる前に警察に聴取されたことを自分からマルロに報告したほうがいい」とリトル・ケヴィンに助言する。

リトル・ケヴィンはその通りにするが、その通りにしたらマルロに粛清されちゃう

廃虚の死体(22~23体くらい)の捜査が進む一方、麻薬捜査から遠のいていたパトロール警官のマクノルティは偶然ボウディーと遭遇する。ボウディーは仲間のリトル・ケヴィンを殺されたことでマルロを恨んでおり、マルロを潰すためなら証言するとマクノルティに約束する。

しかしボウディーはマクノルティの車に乗るところを目撃され、その後ストリートで殺害される。

マクノルティ消沈、のちに奮起。

カルケティ市長が当選され、打倒マルロのために特捜チームがノンワイヤーからワイヤーに戻ろうとワクワクしたところでS4は終了する。

 

バブルス

今シーズン、とことん辛酸を嘗めたのはジャンキーのバブルスである。

バブルスはもともとキーマの貴重な情報提供者として活躍していたが、キーマが麻薬捜査を外れて殺人課に転属して以来、情報提供の仕事も失った。

そんなわけでバブルスはカートに商品をつめてストリートで「バブルス・デポ」を展開するのだが、ジャンキーの男から度々襲われて金品を巻き上げられてしまう。

警察に助けを求めれば、悪徳警官ウォーカーからさらに品物を盗まれるし、ハークに情報提供の代わりに庇護を求めれば、緊急連絡は無視されてさらにジャンキーの男にボコられる。

そして決定的な事件が起きてしまう。

バブルスはシェラッドという少年を弟子にしていた。シェラッドを学校に行かせようとしたり、面倒をよく見てやっていた。しかし、自分を襲うジャンキーの男を殺すため、ヤクの代わりに毒を仕込んで持ち歩いていたところ、寝ている間にシェラッドがそれに手を付けて死んでしまう。

バブルスは出頭するが、尋問室で警察の目を盗んで首を吊る。幸い、息を吹き返したバブルスは、リハビリ施設へ送られる。

S5でバブルスの幸せを少しでも祈らずにはいられない。

 

感想まとめ

ドラマの記事で1万字以上書いたのは初めてかもしれない。

文字数からお判りになるように、私はこのS4をいたく気に入っていて、マクノルティはあまり出てこないし、ワイヤーこそ出てこないノンワイヤーだけれども、おそらく5シーズンの中で最も気に入っているシーズンでもあります。

たぶんキッズの貧困や教育問題に切り込んだことが大きいでしょう。

全エピソードを観終わった時の鳥肌といったら、ゲースロの鳥肌とは違う静かで長い鳥肌でした。

以前、海外ドラマベスト10を発表したときは2016年で、まだこの「ザ・ワイヤー」を観ていない時でした。「ザ・ワイヤー」を観た今、あのベスト10は再び修正しなければならない。

ザ・ワイヤーは何位かって?

ゲースロの1位と同じ1位です。

死ぬ前に必ず観ることをおススメします。