左は開花する前のジプシー、右は開花した後のジプシー。
Huluドラマ「The Act」を最後まで観た感想です。
本ドラマは全8話のミニシリーズで2019年春にHuluで放映されました。
代理ミュンヒハウゼン症候群と思われる母が娘を病気に仕立て上げ、精神的・物理的に自分に依存させて支配した結果、娘が母を殺害するという実際の事件に基づいたドラマです。
やがて日本でも放映されると思います。
今回は一足先に8話まで観終わった感想を紹介します。
【The Act(原題)】最後まで観た感想とあらすじ
母ディーディーによって病気に仕立て上げられ、かいがいしく介護されながら生きてきた娘ジプシーは、オンラインで出会った青年と数年越しのオンライン逢瀬ののち、ついに母を殺害します。
これが第6話まで。
第7話はベッドに転がる母ディーディーの遺体を放置したたまま、ジプシーが荷造りをしてニックと家を出ていきます。
二人はタクシーでモーテルに移動。最初はプリンセスと王子様!と解放感に沸くジプシーでしたが、刹那的なモーテル暮らしの生活は長く続かず、ジプシーは不満を募らせていきます。
二人はバスでニックの両親の家に向かいます。ウィスコンシンだったか。
バスを降りて迎えにきたニックの母のセクスィーボイスにハッと息を呑む私。
この聞き覚えのある声は…
私が大好きな女優、ジュリエット・ルイスちゃん。ちゃんという年齢ではないけれども(46歳)。90年代に活躍していた女優で、父はクリント・イーストウッドものによく出ていた俳優のジェフリー・ルイス。
ブラピを成功に導いたアゲマンとしても有名である。1980年代、ブラピは売れない役者として端役ばかり出演していたが、ジュリエット・ルイスと「トゥルー・ブルース」で共演。ジュリエット・ルイスはこの頃交際していたブラピの魅力に気がついており、俳優の父の口利きなどでブラピを芸能界に強力プッシュ。
ブラピは91年の「テルマ&ルイーズ」の役を射止めると、「あのホットな行きずりの男は誰」と全米女子の注目を集め、一気に知名度アップに成功します。あとの活躍は御覧の通り。(私は当時ティーンだったが、「テルマ&ルイーズ」でブラピを見た時、彼の格好良さに心打たれたことは今でも覚えている。)
ジュリエット・ルイスはブラピと1993年にも「カリフォルニア」で共演している。
なお、ジュリエット・ルイスは95年の「ストレンジ・デイズ」でセクシーボーカル声を披露、その後は自身のバンドでボーカルをしているとのこと。
好きな女優ベスト10記事を書いたまま下書きに放置しているのだが、実はそのなかにジュリエット・ルイスが入っていたりするんだ。
そんなジュリエット・ルイスが…ニックの母ちゃんです。
ニックの母ちゃんは別に悪い母ではないが、典型的なアメリカの貧困層ママ。家は乱雑で、食事は作らない。およそ「家庭」と呼ぶには程遠い家がニックの実家であった。
ニックの母と父(またはBFか後夫?)は快く二人を受け容れる(快くというか「ふーん、あそう、どうぞよろしく…」みたいな緩さ)。
こういうシーン、なかなかいたたまれないものがあるよなぁ…。ドラマや映画に出てくるアメリカというのは、これでもかというばかりに輝いていて煌びやかでまさにアメリカンドリームの象徴そのものなのだけれど、実際は格差が激しい国であり、富裕層が住むエリアと貧困層が住むエリアの違いといったら同じ国とは思えないくらいその差は激しい。とりわけその酷さを目にしたことがあると、実際にニックの実家のようなシーンを目にして心痛。
カーテンは半開き、ソファやテーブルは何故か曲がって置かれているし、煙草の煙がもうもうと見える。戸棚や冷蔵庫には食料は入っておらず、ビールが入ってる。ミニマリストとかそういう問題じゃない。そんな家がニックの実家で、たいていアメリカの貧困家庭はそんな様相を呈している。
ニックはまだ暴力を振られていないだけマシなのかもしれない。ジュリエット・ルイスがKFCも買ってきてくれて「食べなー」といってくれたし。
自らを支配する母を殺害して新しい人生を始めようと心機一転頭でやってきたジプシーは愕然とし、思わずニックに「なんで何もないの?なんで食べ物もないの?お母さんは貴方の面倒を見ようとしないの?ふつうお母さんは子どものために食事を作ったりするでしょ?なんで?」と言ってしまうが、軽度の知的障害があるニックは首をかしげるだけであった。
よそ様の貧困家庭を目にしたジプシーは、「病気の」自分が母にしてもらった数々のことをを思い出して罪悪感を覚え始める。そして母の遺体を早く見つけてもらうためにFacebookの母娘アカウントに、犯人と思わせるようなメッセージを投稿する。(その投稿に位置情報が付いていたことに後で気が付いて慌てる。)
隣人のレイシーがメッセージを発見、母メル(クロエ・セヴィニー)と家に向かうが、もちろん応答がない。そこで警察に電話し、警察がディーディーの遺体を発見する。このとき、レイシーとメルは、何者かがディーディーを殺してジプシーを誘拐したと思っていた。
Facebookの投稿から警察がすぐにニックの実家にやってきて、二人はあっけなく捕まる。捕まる寸前まで「あなたは私を救ってくれた。ヒーローよ」とニックに言い続けるジプシー。
逮捕後、二人が残した帯びたたしいメッセージなどから、ジプシーが母ディーディーの殺害を教唆したことはすぐに判明するが、ジプシーは殺害意図を否定。ニックは障害があるので「ジプシーに頼まれて彼女の母を刺し殺しました」と素直に自供する。
ニックが殺人の容疑者と知って驚く母ジュリエット・ルイスだが、彼女が警察に聴取を受けているときの様子がまたイイんだなーこれが。ジュリエット・ルイスはいつもその場に即した自然な振る舞いができるのにその場の雰囲気や空間を濃密にしてくれる女優なのです。そういうわけで助演女優役が多いです。
やがて、ジプシーが代理ミュンヒハウゼン症候群の母により虐待を受けていたことが分かる。容疑者二人の置かれた状況が違うことから、二人は別々に裁かれることになり、結果的にジプシーは10年、ニックは無期懲役の判決を受けた。
最後の2話では、時間軸が犯行時にも戻り、ニックが玄関のドアをノックした時、ナイフをニックに渡した時、母の悲鳴が聞こえた時、コトを終えたニックが血だらけの手で戻ってきた時等々、生々しい犯行時の様子とジプシーの心理的な重圧が注意深く描かれている。
このシーンを観ると、どんな事情があれ、親が子を殺す、子が親を殺すということは何があっても回避されなければならぬと思うなぁ…
ジプシーはただ母を置いて夜に逃げ出すだけで良かったはずだが、それすらもできないほど母の呪縛は強かったに違いない。(だからこそ一度男の家に逃げたのに連れ戻された経験が挿入されていた。)
母ディーディーは糖尿病で先も短そうだったので、あと数年も持たなかった感じですけどね…。ドラマのディーディーはハンクの誘いも無下にしていたし、もう自分の人生をどうこうしようという気もなかったし、とにかく娘に執着していて、それがすべてだったのですねぇ。。
ちょっと勿体なかったのは、サブカル女優代表のクロエ・セヴィニーがせっかく美味しいキャラクターだったというのに後半全然活かされていなかったということ。
誰も頼る人のいないジプシーが隣人レイシーに電話をかけて面会に来て欲しいと頼むのが、このときレイシーと母クロエ・セヴィニーの目に映っていたのは、代理ミュンヒハウゼン症候群の母によって虐待され支配されてきたジプシーではなく、嘘をついて寄付金などを集めて生きていた詐欺師であり、献身的な母親を殺して男と逃げた殺人者のジプシーだった。
そのため面会にやってきたクロエ・セヴィニーは「あなたは一体誰なの?あなたのことが分からない。なぜ母親にあんなことを?なぜ逃げなかったの?」とジプシーの境遇を理解することができなかった。
前にも書いたけど、クロエ・セヴィニーはジプシーの母ディーディーに違和感を感じた唯一のご近所さんなのだからと、途中で「なんかおかしいわね」と親子の様子を疑うだとかもできたし、「気付くことができたら良かった」だとか内省の言葉でもあれば救われたよなぁ。
誰もいなくなったジプシーの前に、実の父が救いの手を差し伸べてきたことが彼女にとってせめてもの慰めだろうか。
最後に刑務所の部屋のなかで、亡き母の肩にもたれるジプシーの姿を見ると、親子関係の複雑さと親子の愛を思い知るなぁ。どんな形であれ…
「殺したくせに愛しているとか何なんだ意味分からん」で片づけられるシンプルな脳の持ち主なら、とっくにあの家を出て行くことができたのかもしれないな。