超おススメの海外ドラマ【ザ・ワイヤー】シーズン2のあらすじと感想です。
【ザ・ワイヤー】は2002年~2008年に放映され完結したドラマですが、最近やっと観始めたところ、あまりの完成度に感服したドラマであります。
認知度が低いものの、imdbではあのゲーム・オブ・スローンズと同等の評価を得ている。
これまで観てきたドラマの中でベスト3に入るドラマだ。
【ザ・ワイヤー】は全米屈指の犯罪都市であるボルティモアで犯罪捜査をする刑事たちと犯罪に手を染める者たちとの攻防を情念丸出しの人間関係と絡み合わせて魅せたドラマである。
詳しくは過去記事に書いてます。
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【ザ・ワイヤー】おススメ海外ドラマ:シーズン1感想:続きが観たくなる犯罪捜査ドラマ
シーズン1で惚れ、シーズン2を観始めましたが、さらに惚れ惚れ。
あっというまにシーズン2も観終わってしまったので、シーズン2で新たに加わる登場人物とあらすじ、感想を述べます。
【ザ・ワイヤー】シーズン2のあらすじ
シーズン2の舞台はボルティモア港だ。ボルティモアは港町だが、景気が悪くなり、港湾作業員たちは生活に困窮している。
そんな中、港湾作業員組合の幹部であるフランク・ソボトカは、港を繁栄させ、作業員たちの生活を楽にしようと、政治家を動かす資金集めのためにコンテナの中身を横流しするようになる。
フランクにはデキの悪い息子ジギーと甥っ子のニックがいるが、この二人もフランクとは別にギリシア人にコンテナを横流し始める。ギリシア人はやがて麻薬の製造に使われる化学物質をニックたちに横流しさせます。
シーズン1の麻薬組織もそのまま登場しており、麻薬組織のその後が描かれる。オマールもちゃんと出ているので安心されたい。
麻薬組織の捜査を扱ったシーズン1に比べ、シーズン2は社会派色が強くなっている。
長年ボルティモア・サン紙で犯罪記事を担当してきたクリエイターのデヴィッド・サイモンは、【ザ・ワイヤー】シーズン2をこう分析している。
「労働の終焉とアメリカの労働者階級の背信への黙想であると同時に、邪魔をするものが何も無い資本主義は社会政策の代用とはならず、社会契約無しの未熟な資本主義は大多数の人間たちの犠牲によって少数の人間たちが潤う方向性を持つものであるという議論を意図的に提示している」
ザ・ワイヤー-スーパー!ドラマTV
シーズン2を未見だとピンとこないかもしれないが、噛み砕いて説明すると、これまでアメリカの産業を支えてきた労働者階級が資本主義によって破滅させられるとともに、資本主義が加速して1%の富裕層と99%の貧困層という未来が待ちうけているということを示唆している。
シーズン2が放映されたのは2003年だが、この頃からすでに行き過ぎた資本主義の弊害を見据えていたわけだ。そして現代は、このドラマが意図的に提示した議論が現実になってしまった。クリエイターは今何を思うのだろうか。
悲観的な見方と捉える人もいるかもしれないが、私はグローバル化により1%と99%の溝は今後ますます大きくなっていくと考えている。
シンプルな計算だ。100億円の資産をもつ富裕層が年利3%で回せば、何をしなくても1年で3億が転がり込んでくる。そして翌年は100億ではなく103億円に対して年利3%がつく。つまり、複利によって富裕層の資産は雪だるま式に増えていくのだ。
たとえ1億円であっても年利3%なら300万だ。派手な生活をせず、ミニマムに質素な生活をしている人なら1年300万円で暮らすこともできるだろう。
一方で、企業は世界的競争力を高めるためにコストカットを徹底してい行うようになる。コストの中で一番高くつくのは人件費なので、まず人件費を削るようになる。
賃金を減らした次は、アルバイト、パート、契約社員、派遣社員の首切りをするようになる。また、日本人を雇うと高いので最終的には安い外国人労働者を使うようになる。
正社員であっても管理職であっても安泰ではない。サラリーマンは代用がきくので、同じ能力であっても年収800万より年収600万で働いてくれる者を選ぶようになる。長期で人を雇用するのはコスパが悪いので、日雇いが増える。
賃金を下げられたり解雇された労働者は家賃を払えなくなり、シェアハウスに住むか、ネットカフェや漫画喫茶に寝泊まりするようになる。ホームレスの一歩手前だ。
年収が減り続けるなか、保険、年金、税金は増える一方だ。物価も上がるし、消費税も上げられて家計を圧迫する。いっけんうまくやっている家庭であっても、ひとたび家族の一人が病気になったり、要介護になれば、仕事を辞めて面倒を見ることになるかもしれないので、安泰した生活が保証されているわけではない。
副業を始めるようになったサラリーマンが増えてきたのも決して偶然ではない。サラリーマンたちもこれからやってくる時代の厳しさを肌で感じているのだ。
逆にいうと、いま何もしていない人はよほど平和ボケしていて世界が見えていない証拠だ。副業している人は、いまだかつてない高速で変遷する世界の状況を見通す能力があり、それに対応した行動をとることができているということなので、まだ救いがあると言える。
グローバル化の道を選んだ以上、日本も決して1%対99%の超格差社会とは無縁でいられない。
そんなことを念頭に置いておくと、本作【ザ・ワイヤー】のクリエイターの意図をより理解するだろう。
「堅気の人間がいかにして、このドラマに登場する犯罪者たちのような行動を取るまでに至るかを探求すると共に、勤勉さや努力は必ずしも正当に報われるとは限らないというセオリーをドラマ化する」
ザ・ワイヤー-スーパー!ドラマTV
むろん、努力や勤勉が報われないのは、もはや「セオリー」ではなく「ファクト」になってしまったわけだが。
【ザ・ワイヤー】シーズン2で新たに加わる登場人物
港湾パトロール警察官ビーディ・ラッセル by エイミー・ライアン
港湾をパトロールする警察官。
コンテナの中で13人の女性の死体を発見したことから、ボルティモア市警の特別捜査班に加わる。
演じるは「ゴーン・ベイビー・ゴーン」で助演女優賞にオスカーノミネートされたエイミー・ライアン。
港湾組合の幹部フランク・ソボトカ by クリス・バウアー
港湾組合の幹部フランク・ソボトカ。イケメン、185cmの身長、セミハゲとトリプルの魅力を持つ存在感溢れるタイプ。
港湾を立て直すために政治家に必死で資金を集めている。資金集めのためにやむを得ずコンテナの横流しに手をつけてしまう。
息子のジギーはデキが悪く、兄の息子(つまりは甥っ子)のニック(画像後方)に信頼を寄せ、ジギーの面倒を見させている。
シーズン2のキーパーソン。
港湾労働者でフランクの甥ニック・ソボトカ by パブロ・シュレイバー
フランクの甥で、港湾で働いているニック・ソボトカ。
ガールフレンドとの間にまだ小さい娘がいる。実家を出て3人で家族で生活したいと思っているが、金に困窮しているためできずにいる。
ジギーがコンテナの中身を盗んで売り始めたのをきっかけに、ギリシア人にコンテナの中身を横流しし始める。
シーズン2のキーパーソン。
演じるはパブロ・シュレイバーで、リーブ・シュレイバー(ナオミ・ワッツの夫)の異母弟である。
港湾労働者でフランクの息子ジギー・ソボトカ by ジェームズ・ランソン
フランクの息子。港湾で働いているが、デキが悪く、父フランクにいつも叱責されている。また体が小さいため、港湾仲間にもドラッグディーラーにもバカにされている。そのため、従妹のニックがジギーを気にかけている。
親父が185㎝で、従妹のニックが196㎝なのに、なんで俺だけちっこいの。175㎝って絶対サバ読んでるよね。
外国人犯罪組織のボスグリーク by ビル・レイモンド
ニックにコンテナの横流しをさせる犯罪組織のボス。
本当の名前は最後まで分からず、「グリーク」と呼ばれている。
外国人犯罪組織の部下スピロス by ポール・ベン・ヴィクター
グリークの部下で、ニックたちと交渉し、指示を与える男。
ギリシア人ということだが、パスポートを多数所有しており「スピロフ」も仮名である。
物腰静かな男で、個人的にニックを信頼し、気にかけている様子。
【ザ・ワイヤー】シーズン2の感想
すげえドラマ作ったなぁおい。
というのが率直な感想である。
シーズン1でも「ううむ、評判通り、いいドラマだ。いいもんめっけ。」なんて感激したが、シーズン2も圧巻のドラマであった。
シーズン2で新しく加わる港湾労働者のキャラも全員魅力的で非の打ちどころがない。キャラの好き嫌いは別としても一人一人に共感できてしまうのは、俳優の力量もさることながらやはり脚本の秀逸さと優秀なクリエイターのなせる業だよなぁ。どこぞの人気ドラマに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだよ。
港湾編
シーズン2のキーパーソンであるフランク・ソボトカさん、格好いいィ。
この熊みたいな顔がたまらない。軽く退行したヘアーとは対照的にうっすら生える濃ヒゲのバランスが良く、大柄身長なのにファニーフェイスもどきというギャップに胸キュンする人も少なくないだろう。
表情から分かる通り、フランクは真面目で責任感が強く、港湾や組合員の仲間のためにそらーもう一生懸命である。政治家に大金を渡して港湾を…なんだっけ?拡張するだったか橋を作るだったか、忘れちゃったけど。
自分の生活を犠牲にしてまでも上納し続けるフランク。コンテナの横流しに手を染め始めたのはそのためだ。
政治家への上納が実を結めばいいが、クリエイターが言うように、この世は努力や勤勉さが報われるとは限らない。
日本人は根がまじめで一定の道徳倫理を備えた人が多数であることから、周囲の人々にも一定のマナーや道徳倫理を期待する。(ある意味それが秩序立った日本社会を作り上げているのだが、逆にいえばその範囲から逸れた人は批判対象になる。)
「自己責任」という言葉が多く登場するのも、「自分たちと同じようにまじめにやっていればそんな苦境に陥るはずがない」という道理から出る言葉だ。
しかし現代のようなグローバル社会と超格差社会においては、スタートから歴然とした差がついており、もはや人生の成功や経済的自由の達成を個人の努力に帰結できない社会になっていることに気がついている日本人はまだ少ない。
ある程度満たされた生活にずっと身を置いていると自分が享受している状況の幸運さと状況が精神性に与える恩恵に気付かないものだ。「私は絶対に犯罪に手を染めるようなことはしない」と信じていても、実際に食う物に事欠いたとき自分は盗みをしないと断言できるだろうか。それこそバレないのであればギリギリの線で盗みに加担してしまうのが本音ではないだろうか。
本ドラマでは時勢の変遷の煽りをうけながらギリギリのところで手を染めてしまうフランクたち家族の様子が描かれているが、これがうまい。シーズン1のドラッグディーラーたちも丁寧に描写されていたが、今回は堅気なだけにいっそう同情を禁じ得ないキャラクターになっている。
甥のニックもフランクと同じ境遇で、その違いは若いだけということ。だが、たとえ若くとも、ニックの背中に明るい将来の兆しや希望は見えない。
ニックの夢は、ごく普通の他のアメリカ人と何ら変わらない。ガールフレンドと幼い娘と一緒にひとつ屋根の下で暮らし、生計を立てて行くという質実なアメリカンドリームだ。私たちと何ら変わらないそんな動機を前にして、ニックをジャッジなどできるわけがない。
実はニック役のパブロ・シュレイバーがリーブ・シュレイバーの異母弟だということを初めて知った。
パブロ・シュレイバーは最近では「ザ・アウトロー」でジェラルド・バトラーとやりあったり、スカイスクレイパーでロック様とやりあっていたが、ロー&オーダー性犯罪特捜班でオリビアを長い間苦しめた変態男の印象が強い。本作に出演していることを知らなかったのだが、ニックはドハマリ役だった。
そしてフランクの出来損ないの息子ジギーはそれこそイライラさせられるものの、長期的な視野を持つことができず、物事を何一つ思い通りにコントロールできない苛立ちや自分の存在意義を失っていく様子が丁寧に描かれている。
不器用な人間はどこにもいるが、不器用な人間が辛うじて社会に居場所を見つけ、まっとうな人生を送れるかどうかは、本人を取り巻く環境や状況によって大いに左右されるのだ。
ソボトカ家がコンテナを横流しする相手は主に外国人の犯罪組織である。ボスは「グリーク」と呼ばれているが、正体はギリシア人でさえもないようだ。グリークの部下スピロスはハンチング帽を被った物静かな男で、スピロスの存在感が人一倍光っていた。
シーズン2でこの犯罪組織はトカゲのしっぽ切りをするため、本人たちは無傷のままだ。ピラミッドの上に君臨する層は、合法なビジネスであれ、違法なビジネスであれ、勝ち逃げすることができるということか。
麻薬組織
港湾のコンテナ窃盗の合間にシーズン1の麻薬組織の様子も描かれる。エイヴォン・バークスデールの麻薬組織も、エイヴォンが収監されたことから、大きな岐路に立たされる。
エイヴォンの留守の間、麻薬ビジネスを取り仕切るのはNo.2のストリンガーだが、ビジネスを守りたい一心からストリンガーの武器である合理性と頭の良さが仇となる。
エイヴォンの相談役を務め、物事を多角的に見ることができ、いつも冷静沈着で取り乱すことのないストリンガーが少しずつ階段を踏み外していく様子がスリリングで恐ろしい。
これまで麻薬ビジネスを維持してこれたのは、エイヴォンではなく組織のブレインであるストリンガーなのではという印象を抱いていた。
シーズン2前半では、ストリンガーの分析や戦略こそ組織にとって正しい道と思われたが、シーズン2後半でエイヴォンがさすがに組織のトップである直観力を見せるところがこれまた憎い。
起業家の本は読んでいないが、実家が会社を営んでいることもあって「社長」に共通する性質をなんとなく肌で感じることがある。
よく考えてみればブレインであるはずのストリンガーにはその性質を感じ取れなかったが、エイヴォンはなるほど組織のトップらしい特徴を備えているといえよう。
そして台風の目オマールは、シーズン2でも大活躍をしてくれる。オマールが裁判で目撃者として麻薬組織を相手に証言するシーンはやたら爽快だ。
麻薬組織やギャングを相手に証言できる人間はそうそういない上に、オマールは麻薬組織の専任弁護士でさえ手玉に取ってしまう。
犯罪者といえど色々だが、オマールにラベリングするのであれば、さしづめ「良い犯罪者」とでも言えよう。
失うにはあまりにも惜しい存在なので、最終シーズンまで登場していることを願うばかりだ。
ボルティモア市警
そして警察側はどうなっているかというと、シーズン1の特別捜査班は解散し、それぞれ窓際族にされたり、左遷されたりと、みじめな警察ライフを送っている。
やがて私利のために警察を使うバルチェック(暗号解読に優れたプレッツの義理の父)の思惑によって特別捜査班が再結成されることになる。
ジミー・マクノルティはロールズに忌み嫌われているので最後に加わることになることもあって、シーズン1のように推進力としてではなく、メンバーの一員としての立ち位置。
警察側ではダニエルズがだいぶ信頼を置けるようになってきたのと、プレッツが自分の意思と義理父バルチェックの意向に挟まれている様子が印象的だった。
さてシーズン3では一体どんな展開が待っているのか。観始めたら止まらないドラマである。