映画「ハピネス」を見た感想です。ダークで不快な映画だけど、興味をそそられる映画です。ごく普通の人たちのダークな面を描いた群像劇です。2時間14分と長めの映画ですが、それを感じさせませんでした。
【ハピネス】作品情報
原題:Happiness
製作年:1998年
上映時間:124分
監督:トッド・ソロンズ
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、ディラン・ベイカー、ララ・フリン・ボイル、ジェーン、アダムス、シンシア・スティーブンソン
言語:英語
ジャンル:ドラマ
【ハピネス】あらすじ
男運に恵まれないジョイ、隣人の女性に病的に魅かれながらも何も言えないアレン、別れたいけど離婚はしたくない老夫婦、十代の男の子をオカズに自慰するセラピストのビル、イッたことがないことを不安に思う11歳の少年、すべてを手に入れたと信じるトリッシュ・・・
幸せを求め、彼らの人生は交差しながら展開していくのですが、それは必ずしも私たちの描く幸せではありませんでした。
【ハピネス】感想
いい映画、見逃していました。
当ブログは、主に映画やドラマの感想を書いているのですが、そのなかには「感想が書きやすい」ものと「感想が書きにくい」があります。本作ハピネスは、まちがいなく後者にあたります。しかし、長年経過したあとに記憶に残るものは、意外にもこういう映画だったりします。
ハピネスはダークで不快な映画であり、万人受けする映画ではありません。内容が内容だけに、好きだというと語弊があるかもしれませんが、私は最後まで興味をそそられました。
ドクターでセラピストであるビル・メイプルウッドは、実は十代の子と性交をしたがっているペドファイルです。ショッキングですが、いかにも現実的に描かれています。その後のビルの卑劣な行動も、事実をありのまま述べるような描写です。女性のレイプのシーンも同様で、日常的にありのまま描かれています。
ペドフィリアやレイプといった性的暴行は、映画の中でいつもとてもショッキングで、現実離れした出来事として描かれることが多いです。しかし実際は、それらは何千マイルも離れた遠い地で起きるのではなく、日常で起きる悲劇です。その過程があまりにも自然で日常的に描かれているので、容易に想像できてしまって背筋が冷たくなります。
ビルと息子の会話シーンも効果的に挿入されています。性的なことで不安を抱える息子にセラピストらしく優しく諭すビルですが、たまに「えっ?今なんつった?」と耳を疑うような言葉が口をついて出てしまいます。息子が「ううん、いいや」と言うので、ビルは息子に対して一線を超えずに済むのですが、息子の返答次第では、息子にも性的虐待をしていたであろうことが想像できます。
皮肉なことに、ペドフィリアであることを抜かせば、ビルはおそらく息子にとって最高の父親でした。また、ビルという人間への親しみを持つような描き方がされています。そのため、道徳心や社会的なモラルとビルへの感情移入との間で、視聴者の心がかき乱されます。
受け取り方を間違えると、短絡的に、ペドフィリアは病気なので刑務所ではなく精神病院に入れるべきといった論をサポートしている!という批判も出てくるかもしれません。子どもへの虐待、性的虐待はこの世で最もおぞましい犯罪ではありますが、説教くさいことを言ったり、道徳的判断を組み込まもうとしなかったのは映画として良かった点でした。ただし、思想の影響を受けやすい人、精神的に未熟な人は視聴すべきではないと思います。
男に捨てられ、自殺され、利用され続けるジョイや、マスターベーションに明け暮れて変態電話をかけまくるアレン、変態電話をかけてきた相手とセックスしようかと思うヘレン、それぞれが人間の惨めで哀れな恥部を効果的に具現化していると思います。
ところどころ、ブラックユーモアにプッと笑わせられるシーンもあるのが救いです。
1998年の作品とは思えないほど新しく、不変の心理を描いた映画だと思います。大人には是非一度、メンタルの状態が良いときに見てもらいたいですね。
評価:75点