3月22日公開映画「ブラック・クランズマン」の感想です。
「マルコムX」のスパイク・リー監督作品です。スパイク・リーってこの間死去したような…でもアカデミー賞で誰かの腕の中に飛び込んでたのを映像で観た記憶があると思ったら、死去されたのはスタン・リー監督でした。
「スパイク・リー 死去」でググると『スタン・リー氏死去を「スパイク・リー死去」と誤報』という記事が出てきくるので、多くの人が混同してしまう名前なのだと思われます。紛らわしいことこの上ない。
エニウェイ、これは予告を観ただけで笑えたので絶対観ようと思ってたのねー。
黒人警官が白人至上主義のKKKに潜入捜査という前代未聞の話ですから。ちなみに実話ベースです。
【ブラック・クランズマン】作品情報
原題:BlacKkKlansman
公開年:2018年(アメリカ)
監督:スパイク・リー
出演:ジョン・デビッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、ライアン、エッゴールド、マイケル・ブシュミ(スティーブの弟、似すぎ)、イザイア・ウイットロック・ジュニア、ロバート・ジョン・バーク、and アレック・ボールドウィン
上映時間:135分
あっドラマ「ブラックリスト」 のトム(ライアン・えっゴールド)が出てる。ライアン・エッゴールドは苗字がいけません。エッグなのかゴールドなのかはっきりしないので憶えづらいんですねー。ライアンまでは覚えてるんだけど。
まあそんなこと言ったら、ライアン・ゴズリングだってライアン・ゴブリンて覚えてるし、ライアンの名前もライアン・エッグ&ゴールドって覚えればいい話なんですけどね。スペルだってそのまま eggold なんですよ。なんかカワイイよね、苗字。
キラッと存在感が光る俳優なので、この機会に覚えてみてくださいね。ブラックリストのトムが好きだったので、戻ってきて欲しいなー。
さて本作「ブラック・クランズマン」は、アカデミー賞脚本賞を受賞、5部門でノミネートされました。
最近のアカデミー賞は人種差別ものばっかりだよなぁ。グラディエーターの頃が懐かしいよ。あと昔はグラディエーターのように一作品が総ナメするほどインパクトのある作品が選ばれていたけれど、今は無難な作品がまんべんに選ばれている感じがしますよね。
先日当ブログでも感想を書いた「グリーンブック」に続き、本作も実話を基にした映画です。
165cmと小柄ながら、強い印象を残すスパイク・リー監督。彼の作品はほとんどが黒人を描いたもので、社会的・政治的な論争を巻き起こすものが多いですね。
「グリーンブック」は白人監督の作品、本作は黒人監督の作品なので、その対比も面白いんじゃないかと思います。
グリーンブックは60年代のアメリカが舞台でしたが、ブラック・クランズマンは70年代初めのコロラドが舞台になっています。
【ブラック・クランズマン】あらすじ
1970年代初め、コロラド州コロラドスプリングスで黒人初の警官となったロン・ストールウォース。
ロンは新聞にあったクー・クラックス・クラン(KKK)に電話をかけ、白人のフリをして組織に加わりたい旨を告げる。
黒人のロンは白人でユダヤ人の相棒刑事フリップ・ジマーマンと協力して、KKKに潜入捜査することに。
【ブラック・クランズマン】感想
おもしろかった!
個性が強い上に扱うテーマは人種差別なので万人受けする映画ではないかもしれないけど、私は人種差別ものに関心を寄せていますので楽しく悲しく恐ろしく拝見しました。
なにがいいってやはり人種差別ものにブラックユーモアを与えちゃう度量だと思うの。「人種差別とは・・・」みたいにシリアスに構えてくどくどと説くより、ユーモアで笑い飛ばすくらいのほうがかえってうまくいくということは往々にしてあるわけです。
たとえば先日観た「グリーンブック」でも、「人種差別云々よりヴィゴ・モーテンセンとマハラジャ・アリの珍道中が肌の色なんか気にしないぐらいにおもしろい」という感性に人々が至れば、映画が送るメッセージを理解するよりも、真の意味で人種差別撤廃につながっているわけです。
だから人種差別を扱う映画でブラックユーモアを取り入れる案は賛成。
5~6回は爆笑したなぁ…
ロンがコロラドスプリングス警察の面接に行った時に、上司二人が面接をします。一人が白人、一人が黒人です。この二人も和みますぅ。
左の白人署長が
「君はその…オホン、ポリコレ的にまずい…差別的な?言葉を…オホン…かけられた場合には…ゴニョニョ…どう反応す…?」
とモゴモゴしながらロンに聞こうとすると、右の黒人の方が
「ニガーと言われたらどう反応する!?」
とポリコレ無視の質問を投げかけるとロンはこんな顔をして
ロン「…状況を評価して、冷静に状況を沈静化させます…」
ロンも上司たちもプライスレスな表情しまくりで、この雰囲気は70年代だからこそなのか、気負いしない雰囲気がたまらない。アメリカ人のブラックジョーク的なユーモアが大好きなんだよなぁ。
二人はロンを気に入り、ロンを雇います。コロラドスプリングスで初めての黒人となったロン。
ロンは突然KKKに電話をして
「まず俺は黒人が嫌いだ。ユダヤ人もメキシコ人もアイルランド人もイタリア人も中国人も。だがなんたって一番黒人が嫌いだ」
なんつってKKKに取り入ることに成功。
近くにいた刑事たちは「何やってんだこいつ」みたいな顔して振り返ると
「いまお前、本名教えただろ」
とか冷静にツッコミます。
ロンは
「うん…言ってたな」
ダメだ、思い出しただけで笑える。もう一回観たい。
ふつうは声で黒人か白人かは区別がつくもんですが、実際のロンは白人口調が相当うまかったんでしょうね。本作でロンを演じたジョン・デビッド・ワシントンもうまかったけど、たま~に誤魔化せない音が出ていたので。でもうまかった!
潜入捜査は、黒人のロンが白人のフリをしてKKKと電話で話す役をしますが、実際にKKKの集まりに顔を出すのは白人でユダヤ人のフィリップ(アダム・ドライバー)です。
つまり二人一役で、ロン・ストールワースになります。
黒人のロンは白人のフリをして、電話でKKKの最高幹部デビッド・デュークと度々話をします。
上司も会話を傍らで聴いています。
ロン「サー、お会いしていないのに私が黒人じゃないと何故わかるのですか?」
デューク「簡単さ、君の話し方は黒人の話し方ではないからだよ」
ロン「具体的に言いますと?」
デューク「そうだねぇ。黒人はほら、Rのサウンドに特徴があるんだよ。我々白人はRのサウンドはこう発音するだろう?アー…(Rのサウンドを出すデューク)。でも黒人は…なんていうかね、アールァ…たとえば~~~~(黒人の発音を真似るデューク)」
その瞬間にそれを聞いたロンの上司が隣で飲んでいたコーヒーを吹くんですね、私も吹きましたけどね。白人でも黒人でも何人でもいいけどさ、とにかく笑えるというこの豪快さ、人種の問題を吹き飛ばしてしまうような面白さがそれはそれは痛快なわけです。
笑いというのは人間が持つ大そうな武器ですが、痛みを軽減したり、ストレスを軽減したり、物事をとるに足らないものに見せる力があります。
スパイク・リー監督は被差別主義者側である黒人ですのでそれを十分知っている。だからこそ、たとえKKKが相手でもユーモアに満ちたコンテンツを作れる。これが白人監督だと「グリーンブック」のように額面通りの「人種差別は忌避すべきもの」という教科書的な映画に仕上がるところなのですが。
得てして白人監督による作品は被差別者側の真意を掴めきれず、説教めいた独り善がりの映画になりがちですよね。グリーンブックも素晴らしい映画ですが、自分がどちらが好きかと聞かれるとブラック・クランズマンに軍配が上がるのは、きっと私が有色人種だからだと思うよ。アカデミー賞を選ぶお偉いさんは白人が多いから「グリーンブック」が作品賞に選ばれた。
全編ずっと笑いっぱなしというわけではなく、ところどころに笑えるシーンが散見していて、あとはシリアスなモードになったりします。
特に実際にKKKに潜り込むフィリップのシーンはハラハラドキドキしますし、ライアン・エッグ&ゴールドがこれまたヤバそうな雰囲気醸してるんで、いつ本性がバレるかと思うと気が気でない。
最後の爆発シーンまでは突然物語が加速してスリリングだし、その後にKKKのデュークに電話で素性をバラしたり、レイシストの白人警官を皆で笑いながらやりこめるシーンを挿入したりして、シリアスとコメディのバランスが素晴らしい。
たぶん白人監督だとここまで思い切ったこと出来ないよね。
映画が終わりそうな頃にスパイク・リーの大好きなドリー(カメラを水平に移動するアレ)シーンもあった。
白人レイシスト警官にやり返して皆で和みムードで映画が終わった後、2017年のバージニアで白人至上主義の極右が車で人種差別反対デモに突っ込んだりした実際の事件が挿入されていて、途端に現実に戻すという厳しさも忘れないスパイク・リー。
KKKをやりこめた後だったから、これはキツイ映像でした。この最後の動画はけっこうショックを受けると思うのでちょい閲覧注意ですが、それが現実なのを忘れないでほしいという強いメッセージが込められています。
「グリーンブック」とあわせて両方見てもらいたいな。