ドラマ史上最長寿番組となった「ロー&オーダー性犯罪特捜班」。(なんと1999年から放映している!)
その最新シーズン22がアメリカで放映しています。
ロー&オーダーSVUはシーズン1からずっと観続けている番組なんだけど、実は当ブログで一度も扱ったことがなかったね。
さすがに22シーズンも放映していると同じような内容も多かったりして少しマンネリ化も否めないのだけれど、クリエイターのディック・ウルフのアンテナの高さで現実の社会問題を反映させた内容を主演のマリシュカ・ハージティが個性で魅せるという相性抜群のタッグは22年経っても安定の安心感なのよねー。
海外のエンタメ界においてリアル社会の反映は常にポリコレのごり押しを孕みやすいものだけれど(誰もがLGBTQを受け容れていて彼らが差別を受けないユートピア世界であったり、LGBTQの過剰人口世界といった現実から乖離した世界)、ロー&オーダーSVUは犯罪と法から切り込んでいて、いたずらに同性愛の性的シーンを描くばかりの逆差別的な昨今のドラマとは一線を画し、性的マイノリティや未成年、少年が被害者になる現実を描いてくれる貴重な一作です。
当時ツートップだったマリシュカの相棒クリストファー・メローニがシーズン12で降板してしまった時は番組自体の存亡が懸念されたけれど、マリシュカがその後もしっかりと牽引していき番組の人気は衰え知らず。あっという間に22シーズンを迎えました。
メローニとしては自分が降板しても視聴率落ちないので思うところもあると思いますが、マリシュカとはリアルライフでも仲の良い友人なのできっと広い心で古巣訪問を喜んでいることだと思います。
クリストファー・メローニがシーズン22にゲスト出演
そこで「ロー&オーダーSVU」ファンに朗報が飛び込んでまいりました。
なんとクリストファー・メローニがシーズン22にゲスト出演するそうです!
私は最初メローニがメインキャストとしてカムバックするのかと勘違いして小躍りしそうになりました。メロニストとしてはいつかメローニが帰ってくると信じていたかったのでローニ。
でもゲスト出演でもいい、メローニがNYPD(ニューヨーク市警)に戻ってくるなら。
SVUにはゲスト出演ですが、メローニは「ロー&オーダー」の新しいスピンオフで主演するそうです。
新スピンオフのタイトルは「Law & Order: Organized Crimes」で、組織犯罪課を描くものになるようです。
組織犯罪というとギャングやマフィア絡みが多くなりますが、SVUでは人身売買組織・性犯罪組織が頻出しているので、SVUと合同で人身売買組織を捜査という形も多くなるかもしれませんね。クロスオーバーもできそう。これは楽しみ。
当初、SVUのシーズン22の第1話でメローニが出演する予定だったのですが、4月のスピンオフ放映にあわせてSVUに登場するように調整された模様です。
オリビアとエリオットが10年ぶりに再会するのかあ…胸熱。
【ロー&オーダーSVU】シーズン22第1話あらすじと感想
さて、SVUシーズン22第1話のあらすじです。
NYの公園で黒人男性と子どもを連れた白人女性が言い争いをしているシーンから始まります。
白人女性は黒人男性が子供を怖がらせていると訴え、黒人男性に立ち去るように怒鳴っており、立ち去らなければ警察を呼ぶと脅しています。
黒人男性は自分は何もしていないのだからそこにいる権利があるといい、女性が騒いでいる様子をスマホで動画撮影しています。
まもなく警官がやってきて仲裁に入りますが、警官が付近を調べていると頭から血を流しズボンを下ろされた状態の若いアジア系男性が藪の中に倒れていました。
白人女性が間髪入れずに「だから様子がおかしかったんだわ!」と叫びます。
黒人男性は「俺は何もしていない!無関係だ!」と無実を訴えますが、警官は黒人男性を確保します。
そこへオリビア、フィン、ローリンスが呼ばれ現場にやってきます。
周囲に人だかりができて、スマホで動画を撮り始めます。
黒人男性には逮捕令状がいくつか出ていたこともあり、事態がエスカレートする前にオリビアは黒人男性を連行させます。
調べを進めるうちに真犯人の存在が浮かび上がってきますが、KAREN*の扇動とNYPDが黒人男性を逮捕した動画がネットにアップされたために市民のNYPDへの批判が高まっていきます。
*KARENとは…通常の範囲を超えて権利や要求をゴリ押しする人を表す蔑称。主に白人女性を示唆しており「マネージャー(店長)呼んで」という表現を好んで使う人たちを指す。2020年はコロナ禍でアメリカの白人女性が入店する際にマスク着用を拒んで大騒動を起こすといった事態が頻発しKARENイヤーとなった。今回のKARENは冒頭で黒人男性を不当に扱った中年の白人女性のことを指す。
といった粗筋です。
これは実際にアメリカでも起きた事件でもあります。そういえばカリフォルニア州でもフィリピン系の女性が白人中年女性に「ここから出て行け。この国から出て行け」と言われた人種差別事件もありましたね。
捜査を進めて間もなく、冒頭の黒人男性ジェイヴォンは無実であることが分かり、他に真犯人が出てきます。
ジェイヴォンに出されていた令状は重罪に対するものではなく抗議活動に関するものでした。
ジェイヴォンはたまたま運悪くその場に居合わせただけで、差別意識に基づく白人女性の扇動によって不当に逮捕されてしまったわけです。
(なお、この女性は「言っとくけど私は所謂KARENじゃないからねー!」と周囲にアピールもしていた用意周到ぶり。)
焦点は「誰が犯人か」ではなく、ジョージ・フロイドに代表される黒人への不当な扱いと警察の組織的・制度的な潜在的人種差別意識です。
ジョージ・フロイド以降に再燃した警察への怒りと不信感を背景にドラマのNYPDもかなりのプレッシャーを受けており、警察の総体的な意識改革が必要になってきているという話です。
不当逮捕されたジェイヴォンはオリビアとフィンを名指しでNYPDを訴えます。
ガーランド(本部長補佐?)は反警察感情が増している今、「パージ(粛清)」が迫っており、警官は誰もがその対象になり得ると警告します。
まぁ、警察だけではないですけどね。日本でも同じパージが起きてますわよ。
オリビアは内務調査官と面談します。(内務調査官は黒人女性)
そこでオリビアは、公園の白人女性が虚偽報告の常習者であり接近禁止令も出されている事と、以前アマロとパートナーだった頃にジェイヴォンに職質したことがある事を知らされます。
白人女性の身元チェックをしなかったこと、黒人男性と面識があるにも関わらず気付かずに不当逮捕したことから、無意識のうちに自分の潜在的なバイアスを突き付けられてしまったオリビアは愕然とします。
えー最近の研究では、人間は自身と同じ外見的特徴(人種)を持つ相手の方が脳が反応しやすいことが明らかにされています。
「白人の見分けがつかない」「黒人はみんな同じに見える」という無垢で若干差別的とみなされる感想を誰もが聞いたり口にしたりしたことがあると思いますが、それは白人・黒人の外見的特徴が日本人とは異なるために脳が反応しにくいためです。逆に白人や黒人からみると「アジア人はみんな同じ顔に見える」ということになります。
ドラマではオリビアがジェイヴォンと面識があったにも関わらず認識できなかったことから、オリビアが黒人を白人と同じように認識していなかったという事、黒人をカテゴリ化して見ている事を示唆しています。
白人なら気が付いていたに違いないのに、ジェイヴォンが黒人だったために顔を認識できず、「黒人」というカテゴリで見てしまっていたということです。
これは人種が共存する世界で人類が挑戦していかなければならない課題ではありますが、スタンフォード大学心理学部教授のジェニファー・エバート博士によれば
脳の基底部近くに埋まっている「紡錘状顔領域」と呼ばれる領域は、馴染みのある人と馴染みのない人、友人と敵を見分けるのに役立っているのだ。
紡錘状顔領域またはFFAは、原始的で、種として生存するためには不可欠であると広く考えられている。人間の基本的な欲求の一つは友好関係を築くことである。周りの人のアイデンティティを探知する能力がなければ、私たちは孤独で、脆弱で、危険に晒されたままになってしまう。
無意識のバイアス-ジェニファー・エバート
同質のものを一つのグループとして捉えるカテゴリー化は、人間の脳の嫌悪すべき特徴でも、特定の人しか行わないプロセスでもない。むしろ、絶えず流れ込んでくる過剰な刺激を整理し、管理することを可能にしている脳の普遍的な機能なのだ。それは、混沌とした世界に一貫性をもたらすシステムである。予測可能と思われるパターンに本能的に依存することで、私たちの脳はより迅速かつ効率的に判断を下すことができる。
というように、人類の進化の産物でもあります。
人種差別を克服するのが難しい理由はここにあります。
これを踏まえた上でジェニファー・エバート博士は自著無意識のバイアスで人類の進化の産物である「ステレオタイプ」に基づく「バイアス」をどう打破し、より良い人種統合化が図れるか、より良い多様性のある社会が作れるかについて語っています。
さて、オリビアは黒人男性ジェイヴォンを認識できかなかったことに加え、白人女性(KAREN)のバックグラウンドチェックをするのを怠ってしまいました。白人女性の信ぴょう性があるか否かの確認をせず鵜呑みにする形になってしまったというわけです。
とはいえ、オリビアが黒人男性を連行したのも騒ぎがエスカレートするのを防ぐため、関係者の身の安全を考えての決断でしたし、黒人男性には令状が出ていたと聞けば、ひとまず連行するのは妥当な決断です。
いずれにしても現場の影響が多すぎて、黒人男性の肌の色という一つの要素がどれだけオリビアの判断材料になっていたかを読み解くのは不可能です。
しかし、白人女性を無条件に信じて黒人男性だから不当逮捕してしまったと思わせる状況になってしまったことが問題なのです。
今の世の中、真実より世間に「どう見えるか」が要諦なんですよ。残念な世の中ですし、それが魔女狩りの様相を呈したデンジャラスな世界になってしまっているのだけど。
インターネットの普及でファストファッションならぬファストニュースが駆け巡るようになった現世では、真実より「どう見えるか」が大きな比重を占めています。
そしてFacebookやtwitterといったSNSやgoogleのような巨大大手サイトは、独自のフィルター機能によって読み手が読みたい情報だけをフィードします。これにより読み手の信じている情報は似た視点からの意見やコメントのフィードによってさらに強固にされ、フェイクニュースでさえ真実に見せかける仕組みになっています。(まぁ、この辺りは皆さん既にご存じだとは思いますが)
真実がどうかに目を向ける人は少なくなり、「日本軍が20万人の少女を性奴隷にした」というニュースが駆け巡ればそれが真実を超越してしまいます。銅像の設置や映画の制作、劇、教科書への加筆によって、そのニュースは裏打ちされていき世間の既成事実になってしまうわけです。
この場合もNYPDが黒人男性を不当逮捕した(しかも白人女性KARENのいう事を鵜呑みにした)ことが世間でニュースになり、オリビアが人種以外の判断材料に基づいて連行したことは世間に斟酌されることはないでしょう。
予想通り、真犯人が捕まりますが、ガーランドの下令で大陪審にはオリビアではなく黒人であるフィンが証言することになります。
しかしフィンが「正当な手続き」に則ってジェイヴォンを逮捕したと発言したことについて、陪審員のひとりが「貴方が母子を救うために黒人の父親を撃ったのと同じように『正当な手続き』をしたということですか?」と指摘したことで流れが変わってしまいます。(前シーズンの最終回でフィンは黒人母子を人質にとった父親を射殺しました。)
この民衆の空気の流れ、大変危険なものですわよね。果てにはレイプ&殺人犯を無罪放免にすることになるのですから。
真犯人はこう証言しました。被害者男性とは同意の上でセックスをしたが、別れたあとのことは知らない。被害者男性は誰かに襲われたのだろう、と。
さらに真犯人は、フィンが証言台に立って流れが変わったことで勢いをつけたため、警察に自白を強要された、被害者男性もジェイヴォンも自分も警察による権力行使の被害者だと証言します。自分から警察に矛先を変えることに成功しました。散々嘘をついたくせに、陪審員は彼の偽証にはもはや目もくれません。
ジョージ・フロイド以降警察は批判の矢面に立っていますのでこの戦略は大成功し、真犯人は放免されます。
私もアメリカの警察官にはあまり良い印象がありませんが予算削減には反対です。警察の組織的・制度的なバイアスは他のどこの組織・共同体・個人にも見られるものと変わらないと思いますが、法の執行者としてその権力と影響は絶大です。そのため、社会心理学者と連携するなど抜本的な社会心理教育訓練が不可欠ではないかと考えています。
最後のシーンは、オリビアがジェイヴォンに会いに行って謝罪するシーンです。ジェイヴォンは騒ぎのせいで仕事を失い、真犯人が無罪放免になったことに怒りを隠せません。オリビアがNYPDと自分には課題が多いと伝えると、ジェイヴォンは「そうだな」と言って去っていきます。
オリビア自身が気付いていなかったかもしれない潜在的バイアスを取り上げて、現代の警察制度への批判と繋げたところが上手かったと思います。
ただひとつ気になったのは、コロナウイルス禍のために検温シーンを入れたりマスクを付けたりはしているのだけれど、喋る時にマスクをわざわざ取り外したりしているんですよね。だったら最初からマスク着けなくていいのに。
真犯人に「このマスク着けてね」と尋問室で着けさせた数秒後に真犯人がマスクを外して喋り始めるとかね。意味なしマスク。
付けていたのに人と話すときに外すなんて、人々に安全なマスク着用方法を伝えるには最悪の例だと思いました。
ちなみに同じクリエイターのシカゴ・ファイアとシカゴPDでも同じ過ちを犯しているので、これはどうなのと思います。容疑者の家に潜入するときにはマスクをしているのに目撃者や容疑者と話すときに外すとか、逆だろー!