福井県の田中蓮くん(3歳)が行方不明になって1か月が過ぎた。
警察は1500人を動員して蓮くんの行方を捜しているが、手がかりは何も見つかっていない。まるで神かくしのように、忽然と姿を消した。
事件の経緯
蓮くんは、昨年12月9日、父親の会社に二人で出かけた。この日は土曜日だったが、父親が会社に用事があったため、蓮くんを車の助手席に置いていった。用事を済ませているわずか10分の間に、蓮くんは姿を消した。
蓮くんは父親のスマホでアニメを見ていたという。車のエンジンはかけたままで、鍵はかかっていなかった。シートベルトはかかったままで、スマホが助手席に残されていた。
駐車場の後ろには川があり、柵などもないことから、蓮くんが川に落ちた可能性もあるとみて警察は下流を中心に川底を探したが、何も手がかりは得られていないという。
子どもを一人で放置させる=不法行為であると認識せよ
毎月、毎年のように子どもが行方不明になっている。子どもが行方不明になるのは、アメリカも日本も関係ない、どちらの国でもたくさんの子どもが行方不明になっている。
虐待の意図で放置(ネグレクト:neglect)され行方不明になるケースや、親がジャンキーで薬を買うために子どもを車に放置とか、そうしたどん底の悪意あるケースを除けば、日米の子どもの安全への取り組みには決定的な違いがある。
それは、子どもを一人で放置させることは親の過失であり、不法行為であるという通念が社会に当然のこととして認められているかどうかである。日本ではこれがまだ社会的な通念になっていない。法整備もそこまで整っていない。
アメリカは子どもへの犯罪には特に厳しい。裏を返せば子どもへの犯罪も多いことであるが、それゆえに警察当局もコミュニティも子どもの心身の安全には目を光らせているのである。
各州によって若干法律は異なるが、カリフォルニアでは14歳以下の子どもを一人で放置させることは禁止されている。車でも家でも公園でも、14歳以下の子どもには必ず保護者か監督者が付き添っていなければならない。
したがって、スーパーでもどこでも子どもが一人で放置されているシーンを見ることはない。スーパーのカートには乳児でも乗せられるシートが付いているし、重かろうが面倒くさかろうが、大人は必ず子どもを置き去りにしない。
もしアメリカの駐車場で小さな子どもが車中に一人でいたら、人々はすぐに警察に連絡を入れるだろう。そして大人は、児童保護の観点から過失を認められ、逮捕される。
何の罪で?子どもを生死に関わる危険にさらした罪である(英語で child endangerment という)。そして、アメリカではこれは重罪(felony)として裁かれる。嘘ではない。
7歳の息子を一人で公園に歩かせて行った罪で逮捕された母親は、最長5年の刑期を言い渡されたし、9歳の娘を一人で公園にいさせた母親が最長10年の刑期を言い渡されている。これらのケースは警察による発見だった。
アパートに住んでいた母親が、キッチンから見えるアパート敷地内の公園で3歳の女の子を一人で遊ばせていたことで逮捕されたこともある。これは住民が通報したものだった。
9歳の子が一人で遊んでいたので母親が逮捕されるというのは過剰保護ではないかという声も上がっている。子どもはみなユニークで一人一人違うし、各家庭の状況や方針も異なる。子どもが保護されるのは良いとしても、これで母親が逮捕されて収監されるというのは、その後の家庭に与える影響を鑑みると、厳しいと言わざるを得ない。この点はアメリカでも議論されている。
逮捕すべきか否かという議論は置いておくとして、ここで大事なのは、アメリカでは幼い子どもを一人で放置させることは子どもを生死に関わる危険にさらす重い不法行為であるということを社会が認識していることだ。
車に子どもを一人で置いて行ったら、誰かが誘拐するかもしれない。誘拐犯は身代金要求目的かもしれないし、性的暴行のために誘拐するかもしれない、殺すために誘拐するかもしれない。北朝鮮の工作員が拉致するかもしれない。車に異常があって、発火するかもしれない、爆発するかもしれない。車の上に何か落下してくるかもしれない。子どもが車のギアを入れてしまって、勝手に動き出すかもしれない。シートベルトで遊んでいるうちに首に絡まってしまうかもしれない。シートベルトから抜け出て車内で遊んでいるうちに座席から落ちて頭を強く打って死んでしまうかもしれない。暴走車が突進してくるかもしれない。
小さい子どもが行方不明になる原因の多くは、親による怠慢・過失のためだ。本来なら起こるはずのない事件が、子どもの心身の安全に対する親の意識の低さ、子どもの放置が重過失であるという認識不足によって起きている。
父親が、母親が、子どもを一人で放置させることが子どもを生死の危険に晒すという認識をしっかり持っていたら、こうした事件は防げるのである。
田中蓮くんのケースでいえば、目を離して車に置き去りにしたことは言わずもがなだが、チャイルドシートを使っていないことや、3歳児には不適切な助手席で、大人のシートベルトをかけていたという点も、子どもを危険に晒していることになることを認識しなければならない。
なんなら〇〇歳以下の子を一人で放置させるのは不法行為であるという法整備でもいい、こうした認識を徹底させることで、守れるはずだった尊い子どもの命が親の怠慢で失われることを社会全体で防いでいかなければならない。
なお、アメリカでは子どもが行方不明になると(別居・離婚した片親による誘拐が多い)、私たちのスマホのアラートが一斉に鳴り、緊急通知が届く。自然災害の時以外で唯一届くのがこのアンバー・アラートだ。
道路の電光掲示板、テレビ、インターネット、SNSだけでなく、個人のスマホに一斉配信されるのだ。目撃者証言があれば、車の型やライセンスプレートも配信される。日本もこうした整備を試行すべきではないだろうか。
田中蓮くんが無事に見つかることを心から祈っている。