6月7日に公開されたリーアム・ニーソン主演映画【スノー・ロワイヤル】を観た感想です。
「模範市民賞受賞直後にキレる」「全世界15カ国No.1ヒット」「パルプ・フィクション」「ジャンゴ 繋がれざる者」「ファーゴのキレ味とセンスあり」「タランティーノが96時間を撮ったらこうなる」などキラーワードが並びます。
ダークで暴力的な映画にブラックユーモアを利かして独特のタッチの映画を作るタランティーノやコーエン兄弟のファン層に訴えている…ということは、裏を返すとタランティーノというパワーワードを使わなきゃいけないと注目してもらえないという証にも成り得るんですよねぇ。
【スノー・ロワイヤル】作品情報
原題:In Cold Pursuit
製作:2019年
監督:ハンス・ペッター・モランド
出演:リーアム・ニーソン、ローラ・ダーン、トム・ベイトマン、ドミニク・ロンバルドッジ、エミー・ロッサム
放映時間:119分
ハンス・ペッター・モランド監督です。…存じませぬ。
ローラ・ダーン、ドミニク・ロンバルドッジ、エミー・ロッサムといった中堅俳優がけっこう出演している。エミー・ロッサムは久しぶりに観たけれど、リスみたいで可愛いですぜ。
【スノー・ロワイヤル】あらすじ
雪の町キーホーで模範市民賞を受賞するほどの除雪作業員ネルズ・コックスマン。
ある日、一人息子が地元の麻薬組織に殺されてしまう。マフィアの存在に気付いたネルズは復讐を開始。彼は闇のキャリアで身に付けた特殊なスキルではなく、除雪作業で身に付けた土地勘と体力と犯罪小説で続んだ知識で一人また一人と敵を追い詰めていく。
しかし、敵対する麻薬組織の仕業と勘違いした彼らはその組織を襲撃。相手もその報復に出る。
静かな田舎町で起きた久々の事件に、地元警察はテンション上がりっぱなし。ネルズの戦いは、全てを巻き込みながら全く思いもよらない方向へと進んでいくのだった…。
デンマーク映画「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車(2014年)」のリメイクである。オリジナルはステラン・ステラスガルドが主演している。観たことないし、ふざけた邦題です。
【スノー・ロワイヤル】感想
リーアム・ニーソンの「96時間」の呪縛
息子を殺されたリーアム・ニーソンが麻薬組織に復讐を誓う…リーアム・ニーソンお得意の親父リベンジものである。
リーアム・ニーソンはかつて「シンドラーのリスト(1993年)」で大勢のユダヤ人を助けた英雄オスカー・シンドラーを演じて映画界に名を刻んだ俳優だが、「96時間(2008年)」が大ヒットしたために、キャリアが迷走している親父俳優である。
「96時間」では欧州にパリピぽく旅行にいった娘が人身売買組織に誘拐されたので、取り戻しにいった果てに組織を壊滅させた元CIA工作員パパを演じたのだが、そのイメージが過剰に固定してしまいました。
大ヒットした「96時間」は続編が作られ、結局トリロジーにされました。あらかじめトリロジーと計画されていたわけではなく、第1作がヒットしたから続編が製作されたわけですねー。
視聴者の反応を伺って製作された作品は概して駄作に終わるというセオリー通り、2作目、3作目は不発だった。(個人的には2作目までは許せた。)
「96時間」シリーズを2014年に撮り終えたリーアム・ニーソンは、その間も「THE GREY 凍える太陽(2011年)」というサバイバルドラマものや、「アンノウン(2011年)」「誘拐の掟(2014年)」「フライト・ゲーム(2014年)」「トレイン・ミッション(2018年)」といった謎解きものに多数主演するようになった。
男たちをバッサバッサと倒していくリーアム・ニーソンを期待してこれらの映画を観にいった視聴者たちは、「96時間」でファンを魅了したリーアム・ニーソンの姿を観られず、毎回ガッカリすることとなった。むろん映画はいずれもヒットしていない。
要するにリーアム・ニーソンは「誘拐」「元CIAの工作員」「問題解決」という3つのワードで定義されてしまう俳優と化してしまったのだった。
個人的には「特攻野郎Aチーム(2010年)」のハンニバルは似合っていたと思うし、続編をどんどん作っていけば「ミッション・インポッシブル」や「ワイルド・スピード」に匹敵するユニバースが出きていたかもしれないのに。
「96時間」の呪縛から逃れないリーアム・ニーソン、果たして本作で呪縛から逃れることに成功したのだろうか?
結論からいうと、していない。お気の毒様です。
個人的に私はリーアム・ニーソンが好きだし、頑張れ親父俳優TOP10に入れている俳優なので応援しているんですけどねぇ。
息子のリベンジなのにダークコメディ
まず映画開始後10分くらいで息子があっさり殺されてしまうのだが、あまりにもアッサリ死んでしまうので拍子抜けする。なんなら顔さえまともに見えない。父と息子の絆も愛情も見えないまま、それはそれはあっさり味の最期である。
リーアム・ニーソンの妻がスモーカーのローラ・ダーンで嬉しい驚きだというのに、ローラ・ダーンは息子の死に嘆いて家を出てしまって帰ってこない。
リーアム・ニーソンは息子が殺されたことを知ってリベンジしようとするのだが、すぐに映画はダークコメディ風にシフトしてしまう。
子どもを殺された親のリベンジとダークコメディはまったく相性が悪い。なかにはキル・ビルのようにまぁまぁイケてるものもあるのだけれど、キル・ビルのような思い切りがあるわけでもない。
なによりリーアム・ニーソンがシリアスモードなので、2つの犯罪組織のダークコメディとトーンが違い過ぎて、まるで2つの映画を同時進行で観ているようでした。
ダークコメディがカラぶりしてる
「タランティーノやファーゴ風、あるいはガイ・リッチー風にしたかったんだな」というのが誰の目にもハッキリ分かるので、見ていて痛々しい。
しかも挿入されるブラックユーモアがかなり空振りしていて、どこで笑えばいいのか分からない。
台詞も陳腐で痛々しく、犯罪組織のボスを筆頭にオーバーでやりすぎ、白けることしきり。ちっともおもしろくない。
良かったのはヒョードル似のドミニク・ロンバルドッジと、ウェディングドレス屋で女性が着ていたウェディングドレスが可愛かったことでしょうか。
4つ巴ではない
ポスターやあらすじでは4つ巴となっているが、警察(エミー・ロッサムたち)は何もしないので3つ巴である。警察は本当に何もしない。
リーアム・ニーソンも最後の銃撃戦でバイキング(組織のボスの愛称)と戦っている際中にネイティブアメリカンたちの組織が殴り込みをかけてきて「お、なんだなんだ、どうした」という感じ。
カメラのショットのタイミングがズレてる?
カメラワークや撮影技術は良く知らないので確かなことは言えないのだけれど、ショットのタイミングがズレている感じがした。たとえばウェディングドレス屋で敵をショットガンで撃ち殺す時、撃った瞬間が見えず、次に画面が切り替わった時は0コンマ数秒遅れて撃たれて吹っ飛び始めた際中だった。撃たれた瞬間が映ってない感じがする。
それから切り替えもタイミングがズレている気がして、もう少し長く見せるべきところが短かったり(銃撃戦とか)と、カメラワークなんか殆ど気にしたことないのに、本作では細かいカメラワークがやけに気になってしまった。
けっこう長かったので、途中でかなり苦痛になる作品でした。先日観た「ハウス・ジャック・ビルト」と同じくらい苦痛だった…
タランティーノ風?にはしてあるのだけれど、やはりコピーはコピー。オリジナリティに勝るものはないのよね。。