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【ザ・ハウス・アイ・リブ・イン/The House I Live In(原題)】必見ドキュメンタリー:アメリカの麻薬撲滅政策の裏側

ザ・ハウス・アイ・リブ・イン/The House I Live In


メキシコの麻薬カルテルのドキュメンタリー作品カルテル・ランドつながりで、ドキュメンタリー【The House I Live In】を視聴した。

アメリカで流通する非合法ドラッグのうち、実に99.8%がメキシコから密輸入されたものである。カルテル・ランドを視聴できた方は、ぜひ本作も視聴してもらいたい。

 

 

The House I Live In 

監督はエミー賞受賞のユージーン・ジャレッキー監督、制作責任者にブラッド・ピットも名を連ねる社会派ドキュメンタリー。

ドラッグディーラーから麻薬捜査官、刑務所の囚人、裁判官まで、アメリカの刑事司法制度の内側に切り込み、アメリカの40年に渡る麻薬撲滅政策の裏側を暴く。

  • 製作:2012年
  • 原題:The House I Live In
  • 監督:ユージーン・ジャレッキ―
  • 上映時間:1時間48分

リンク先はブラッド・ピットのインタビュー。
ブラッド・ピット、米国の麻薬撲滅政策は「失敗」で「茶番劇」だと批判

筆者がブラッド・ピットを好きな理由の一つは、彼が役者として優れているだけでなく、インタビューを読むたびに彼の知性を垣間見るからである。彼が本作の製作責任者になっていることは知らなかったのだが、監督の名前やらを調べていて、彼が名を連ねていることを初めて知った。

 

The House I Live In の紹介と感想

ブラッド・ピットがリンク先のインタビューで述べているように、確かにリベラル色は濃い作品。ドラッグ使用の原因は、個人よりもアメリカの社会システムにあると批判している。

映画によれば、10万人あたりの囚人数は、世界でもアメリカが突出している。その数は中国、ロシア、サウジアラビアよりも多い。アメリカの人口は世界の5%を占めるが、囚人数ではなんと世界の25%を占めている。

レーガン時代から兆単位の麻薬撲滅政策を進めてきている一方で、麻薬はちっとも撲滅されていない。黒人を麻薬から抜け出さないスパイラルや、殺人などに比べて逮捕率が高い麻薬捜査官へのインセンティブといった刑事システムなど、構造上の障害が立ちはだかっている。

ドラッグの歴史と人種と経済発展といった見えないリンクも紹介していて、これは私には初めての視点だった。たとえばオピウムはカリフォルニアの中国人移民たちが使用していた。中国人移民たちが勤勉に働き、ぐんぐんと経済発展を遂げ、白人たちの仕事を奪っていった結果、オピウムが禁止ドラッグとなる。次は綿農家などで働く黒人のコカイン。コカインを禁止ドラッグにしたあとは、今度は勤勉なメキシコ人とヘンプ(マリファナ)。

現在のアメリカの刑事司法システム上のもっとも不当な点は、コカイン(パウダー状)とクラック(コカインを固めたもの)とで刑罰の差が100倍もあるということだ。オバマ政権時代にやっとその差は17倍にまで下げられたのだが、そもそも二つは同じものである。クラックはコカインに重曹、水を加えてオーブンで加熱しただけである。そして、コカインの主なユーザーは白人、クラックの主なユーザーは黒人なので、必然的に黒人ドラッグユーザーへの刑罰が100倍(今は17倍)も重くなる。

さらに映画では、ドラッグを使用する黒人ユーザーは13%に過ぎないのに、ドラッグで起訴されているのは90%が黒人であるという驚愕の事実も指摘している。確かに、ドラッグユーザーのマジョリティが白人であることを考えると、ドラッグで起訴されているのが90%黒人というのは偏り過ぎていて、そこに何らかの力が働いていることは否めない。

本作を見て気になったのが、押収したドラッグマネーはどこへ行くのかという点だ。映画では、メキシコ国境近くの小さな田舎町で、ドラッグルートとしても知られる幹線道路での検問を紹介していたが、警察官は、押収したドラッグマネーでパトカーも購入したと言う。小規模なので焦点が当たらないのだろうが、大規模な麻薬押収では、押収した金とドラッグはどこへ消えているのだろうか。この辺りにも、もう少し切れ込んで欲しかった。

最後に、内容には関係ないものの、ナレーション(監督?)がガラガラ声だったのが非常に気になってしまった。ナレーションは耳障りではない声優を起用したほうが良かったと思う。

評価:55点